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本編のおはなし
<第六万。‐不遜の神様‐> ④
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「いやぁ、ごめんねぇ伊呂波ちゃん。あんな勢い良く突っ込んでくるとは思わなかったから」
ボクのおでこに大ダメージを与えたことを詫びてきたのは、生徒会執行部の役員らしい恵比寿福也先輩とやらだった。
たしかに鞍馬の言っていた通りに人の好さそうな顔をしている。
後頭部に手を当てながら申し訳なさそうに、素直に謝ってくれた恵比寿先輩の態度には確かに好感が持てたし、横暴の権化である大国先輩と比べたら確かにコミュ力は高そうだ。
「んん~!んん~ん~!!」
だけど恵比寿先輩の人となりなんぞ、今のボクにとってはあまりにも些細な事だった。
「おい福。そんなやつに詫び入れる必要なんかないぞ」
「そうだぞ福也。伊呂波の自業自得だ」
お前らホント覚えてろよ。
今すぐ生徒会室もろとも巻き込んで自爆してやろうか。
(そんなドラゴンボールのチャオズみたいな技使えないでしょうが……)
いやいやいまの怒りのエネルギーを爆発させればそんくらいできそうな気がする。
そんくらいには不当な扱いを受けているんだけど!?
「んっ~!んんんんっ~!!!」
恵比寿先輩よ、申し訳ないと感じてるなら今のボクの扱いを早くどうにかしろ!
「円も布袋先生も酷い言いようだね。確かに逃げようとした伊呂波ちゃんにも責任はあるかもしれないけど」
恵比寿先輩とクソヤクザ、そしてクソの三人の視線がボクに向けられる。
「両手足縛った上に口にもガムテープ張って口封じするのはやりすぎなんじゃ……」
「んんんん~!!!んんんんんんっ~!!!!!」
恵比寿先輩がご丁寧に説明してくれたように、ボクは両手足と口を拘束されるという大層に惨い扱いをうけて、先程まで座っていたソファに転がされていた。
「逃げようとしたそこのチ……いや、そこのピグミーマーモセットが悪いんだ。やりすぎなんてことはねぇ」
いや仙兄?いらないよそんな気遣い。もう素直にチビなサルって言えばいいじゃんか。
なにオブラートに包んでんねん。寧ろちょっと高度な罵り方になってるし。
「ああしとかないとまた逃げ出しそうだしな。あのコモンリスザルは。それに口も塞いどかないと永遠にやかましく騒ぎ続けるのは目に見えてるし」
大国先輩も乗ってくるなや。
古今東西チビなサルの名前でもやってんのか。
(たしかにスローロリスちゃんのせいですからね~。都合の悪い事から逃げ出そうとするいつもの逃げ癖のせいですよ?)
おい。吉祥ちゃんも便乗すんな。
てかなんでみんなしてそんなサルの種類に詳しいねん。
「でもこのままじゃ伊呂波ちゃんが何を言ってるかわからないし、口のガムテープくらいは外してあげないと」
そう言うなり、恵比寿先輩はボクの口に張ってあったガムテープをペリリと剥がしてくれた。
「っぷはぁ……はぁ……はぁ……」
「大丈夫かい伊呂波ちゃん?苦しかったよね」
ようやっと息苦しさから解放された。
はやく両手足の拘束も解いて欲しい限りである。
「……恵比寿先輩。あなたに恨みはありません。悪いことは言わないので今すぐに逃げてください」
「え?いや逃げるって」
「あそこの二人もろとも自爆することにしました。あのクズ共を地獄に道ずれにしてやります」
「……そんなサイバイマンみたいな技が使えるのかい君は?」
恵比寿先輩は初めて会話するであろうボクの第一声に、なにやら恐れ戦いてるようだった。
いや、恐れ戦いてはいないか。ただドン引いてるだけだわコレ。
「ほらな?口を開けば下らねぇことしか言わねぇんだよ」
「そうだぞ福?やかましいからもう一回テープ張っとけ」
口を開けばやかましいのはお前らじゃ!
とんでもねぇ扱いを是としやがってからに。
「アンタら先に謝罪でしょうが!ないこの扱い!今すぐボクを解放しろ!!」
後ろ手に縛られている手や足を思い切り動かしてソファの上でドタンバタンと暴れて抗議するも、仙兄も大国先輩も迷惑そうな顔をするだけで、一向に座ったままでピクリと動こうともしなかった。
ただただボクが疲れただけだった。
「暴れんな。埃が舞うだろうが」
大国先輩は大層うっとうしそうにボクに向けてご忠言なさった。死ね。
「解放した途端またぞろ逃げるだろうが。自分の行いを鑑みて反省しろ。な?」
ようやく立ち上がったと思った仙兄はわざわざボクの傍まで寄ってきて、『な?』とかほざきながらおでこをペシペシ叩いてきた。死ね。
「おでこ叩かないで!それでも両手足縛られるほど悪いことはしてないでしょうが!なんだこの罰し方は!戦時中の捕虜か!」
何をどうすれば学園内でこんな扱いを受けて納得できるんだっての!
