吉祥やおよろず

あおうま

文字の大きさ
上 下
37 / 60
本編のおはなし

<第八万。‐不穏の神様‐> ①

しおりを挟む
鹿屋野比売神かやのひめのかみ
 野の神様や草の神様として信仰されている女神で、人間が古くから利用してきたかやを名に関しており、芽吹きを齎す神様であるとされている。
 また、別名として野椎神と呼ばれ崇められることもあるという。

◆◆◆

 そして放課後。奴隷2日目。
 場所はもちろんいけ好かない大国先輩の巣、生徒会執行部室である。
 昨日ご説明を受けた通り、残念なことに今日からいろいろなクラブ活動の活動調査のお手伝いを行うことになっているのだけど。

「ボク思ったんですけど」

「うるさい」

 ちゃんと聞け。そしてしね。

「やっぱり不慣れなボクが行くより」

「黙れ」

 ころすよマジで?

「先輩方二人で行ってきてもらってボクはお留守番してた方が

「やかましいぞチビ」

 マジでくたばれ。
 こいつボクの言葉に全く聞く耳持ってねぇし。役に立たねえその両耳を引きちぎってあげましょうか?
 
「……このゴミクズ役立たず副会長が」

「あぁ?今ゴミっつった?クズっつった?」 

 都合いい事ばっか聞いてやがって。

 ちなみに今日も今日とて放課後になるや否や鞍馬に連行されて、こんな辺鄙なところまで足を運ぶことになった訳である。
 鞍馬の野郎には昨日の夕飯時、ボクがどれだけの重労働を課せられ苦労したかを愚痴ってやったはずなのに、全くというほど気遣いやら同情やらを感じられない。

「それじゃあ二人ともよろしくね~。何かあったら電話して」
 
 などと呑気な発言をかました恵比寿先輩は、さっさと事務机で書き物作業を始め出してしまう始末。
 彼の中ではボクと大国先輩が調査活動に行くという決定を覆す気は毛頭ないのだろう。

「ほらさっさといくぞ」

 大国先輩も大国先輩でボクの意見など塵埃以下だと言わんばかりに、ファイルやらを手にしてお出かけの準備を整えだしてるし。

 いやでもダメだ!ここで諦めたら今日の活動は昨日以上に絶対面倒くさいものになる!
 何としても覆すんだ!説得すんだ!
 行けボク!頑張れボク!

「大国先輩や。適材適所って言葉をご存じですか?」

 ボクの言葉を聞いた大国先輩は出発準備をしていた手を止めて、はぁ?って顔しながらお振り向きなすった。
 何その超絶ムカつく顔。
 ボクも覚えたい。あとでどうやるか教えてくれ。

「なんだ突然。意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ」

 あぁ~意味わかんないかぁ。
 学がないなぁ学がぁ。ちゃんと勉強しなさいよぉ?

「はぁ……馬鹿だなぁやれやれ。いいですか?適材適所ってのはですね、つまりそれぞれの人間にはその人に適した仕事があるって意味で」

「おい、馬鹿が俺のこと馬鹿してくんな。言葉の意味がわかんねぇわけじゃねえよアホが。この期に及んでくだらねぇこと言ってる暇があるなら少しは荷物もつの手伝えって意味で言ったんだよボケが」

 いやどう考えてもそんなこと言ってなかったよね?
 意味わかんないこと言うなでそこまで察せられる人間おらんて。

「だったらわかるでしょう!ボクには100%不向きな仕事なんですってっ!慣れてるお二人で仲良くホモホモしながら行ってくればいいでしょうが!?」

 あ~怒った顔してる。
 や~い短気ぃ~。怒りっぽ星人~。ぷひゃ~!

「……ふぅ。お前すげーな」

 準備は終わったのか、ファイルやら書類やらを入れたトートバックを肩にかけた大国先輩が近づいてきたもんだから思わず身構えたけれど、ボクの予想に反して大国先輩は溜息一つ吐いた後でいきなりボクに媚びへつらいだした。

「な、なんですか急に褒め出して。その殊勝な態度は良きものですが今はそんな誉め言葉はいらないんでボクを解放してください」

 ボクの言葉を受けてニコッとボクの前で初めて笑った大国先輩は、ボクの両肩にポンッと手を置いた。

「お前が一言喋るごとにいちいち俺の怒りのボルテージを上昇させていく。未だかつてここまで鬱陶しい人間に出会ったことがないぞ」

 なんですか怒りのボルテージって。
 アンタはタケシのイワークかなんかか?

