吉祥やおよろず

あおうま

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本編のおはなし

<第六万。‐不遜の神様‐> ⑥

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◇◇◇                  

「ぜったいにイヤッ!!!」

「嫌じゃねぇ。駄々こねんな」

 そんなに睨んできたって嫌なもンは嫌だよ仙兄!
 てか駄々ってなんだ!
 幼稚園児かなんかだと思ってんのか!ちゃんと学園生扱いしろ!

「無理なものは無理!イヤったらイヤッ!」

 仙兄の眼光から逃れるのと否定の意思を示す為にも、ボクは首をプイッと横に振った。

(いやどうみても幼稚園児の駄々じゃないですか)

 んじゃもう駄々でもわがままでもなんでもいいよ!
 何て侮辱されてもそんなん今はどうでもいいし!

「そもそもは伊呂波の自業自得だろうが!嫌々喚いてないで諦めろ!」

「だとしてもイヤなもんは嫌だし無理なもんは無理!」

「チッ、ホントにこのガキャ……」

 そう悪態を吐くや仙兄はソファから立ち上がり、ボクの頭をむんずと掴んでガクガク揺さぶってきやがった。

 んあぁぁぁっ!
 やめろやめろぉ!変な嫌がらせすんなぁ!

「お前に否定する権利何てねぇんだよ!俺だって心底嫌だが執行部の活動として仕方なく受け入れなきゃいけねぇんだ!わがままいってんじゃねぇ!」

 校内で教師から理不尽な暴行を受けている学園生を助けようともしない無能なクソ副会長も、ここぞとばかりにボクを糾弾してきやがった。
 まるでさっきボクに鼻で笑われた鬱憤を晴らしているかのようだった。

 この男、本当に器が小さくて可哀想である。 
 とっとと改めろ。そしてくたばれ。

「そんなに嫌なんだったらアナタも拒絶してくださいよ!なんとか出来ないんですか!ホントに無能!役立たず!」

「あぁ!?」

 痛い所を疲れて逆上したのか大国先輩までソファから立ち上がり、ガクガク揺さぶられてるボクのほっぺ挟むようにをグワシッと掴んで来やがった。

「仙兄も言ってたようにテメェの自業自得だろうが!てかなんだそのふざけた顔は!タコみたいな口しやがっておちょくっとんのかクソチビ!」

「あんひゃはふひゃんへるへいへひょうは!ふははへ!!!」

 ちなみに『あんたが掴んでるせいでしょうが!くたばれ!!!』と言ったつもりでした。
 ボクの気持ち届いたかな?

「何言ってるかわかんねえんだよ!ふざけやがって!まともなコミュニケーションもとれねぇんか!?」

 ですよね。
 てかんじゃその手をまず放そうね?
 アンタのせいなのにその罵り、理不尽ってレベルじゃないよね?

「あははははっ!おい円、写真撮っとけ。伊呂波のこんな不細工な顔滅多に見れたもんじゃねぇぞ」

「わかった。来週の校内新聞に提供して学園中に張り出そう。みんな喜ぶぞ」

「ひゃへろっ!はなひぇ!ひゃらふなぁ~!!!」

 大の男が二人掛かりでとか恥を知れ!
 なんでボクがこんな凌辱されなきゃいけないんだ!

「ほらほら三人とも落ち着いて。ようやく伊呂波ちゃんにペナルティの内容を話せたんだから、いちいち本題から脱線させないでよ。この調子だと解散が冗談でなく深夜になっちゃうよ?」

 渡りに船とはこのことか、心優しい恵比寿先輩が二人がかりで暴行されているボクを助けるために声を上げてくれた。恥ずかしい写真を撮られるのは防ぐことが出来たけどもっと早く助けて欲しかった。 
 ボクの心には二人掛かりで乱暴されたという傷が残ってしまったし。

 各々がそれぞれ座ってた位置に戻り、ボクは非道な暴漢たちからようやく解放された。
 美の女神である吉祥天様からの寵愛を受けているボクに対して、あのような惨い行いと不細工という最大級の侮辱とか。
 ホントに許すまじ。絶対に忘れないからな。

 てかもうずっとだけど、本題とやらから一々脱線し過ぎじゃない?
 生徒会役員や教師のくせして真面目な話一つすらスムーズに進めることが出来ないの?無能極め過ぎてて石ころにも劣らない?