戦時中の敵陣内じゃあるめぇし!
「まぁまぁ落ち着いて?ちゃんと話が全部終わったら解いてあげるから」
恵比寿先輩に宥められて、もうその話とやらを聞くことでしか助かる道はないのだと諦めるしかなかった。
それにもう騒ぎ暴れ疲れた。横暴なドS二人もボクの言う事を聞く気はさらさらないみたいだし。
もうなんでもいいから、早く話とやらをして終わらしてもらおう。
あぁ本当に今日は確実に厄日であるとしか思えない。
なんとかしてあのクズたちに一矢報いたいなぁ。
ボクは一人心の中で、目の前のクソ共の不幸を願わずにはいられなかった。
◇
「ようやく諦めたようだしさっそく本題に入るぞ。おい吉祥、お前を今日ここに連れてきたのはだな」
「さっき大国先輩が仙兄をめちゃクソ貶めるような噂を拡散するって言って笑ってました」
「「はぁっ!?」」
ボクが諦めたように落ち着きを見せたことで、しきりなおしという雰囲気になったのを見計らってボクは爆弾を投げ付けた。
よしっ!
仲違いしろ!醜く争い合え!
(うわぁゲスが過ぎる。やり方がこざかし過ぎますよ……)
吉祥ちゃんに呆れられようが構わない。
今のボクは口だけでしか抵抗する術がないのだから、こういう方法を取るしかないのだ。
「お前!なにデタラメ言ってんだ!」
デタラメじゃないも~ん☆
さっきアンタが本当に言ってたから嘘にはならないも~ん。
「んな下らねぇこたぁ良いからいい加減ちょっと黙ってろや!一生喋んな!」
「……いや待て円。俺は伊呂波の言った噂とやらに大変興味がある。そっちを先に聞かせてもらおうか」
大国先輩は慌てたように話を本題に戻そうとしたが、ボクの計画通り仙兄は食いついてきてくれた。
仙兄のキツめの視線が大国先輩に向けられる。
「はぁ!?いや仙兄まさかあいつの与太話を真に受け」
「布袋先生が学園生と個室でアブノーマルなプレイに興じていたって噂で学園中をにぎわかしたいらしいです!!!」
大国先輩の弁解を掻き消す様にボクは大声で叫んだ。
だれが自己弁護なんかさせるか!潔くくたばりやがれ!
「おまっ!ふざけんなよ吉祥!」
「仙兄も落ちたな、みたいなことも言っていた気がします!!!」
「んなことは言ってねぇし!」
あれそうだっけ?
あー、三人で地獄に落ちようだったっけなぁ。
ちょっと間違えちゃったかな?てへっ!
(わざと間違えたくせして。本当にたちが悪い子……)
人聞きが悪いなぁ。
誰にだってちょっと間違えちゃうことくらいあるでしょうが。
故意じゃない故意じゃない。
「円、キミってやつは……」
恵比寿先輩までもが呆れたように大国先輩を糾弾し出してくれた。
なんでボクの発言を信じてくれてるのかはわからないけど味方が増える分には構わない!
仙兄も恵比寿先輩ももっと問い詰めて!
そのまま今日の本題とやらも有耶無耶で終わらせて!
「福までそのチビのホラ話を信じんな!どう考えても苦し紛れの嘘だろうが!」
大国先輩の言う通りさきほどまでのボクと大国先輩の会話を聞いていなければ、どう考えてもボクの苦し紛れの与太話だと思うのが普通だろう。
だけど先程のボクたちは、我を忘れて言い争いがヒートアップしていたのが幸いしたっぽい。
「いやぁ伊呂波ちゃんが逃げた時の保険で部屋の外で待機していた時に、円が伊呂波ちゃんの言っていたような発言をしていたのが微かに聞こえて来たからねぇ。どんな会話してるんだって気になってはいたんだよ」
まさかの証人が現れておいでなすってくれた。
ボクだけじゃなく恵比寿先輩までもが聞いていたとなれば、仙兄も当然のように信じるに違いねぇ!
やったぜべらぼうめ!
「なるほどなぁ。まどかぁ?伊呂波だけでなく福也まで聞いていたってなるとやっぱり真実みたいだなぁ?えぇ?」
そう言うなり仙兄は大国先輩の両肩にバンバンと手を置いて、とてもいい笑顔を浮かべたのだった。
「痛たたたた!仙兄ぃ!なにその握力!肩もげるって!?」
「それじゃあ聞かせてもらおうか?その愉快なオレの噂話ってやつの真相をなぁ!」
うわぁ……こわ~い……。
仙兄はいかつい外見に反して実はあまり本気で怒ることはないのだけど、だからこそイラついている時や本気で怒っているときなどはそりゃもう大層に恐ろしいのだ。
「ちょ!待ってっ!弁解を!弁解をさせてくれぇ~!!!」
ボクが仕掛けたこととはいえ。
流石にほんのちょっとばかりは大国先輩への同情を感じずにはいられなかった。
いややっぱ嘘。めちゃくちゃいい気味ねぇ!オホホホホ!
◇
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