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第3話 遭遇

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 それからおよそ一週間が経過した。
 俺は充実感に溢れた毎日の中にいた。

 森の中を歩く途中、地面から生える山菜を摘み取っていく。

「おっ、これは確か数日前に食って美味かったやつだな。今日はこれを中心に煮込んだものを食べるか」

 この一週間でこの辺りに生える食材はほとんど口にした。
 山菜の種類や栄養素は分からず、毒がある可能性もあるのだが、俺には毒耐性があるためそれを気にする必要はない。

 食材を集めた俺は、自分の家に戻る。
 森の中にふっと現れる、木々のない開かれた空間。
 そこにはポツンと小さな小屋が立っていた。

 この小屋は、周囲の木々を使って、俺の手で自ら作り上げたものだ。
 邪神討伐の遠征で野宿には慣れているが、さすがにずっと地べたで眠るというわけにもいかないため、造ってみたというわけだ。

 小屋の周囲に常時展開している、雨風や獣の襲撃を防ぐ結界を抜けた後、俺は小屋の中に入る。
 こちらもまた急造の鍋を取り出すと、小さく唱えた。

「ウォーター、ファイア」


 そして、沸騰した鍋に今日取ってきた山菜を入れる。
 グツグツという音とともに煮込まれていき、食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐる。
 調味料とかは特にないが、こちらに生えている山菜は、向こうの世界にある魔草なんかよりよっぽど旨い。
 俺にとってはごちそうだった。


「よし、できたな」


 出来上がった料理を木皿によそい、木のスプーンで食べていく。
 もちろん、木皿もスプーンも俺が手ずから作り上げた。
 この一週間で、だいぶ物を作ることにも慣れたというものだ。

 料理自体も期待通りかなり美味かった。
 舌に残るピリリとした感覚が、なんとも言えないアクセントとなっている。

「ふー、食った食った」

 食後、腹を撫でながらそう言った。
 人と話したりする機会はないが、誰かに気を使う必要もない、ゆったりとした平和な時間。

 それを堪能していた、次の瞬間だった。


「――――ッ、これは!」


 研ぎ澄まされた俺の感覚が、その存在を捉えた。
 ここから南方に1キロ。
 感知範囲に、魔獣が存在していることを把握した。

 魔獣、それは邪神と同様、悪意の込められた魔力が集結して生み出された災厄。
 邪神に比べれば脅威度は低いが、それでも戦闘訓練をしていない者が倒すことはできない程の強さだ。

「まさか、この世界にも魔獣がいるとはな。いや、魔力があるんだからそれ自体は不思議じゃないか」

 なんにせよ、さすがに放置というわけにはいかないだろう。

「久々の出陣だな」

 そう呟いた後、俺は強く地面を蹴り駆け出した。
 そして十秒後、現地に到着する。

 そこで俺は驚くべき光景を目にした。

「あれは、女の子か……?」

 人の体ほどの高さを誇る漆黒の魔獣の前には、年齢が俺と同じか少し下くらいの少女がいて、尻餅をついていた。
 彼女が纏うオーラが小さかったため、遠くからでは気付けなかったようだ。

 理解できるのは、彼女が今、魔獣に襲われて危機に瀕していること。
 極力この世界の人間にかかわるつもりはなかったが、ここで見捨てるのも寝覚めが悪い。

『ガルゥゥゥゥゥ!』
「きゃあっ!」

 襲い掛かる魔獣と、悲鳴を上げる少女。
 それを見て俺は、素早く聖剣を召喚し――振るった。

 純白の剣閃が空を走り、魔獣の体を一刀両断する。
 それと同時に、魔獣は黒色の靄となって消滅していった。

 ……うん、やっぱり邪神と比べたら雑魚だった。
 たぶんデコピンでも倒せたな。

「……って、あれ? 妖魔ようまは?」

 少女は突然の出来事に、目を丸くしながら周囲を見渡していた。
 まずい、このままだと俺の存在がバレるかもしれない。

「あっ、あそこに人影が。待ってください、話を――!」

 やばい、気付かれた。
 俺を引き留めようとする少女の声を振り払うようにして、俺はその場から立ち去るのだった。
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