「って!うえっ!?」

 そのままボクの隙をついて、例によってひょいッとボクを肩に担ぎ上げた。

「もう決まりきったことにグダグダぬかしてんじゃねぇ!ピーチクパーチクうるせぇ上に一々癪に障ること言いやがって!時間がもったいねぇからもうこのまま行くぞクソチビが!」

「ふざけんな!毎回毎回担ぎ上げやがって!離せ~!」

 この数日でわかりきったことだけど、背中をポカポカ叩こうともボクの身体を拘束する手は全然緩むことがなく。

「おい福。コイツの口と両手足」

「はいはい」

 さらにムカつくことに、ここ数日のおかげで大変に手馴れてしまった恵比寿先輩の手付きで、ボクの口と手足はガムテープ塗れにされるに至り。

「んじゃ伊呂波ちゃん。是非とも頑張ってきてね~」

 このようにして、ボクのご不満謎団体ツアーは始まったのだった。

◇◇◇

 目的地に向かう道中、ボクら二人は部活動に励むリア充や友達とワイワイキャッキャッしてるリア充共の奇異の視線に晒されていた。

 やべぇ。最近同じような機会が多すぎて何か恥ずかしくなくなってきた。
 注目を集めている羞恥心も、ボクを人として扱っていないようなこの持ち方に対する不満も、ガンガンに薄れてきているとか。
 慣れとかいう人間の適応能力ってホント恐ろしい。

「何も知らないままだとただでさえ役立たずのお前は、只のやかましいお荷物のままでしかないからな。各団体への活動調査業務の大まかな説明だけしとくぞ」

 とても酷い暴言である。
 せめてもの反抗で背中に頭突きかましてやる。うりゃあ!

「痛っ……流石に無知なお前を無知なままで使ってやるのも骨が折れそうだからな。無知であることを恥じて少しは賢くなるように努めろ」

 ムチムチうるさいな!昼下がりの熟れた団地妻か!この男子高校生め!いやらしい! 
 てかこの男懲りずに依然としてボクのことを罵倒し続けるとか。
 おら!くたばれっ!背骨折れろ!うりゃ!

「うぎっ……だから暴れんなっての。今俺らが向かっているのは第二サークル部室棟という建物だ。八百万学園には部活動用に部室棟が二棟、研究会や同好会とかのサークル活動用にサークル部室棟が二棟用意されている」

 なんか大国先輩による講座が始まった。
 そもそも部活動とかに入る気がなかったから、確かにそこらへんの事情をボクは全く知らなかった。

「部活動に関してはもうすでにおおむねの活動調査を終えているからお前が行くことはないだろう。お前に立ち会ってもらうのは各サークル活動の調査だ」

 鞍馬が入部したのは空手道部と剣道部だし、この活動中にあの裏切り者に会うことはないということか。
 あ、でもさよちゃんはピアノの会って同好会にも出入りしているって話してたし、もしかしたら会う機会もあるかも。
 それに鹿屋野先輩も、確か園芸クラブに所属してるって言ってたし。

「第二サークル部室棟に関してだが、こっちは研究会が多い。んで、第二に比べると第一サークル棟の方は芸術系や音楽系のサークルが使用している。と言ってもまぁ完全に明確に分かれているわけではないけどな」

 ってことは第一が陽キャ系で第二が陰キャ系ってことかな?

(その表現の仕方は流石に失礼な気がしますが……)

「ちなみに面倒だから部活動以外の団体を総称してサークルって言う事にするが、全てのサークルがサークル棟に部室があるわけでもサークル棟の中で活動しているわけではない」

 ん?どゆこと?

「サークル棟内の部室にも限りがあるからな。それに運動系のサークルは部室を持たずに更衣室や空き教室で着替えて、屋外や空いている体育館の使用許可を取って活動しているところもあるし、一部の服飾サークルは校舎内の被服室や家庭科室を使って活動している」

 あぁそっかなるほど。
 だからあの二人いつも第三被服室に居座っているのか。

(あの二人……天羽槌雄神あめのはづちおのかみ様の御家のふみちゃんとしずちゃんですね。そういえば最近はあまりお会いする機会がないですね?)

