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014 自決と毒

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「でもそうは言っても、食料の入った荷物はアルトに奪われちゃったし……」

 『脱出の転移結晶』を発動する直前、アルトは荷物袋を渡すよう僕に言った。
 あの中には食料の他に幾つかのマジックアイテムも入っていたため、回収しておきたかったんだろう。

 まさかあのやりとりが、ここに来て響いてくるとは。

 とはいえいつまでも落ち込んでばかりではいられない。
 どうにかして、この空腹感を満たす方法を見つけなくては。

「飢餓状態で死んだ場合でも、【無限再生】がちゃんと発動してくれるかは分からないしね。これまでの経験上、ある程度肉体的な回復もしてくれはするんだろうけど……復活後、60分以内にまた死亡なんてことになったら目も当てられないよ」

 そう呟きながら、僕はきょろきょろと周囲を見渡す。
 しかしここはダンジョンの最奥。そう都合よく食料なんてあるはずが……

 その時、ブラック・ファングの死体が僕の目に留まった。

「……魔物の肉か」

 僕は思わず眉をひそめた。

 というのも、だ。
 通常、魔物の肉が食用として流通されることはない。
 魔物が持つ魔力は人間にとって毒であり、食べると様々な悪影響が出て、場合によっては死に至る可能性すらあるからだ。

 しかし、今は状況が状況。
 他の手段などありはしなかった。

「……ふぅ、仕方ないか」

 一度だけ大きく息を吐き、僕は覚悟を決める。
 今は空腹を我慢できたとしても、これは近いうちに必ず解決しなくてはならない問題。
 なら、できるだけ早い方がいい。

 それに万が一毒で命を落としたとしても――餓死とは違い、【無限再生】はきちんと発動してくれるはずだ。

 僕は短剣でブラック・ファングの死体を解剖し、最低限の血抜きだけを行う。
 ここに火炎用のマジックアイテムはないため、もちろん生食だ。

「さあ、いくぞ」

 僕はごくりと喉を鳴らした後、文字通り決死の覚悟で肉を喰らった。
 当然旨味なんてものは一切なく、獣臭さが口の中いっぱいに広がる。
 それでも僕は必死に耐え、腹の奥へと無理やり呑み込んだ。

 そして、もう一度深呼吸。

「ふぅ、全然美味しくはないけれど……まあ、耐えられない程じゃないかな?」

 それに運がよかったのか、毒が回ってくることもな――

「――――ッッッ!?!?!?」

 ――その時だった。
 突然、体中に悪寒と痛みが走った。

 僕は耐え切れず、その場に崩れ落ちた。
 
「っ、くうっ、ううぅっ……!」

 まるで小さな獣が、体内を駆け回っているかのような異物感。
 心臓を突き刺した時の痛みが強火で一気に焦がされるような感覚なら、これは中火でじわじわと内側から溶かされている感覚に近いだろうか。
 いずれにせよ、確実に僕を死へと至らせる痛みであることは間違いない。

 結果、それから徐々に体力を削られること約5分後――僕は再び、命を落とすこととなった。



『魂の再生成が行われます』



 そのシステム音が聞こえた時、僕が考えていたのは堪えがたい痛みに対する恨みではなく――

(ははっ、なんだ……心臓を刺す以外にも、死ぬ方法があったんだな)

 ――そんな風に、死に際とは思えないほど腑抜けた内容だった。
 もしかしたら僕の心は、既に壊れ始めているのかもしれない。
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