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転機
8.二人で寝られる
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「…あの…二人寝られるって…」
僕は寝室の扉を開けた所で、呆然と立ち尽くした。
「あぁ、寝られるだろ?」
藤堂さんは当然とでも言うような口調で返す。
「確かにそうですけど…でも」
そう、これは…
「…でも、これ…。これ、ダブルベッドじゃないですかッ!!?」
「…キングベッドだよ。ホワイトアッシュの一枚板から切り出したベッドフレームを使った逸品で、パリで対局があったときにわざわざリヨンまでを足を伸ばして探して、自家輸入したんだ。木目が整然と均一に流れていて美しいだろ?」
藤堂さんは少し自慢げに訂正する。
「スゴく素晴らしいベッドなのは分かるんですけど…ココに二人で寝るんですか!?」
真っ当な疑問だ。
「何か問題でも?」
「問題ですよ!男同士で二人で寝るって…」
「可愛い女の子が良かったかな?」
からかうような声色。
「そういうわけじゃないですけど…」
「別に男同士で雑魚寝なんて珍しくないだろ?場所がラグの上か、ベッドの上かの違いだけさ。それに、これだけ広いんだ、別に多少寝相が悪くたって、寝言がうるさくたって問題ないさ。それとも他に理由があるのかい?」
「あります…だって…」
「だって?」
僕は言葉に詰まった。
『だって、襲われるかもしれないじゃないですか!』
これが二枚寺先輩ならそう冗談っぽく言うことも出来るが、まさか藤堂さん相手にそんなことは口が裂けてもいえない。
けれど、その事に触れずに拒絶する言葉を探そうとしても適当なものが見つからない。
「遠慮する必要はないさ。男同士なんだし、これからも俺の家に来る度に緊張してたらキリがないだろ?気楽にして」
「はい…」
結局上手く丸め込まれる形で僕はベッドに入った。
マットレスにゆっくりと体重をかけると、僅かに沈み込み、体を包み込むように形を変える。
こだわりの逸品というだけあって、寝心地は抜群で、身体がベッドと一体になったような錯覚を覚えるほど心地よい。
本当ならすぐに眠りに落ちてしまいそうな感覚だけど、疲れきった身体とは別に僕の心臓は激しく脈打ち、頭は冴える一方だ。
すぐ隣には、ずっと憧れの存在だった『名人』藤堂恭介。
キングサイズのベッドでも、その距離は手を伸ばせばすぐに触れられるほど近い。
藤堂さんはもう寝ているのだろうか。
寝息にも似たかすかな呼吸音だけが、寝室を支配する。
僕は冷凍された魚のように身じろぎすら出来ず、必死に目を瞑る。
そう、眠ってしまえば気がつけば朝になっていて、きっと全ては杞憂に終わる。
『なんだ、やっぱり勘違いだったんだ』
情けない失敗談として、いつか誰かに笑い話として話すかもしれない。
プロになった僕が、祝勝会で酔意い任せて藤堂さんにもこの話をして『そんな妄想しているなんて、天野君こそそういう趣味があるんじゃないの』とからかわれて、僕は必死に否定する。
そんな未来がベストだ。
そんなことを考えていると、この広い部屋で僕だけが縮こまっているのがバカらしくなってきた。
寝返りを打ち、カニみたいにガチガチに強張っていた筋肉をほぐす。
スッ
音もなく何かが滑り込む感触。
『えっ?』という言葉をギリギリの所で飲み込む。
太ももに感じるほのかなぬくもり。
それは僕の体温じゃない。
僕は再び身を固くした。
相変わらず部屋には僕の心拍音と藤堂さんの寝息だけが響き渡る。
ただ、その寝息が少しだけ熱を帯びている、僕にはそう感じられた。
僕は寝室の扉を開けた所で、呆然と立ち尽くした。
「あぁ、寝られるだろ?」
藤堂さんは当然とでも言うような口調で返す。
「確かにそうですけど…でも」
そう、これは…
「…でも、これ…。これ、ダブルベッドじゃないですかッ!!?」
「…キングベッドだよ。ホワイトアッシュの一枚板から切り出したベッドフレームを使った逸品で、パリで対局があったときにわざわざリヨンまでを足を伸ばして探して、自家輸入したんだ。木目が整然と均一に流れていて美しいだろ?」
藤堂さんは少し自慢げに訂正する。
「スゴく素晴らしいベッドなのは分かるんですけど…ココに二人で寝るんですか!?」
真っ当な疑問だ。
「何か問題でも?」
「問題ですよ!男同士で二人で寝るって…」
「可愛い女の子が良かったかな?」
からかうような声色。
「そういうわけじゃないですけど…」
「別に男同士で雑魚寝なんて珍しくないだろ?場所がラグの上か、ベッドの上かの違いだけさ。それに、これだけ広いんだ、別に多少寝相が悪くたって、寝言がうるさくたって問題ないさ。それとも他に理由があるのかい?」
「あります…だって…」
「だって?」
僕は言葉に詰まった。
『だって、襲われるかもしれないじゃないですか!』
これが二枚寺先輩ならそう冗談っぽく言うことも出来るが、まさか藤堂さん相手にそんなことは口が裂けてもいえない。
けれど、その事に触れずに拒絶する言葉を探そうとしても適当なものが見つからない。
「遠慮する必要はないさ。男同士なんだし、これからも俺の家に来る度に緊張してたらキリがないだろ?気楽にして」
「はい…」
結局上手く丸め込まれる形で僕はベッドに入った。
マットレスにゆっくりと体重をかけると、僅かに沈み込み、体を包み込むように形を変える。
こだわりの逸品というだけあって、寝心地は抜群で、身体がベッドと一体になったような錯覚を覚えるほど心地よい。
本当ならすぐに眠りに落ちてしまいそうな感覚だけど、疲れきった身体とは別に僕の心臓は激しく脈打ち、頭は冴える一方だ。
すぐ隣には、ずっと憧れの存在だった『名人』藤堂恭介。
キングサイズのベッドでも、その距離は手を伸ばせばすぐに触れられるほど近い。
藤堂さんはもう寝ているのだろうか。
寝息にも似たかすかな呼吸音だけが、寝室を支配する。
僕は冷凍された魚のように身じろぎすら出来ず、必死に目を瞑る。
そう、眠ってしまえば気がつけば朝になっていて、きっと全ては杞憂に終わる。
『なんだ、やっぱり勘違いだったんだ』
情けない失敗談として、いつか誰かに笑い話として話すかもしれない。
プロになった僕が、祝勝会で酔意い任せて藤堂さんにもこの話をして『そんな妄想しているなんて、天野君こそそういう趣味があるんじゃないの』とからかわれて、僕は必死に否定する。
そんな未来がベストだ。
そんなことを考えていると、この広い部屋で僕だけが縮こまっているのがバカらしくなってきた。
寝返りを打ち、カニみたいにガチガチに強張っていた筋肉をほぐす。
スッ
音もなく何かが滑り込む感触。
『えっ?』という言葉をギリギリの所で飲み込む。
太ももに感じるほのかなぬくもり。
それは僕の体温じゃない。
僕は再び身を固くした。
相変わらず部屋には僕の心拍音と藤堂さんの寝息だけが響き渡る。
ただ、その寝息が少しだけ熱を帯びている、僕にはそう感じられた。
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