 今のところは会いに行く理由もないからね。
 第三被服室、地味にボクの教室から遠いし。

「話が脱線したから本筋に戻すが、お前にやってもらうのは俺が書類をチェックしてる間にそのサークルの活動体験をしてもらう」

 え?待って?
 それだけ聞くとなんか楽しそうじゃない?

(現金な子め……)

「活動内容が人様に言えない、体験してもらえないってのじゃ話にならないからな。体験できる活動は体験して、そのサークルの活動内容に危険性やらの問題がないかを確認するのが今日のお前の仕事だ」

 いやぁもっと堅苦しいのを想像してたよ~。
 報告書類の確認は全部大国先輩がやってくれるみたいだし?なんかオリエンテーションみたいで普通に退屈しなさそうじゃん。
 なんか全力で拒否してたのが馬鹿みたいだよ。

(なんか一気にテンション上がってますね……)

「まぁ活動報告や小規模な発表会や出し物を鑑賞する場合もあるから、全部のサークルで体験確認をするわけでもないが」

 全然オッケ~☆
 まぁしらない分野の発表聞いてるとかはちょっぴりダルイしなるべくなら体験多めがいいけどね!

「ほら着いたぞ。ここまで来て逃げんじゃねえぞ」

 そう言って釘を刺してからボクの身体を地面に下ろし、ガムテープによる拘束を外してくれる大国先輩。
 ここまで遠かったけど運んできてくれたから全然疲れてないし、ボクのお手伝いとやらも全然辛そうなものじゃないし。

 なんだよぉ大国先輩ったら結構気が利くとこあんじゃん!
 さすが学生の代表!生徒会の副会長様だね!

(手のひらの返し具合がえぐ過ぎますよ伊呂波ちゃん)

 初めて訪れた第二サークル部室棟とやらは、ボクの想像をだいぶ裏切るレベルで大きな建物だった。外から見た感じでは二階建てで、しかも建物外にはベンチや自動販売機もあったりする。
 今もベンチに座って雑談しているグループが何組かいるし。
 確かにこんな環境が与えられているのなら、サークルに所属している学生たちは放課後もこの場所で青春時間を満喫できたりもするのだろう。

「そこが入口だ」

 そういって入口に向かう大国先輩の後をトコトコと付いて行った。
 まぁ確かに知らない人とたくさん関わるっていう点で正直ちょっと面倒くさくはあるけれど。
 それにペナルティって理由での生徒会の活動手伝いだったから、もっとしんどいような調査サポートを想像してたけれど。

「今日の予定では三つのサークルを回ることになっている。それが終わったらお前も一緒に一旦執行部室に戻るからな」

 でももしかしたら体験した上で作ったものを持って帰ったりとかできたり?
 他にもサークル活動で調理した物を試食できたりもするかもしれないよね?

「おい吉祥!ちゃんと聞いてんのか?」

 ベンチでたむろする学生たちのボクら二人に向けられる注目やらヒソヒソ話を横目に見ながら入ったサークル棟内の入口脇には、管理棟室のプレートが掲げられた部屋があったり壁一面を覆うような掲示板があったりと、初めて訪問したボクの興味を引くような設備があったりして正直ワクワクしてきた。

「はいはいちゃんと聞いてますって大丈夫です!それで!まずは何ていうサークルの活動調査に行くんですか!?」

「うおっ……あんなに嫌がってたのにいきなり乗り気になりやがって。まぁ駄々こねたり逃げられるよりは断然マシだが……」

 わぁ!なんだろあのショーケース!なんか飾られてるみたいだけど!

「まぁいいか。本日の活動調査を行う1つ目のサークルは」

 ロビーも広いしソファとかも置いてあるのかぁ!すごいなぁ!
 あ!なんかチラシとかパンフレットも置いてある!サークルのやつかな!
 
「昆虫食研究会だ」

 ボクはその場から逃げ出した。

◇◇◇
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。 父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です *進行速度遅めですがご了承ください *この作品はカクヨムでも投稿しております

処理中です...