クソザコ魔王の夜食係

ときねず

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その1:異世界召喚ってこんな簡単でしたっけ?

はじめまして、一般人です

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「あっどうも。異世界の一般人です」

ここで名刺の1枚でも持っていたら俺も根っからの社会人なので自己紹介でもはじめたのかもしれない。しかし今の装備は部屋着のスウェットに発泡酒の空き缶しかない。中身は魔王様いじめをツマミに全部飲み切ってしまった。
とりあえず魔王とその部下と思われる人たち(化け物たち?)相手に頭を下げて挨拶をしてみる。

「あっどうも、魔王です。この度はご迷惑をおかけしてすみませんね。ほらお前らも謝れよ」
「嫌ですよ、魔王様が悪いんだから許してもらえるまで誠心誠意1人で謝罪しておいてください」
「ねぇ、魔王様いじるの飽きたから帰っていい?てか定時だから帰るね」
「ごめんな、うちの魔王バカが」

なんかうるさくしてごめんなさいね、的なノリで異世界の魔王に謝られた。そしてそんな魔王は部下的な人たちには邪険にされている。メデューサに至ってはさっさと部屋から出て行ってしまったし。やっぱり威厳なんてなかったんだな。

「あの、やっぱりここは異世界なんですか?」
「あー、そうですね。俺たちから見て君は異世界人だから君から見た俺たちは異世界人だろうね」
「そもそもなんで俺はこんなところに来てしまったんでしょうか。家で酒飲んでたはずなのに」
「それは……うーん、説明めんどいからルーくん頼んだ」
「やだなぁ、魔王様とあろうお方が召喚魔法ごときの説明もできないと言われるんですか?」
「ルーくん、ここに魔王城食堂のスペシャルランチ券があってだな」
悪魔が魔王を煽るように言うが、魔王がポケットから出した神を見て手のひらを返す。
「僭越ながらわたくしが説明さていただきますね。それはですね、この世界には召喚魔法っていうのが存在するんです」
「おお、ちゃんと異世界っぽい」
「ちゃんと?」
魔王が訝しげに聞いてくるが悪魔はそれを無視して話を続ける。
「召喚魔法というのはその名の通り、他の場所から他の生物を自分のところに呼び寄せる魔法です」
「普通は兵隊の移動とか、早馬代わりに使う魔法なんだけどな」
ユーシェンが横から解説を入れてくれる。
「ただし、今回使われた召喚魔法は異世界に繋がる上位魔法の一種で使える人材が限られているんです。その上、魔法陣を書くのにも、実際に召喚するのにも膨大な時間と大量の魔力とめんどくさい準備が必要になるんです」
「えっ、でもさっき酒のノリで書いたって……」
「そこが問題でして、約250年ほど前にそこのバカ、もとい魔王が酒のノリで異世界人を召喚しようぜと言い出しまして」
「ちょうどそこにうち魔王城で1番頭のいい宰相もいて、魔法陣を書く手伝いをしてくれたのが悪かったんだよな。いつもなら俺を止めるストッパーなんだけど徹夜明けに酒飲んで狂ってたせいで悪ノリしちゃってさ」
「こいつ、いっつも宰相に怒られてるんだぜら」
「それで酒の力も借りて時間と手間暇かけて魔法陣を完成させちゃったんですよ」
「完成させちゃったんですか」
「それで、酒が抜けた頭でこれはよろしくないってことでカーペット敷いてなかったことにしてたんだけど」
魔王を含む3名が揃って壁側を見るので俺もそちらを見るとそこにはズタボロに切り刻まれ、焦げ跡が残る高そうな絨毯が転がっていた。どうやら身内での喧嘩、もとい魔王いじめに巻き込まれた結果らしい。
「でも発動には大量な魔力が必要だって……」
「このアホがアホなのに魔王やってるのにはいくつか理由があるんだけどその一つにこいつ魔力が桁外れに多いんだわ」
「えへへへ、それほどでも」
「うるせぇ、褒めてねぇよ」
照れたように頬を緩める魔王に対してユーシェンさんが頭を叩く。悪魔はそれを無視して話を進めていった。
「んで、さっきユーシェンさんと戯れている時に防御魔法を展開しようとして魔法を使うべく魔力放出したのが」
「召喚魔法の魔法陣の上だったってことなんですね」
「そういうことです。理解が早くてありがたいです」

理解したくはなかったがどうやら俺は魔王様のやらかしで異世界転生ならぬ異世界転移をしてしまった、ということらしい。俺が今まで読んできた漫画や小説の中で異世界転移だとなんか特殊スキルだとか現代知識でチートとかやっているのは知っている。
しかし現代知識なんてこんな魔王城の中で役に立つとも思えずそもそも自他ともに認める一般現代人にそんな知識なんて期待する方が間違っている。
つまり期待するべきは特殊スキルの方だが……。

「その、召喚された俺って何か魔法が使えるようになっているとかあったりは」
「しないですね」
「召喚魔法自体そもそもそのまま異世界の生物を呼び出す魔法だしな。能力付与なんて効果は聞いたことないな」
「お前が魔法使えないなら使えないってよ」

悪魔からはバッサリと断言され、魔王には無慈悲に首を振られ、ユーシェンからは憐れむように肩を叩かれた。世の中、そんな上手くはいかないらしい。

「ちょっと待ってくれ、そんなに手間暇かかる魔法陣で俺が召喚されたってことは元の世界に帰るのにもそれだけかかるってことか?」
「いやむしろ数倍はかかるんじゃねぇか?」
「かかるでしょうね。元いた世界を特定する必要がありますから」
「こいつのいた世界を特定して、その世界に送りつける魔法陣の構築か……時間かかりそうだな」
「嘘だろ」

社会人数年目、まず頭に思い浮かんだのは仕事をクビになるということだった。社畜もいいところである。
しかし仕事どころかそもそもしばらくはこの世界で生き残らなければ俺は帰ることさえもできない。

「あのーその魔法陣ってのは御社で錬成することは可能なのでしょうか」
「オンシャ?まぁうちの技術者連中と魔王このバカと、あと宰相巻き込めばいけるだろ。それまでうち魔王城に寝泊まりしとけばいいだろ」
「そうですよ、魔王様がやらかしたんですし客人としてもてなしますよ。ねぇ、魔王様」
「そうだな、さすがに俺が手違いで召喚したことには変わりないし。責任もって元の世界に帰してやれるまでは泊まっていってくれ」

拝啓、親父殿、お袋様。私は何故か異世界の魔王城でもてなされようとしています。私はいったいどうすればいいのでしょうか。選択肢なんてないのですが。
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