「ふぅ……さて伊呂波ちゃん。全力で拒否してくれたのに申し訳ないけど、もう諦めて従ってもらうしかないんだよ。素行不良に対するペナルティとして、明日から」

「生徒会の奴隷になれっていうんですよね!?」

 ふざけんな!そんなの受け入れられるかっての!?

「いやそんな、奴隷だなんて人聞きの悪い」

「ああそうだ!明日からお前は俺たちの奴隷だ!覚悟しとけやっ!」

「おい。円ちょっとマジで黙って。黙れないならそこら辺で死んでて」

 温厚であろうはずの恵比寿先輩は明らかにイラっとした顔を見せながら、ティッシュ箱で大国先輩の後頭部をぶん殴って無理矢理黙らせていた。
 いいぞ!もっとやれ!全力でふんじばれ!泣かせろ!

「円の妄言はおふざけだから気にしないでいいからね?それより奴隷なんて酷いものじゃなくて、只のお手伝い、まぁボランティアみたいなものだから」

 生徒会執行部の管轄らしい学園生活での素行不良に対するペナルティとは、明日からの生徒会活動のお手伝いというものらしかった。
 でも大国先輩に従ってアレコレさせられるとか、しかも無償のボランティアとか本気で嫌で仕方ない。
 誰かの為に汗水垂らしてなにかするなんて、そんなのボク自身が一番向いてないって自覚もあるし。

「他の方法ないんですか!生徒会の奴隷以外の方法は!?」

「他の方法って言ってもねぇ。そもそも伊呂波ちゃんみたいなケースが稀だし、生徒会活動へのボランティア参加が問題児への救済措置ってなってるからなぁ……それを拒むようならもう処分措置ってことになって、停学とかって事態にもなりかねないよ?」

「んじゃ停学でいい。停学の方がいい」

「チッ」

 ボクの返答を聞くや、仙兄はボクの後ろまでわざわざ回り込んできて制服の襟をグイッと引っ張ってきた。

「良い訳ねぇだろボケナス。伊呂波が停学なんかになったら宝さんにも迷惑かかるだろうが」

 ボクの耳元に口を近づけた仙兄は、チビっちゃいそうなほどにドスの聞いた声でボクを叱責なすった。

「た、宝ちゃん宝ちゃんて、仙兄ったら本当に宝ちゃんのこと好き過ぎでしょ……」

「うっせ。余計な事言うな」

 ガシガシと髪の毛をかき混ぜられた。いちいちセクハラしてくるな仙兄は。
 ボクの可愛さ故か。魔性かボクは。

(仙人君は昔っから吉祥家の人たちのことが大好きですからねぇ。宝ちゃんにはずっとお熱でしたし)

「……はぁ。もうどうにもならないってことだよね」

 今日一日の疲れもあってもう抵抗するのも億劫に感じたし、これ以上どれだけゴネようとも無駄なのだと、流石のボクでも観念するしかないのだと察せざるを得なかった。

「そうだねぇ。まぁ明日から宜しく頼むよ伊呂波ちゃん。ほら、円」

 恵比寿先輩に促され、大国先輩はボクを見つめるやその口を開き。

「まぁさっきは興が乗って奴隷などと言い過ぎた節はあるが。八百万学園生徒会執行部の副会長、大国円として改めて通告させてもらう。八百万学園普通科一年、吉祥伊呂波。お前には明日より、生徒会執行部への活動協力をしてもらう。これは決定事項だ」

 さっきまでの情けない姿は何処へやら、堂々とそう言い放ったのだった。
 その時に限っての大国先輩のそんな姿は確かに生徒会次席に相応しいくらいには、威厳と自身に満ち溢れているように見えた。

「はぁぁぁぁ……」

 ああもう、本当に。

 明日からの学園生活はきっと、今まで以上に面倒な日々を送ることになるのだと。
 そう思って嘆いてしまうボクの考えは、おそらく外れることはないのだろう。

(明日から頑張りましょうね!伊呂波ちゃん!)

 ボクの気持ちも露知らず。
 ボクの神様は何故か楽しそうにそう呟いたのだった。

◇◇◇                 

 このような経緯を経て。

 ボクは大国先輩や恵比寿先輩との初対面を済ませ―――

 ―――明日から、生徒会執行部の奴隷、もとい、お手伝いをすることになったのである。

◆◆◆ 
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