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珍しく外出をする。夫君と一緒だ。市場で買い物に、特に惹かれる物なく進む。
今回の目的は、商会に行く事なので夫君が顔見知りに挨拶しながら進んでいた。

「こんなもん客に買わせんのかー!」

市場の一角で騒いでいる、典型的なゴロツキが居た。

「ここら辺では、見ない顔だ」

夫君の囁かれる情報を受けるも状況を見守る。武器を持っている冒険者達が3人。
似たり寄ったりな同一の格好から、同じクランに所属しているのかと思われる。

「確か、街にある主だったクランのひとつ、蛇がモチーフだったな。」

夫君はもっと詳しい情報を持っているようだ。どこのクランか断定した。
町に馴染みのない様子に、高圧的な態度はいただけない。

ここに冒険者は来るが、騒ぎを起こす者はそうそういない。顔馴染みが多いからだろうが。

「ちょいと、こんなとこで騒がないでおくれ!」
どこかの店の女性が、言葉をかけたが振り解かれる。転ぶかと思われたが、風が吹いて転倒は防がれた。

手を出されたと、喧騒に激情が注がれる。

収集がつかなくなるかと思いきや。ひとりの冒険者が、勢い余ってか転ける。

「なんだよ何もないところで転けやがって!」
「酒でも残ってんのか?」

笑いだず2人に、訳がわからない様子の転けた男。
「いや、そんなことは?なんでか足がもつれて。」

冒険者達の勢いが削がれたのを好奇と見て、女性が言い放つ。
「手を出してくるようなの客じゃないね!あんた達に物は売らないよっ、他をあたんな!」

市場から応援の声が上がる。形勢不利と悟ったのか冒険者は引き下がった。

(あっさりだな?)
「引き下がったの」

クリスと夫君の感想は、注目を集めてそれで終わった感じだ。
「何したかったんだ?アイツらは」

その通りだが、クリスは視線が自身に集まっているのを感じた。ここにいる者ではなく、遠くで気配を消している者達。それに気づいて、無視する。

クリスを試されたのだろうと力を見せる気も、誘いにノル気もない。ただ、クリスは沈黙して事の成り行きを見ているだけだった。




しかし、冒険者ギルドに来て出会ってしまった。


街から来たらしい冒険者3人と揃いの装備で、リーダー格の男。そしてクリスの顔を知った男も居た。

「兄貴!きてくれたんすね!」
「いや?顔出しただけだ。」

俺様クラン長が歓迎し、会話している。ギルドにいる冒険者達も注目していた。

「手下を引き連れての凱旋か?」
「街では3つのクランがやり合ってるらしいが」

「ああ、対立は拮抗しているらしいな」

情報が流れるも、気になることもない。クリスは早々にギルドから出て行く事にした。

話の流れから、俺様クラン長の兄貴分と察する。似てないから血縁ということはないだろう。
蛇のような印象の男。


「で、アレは強いのか?」
聞いたのは、後ろに向かってだ。

唐突にクリスの方に矛先を向けてきて、実際に手持ちの槍を向けている。
俺様クラン長も後ろに加わっていた。兄貴分が出てきて気が大きくなっている様子だ。

「あのイケスカない顔で、油断できないすよ!」

偉く力が入っているが、その心当たりはクリスにはないので気負わずに答えた。
「どこにでもいる顔だよ」
「あんたみたいに正体不明が、わんさかいるのか?」

なんの冗談だと俺様な兄貴分は、フンと鼻を鳴らす。

「利がなければ長居するような町じゃねー
俺様の町で、変な事しようとしているんじゃないだろうな?」

続いた言葉は牽制だ。クリスは微笑ましいものを男に感じた。態度はヤンチャながら
町を出た後も、古巣を気にかける若者に見えたのだ。

「へえ、商会に護衛?他のクランは行く気はねーのか」


微笑みで肯定も否定もしないクリスに、焦れるように言い放つ。
「で、アンタは強いのか?」

後ろの冒険者達も武器をとった。そこで割り込みが入る。
「冒険者ギルドでの武器を使うのは…」

受付のギルド員が必至に止めている。普段からあんな感じなのだろう。早々に止められているくらいには、喧嘩っぱやいか。

気負わず佇むクリスに、異様なモノを見る目が集まった。
余裕のある男に、只者ではない強者なのではと期待の目になる。


それを感じたのか、男の一喝が響いた。
「あの男の勧誘は俺様が先だ。」


勢いに呑まれた周囲に、クリスが凛然と答えた。
「断る。どこにも所属する気はない。」

「なんだ、マジメに冒険者やってんのか?」
「ほどほどにはな。休みを入れながらするものさ」

長くやる秘訣だが実行できる者は少ない。慌てず騒がず視線を固定した。
その様子にき勢が知れたのか矛先は外された。

「アンタ、年寄りクサイな。実は結構トシいってるのか?」

微笑みで答えた。つまり明確にする気はない。

「ま、いいや。」

押し切っても、脅しても何も出ない男らしい。手くらい出してくれれば、力量くらい見れたのに。

「今回は顔繋ぎだ。次に会った時の誘いにはのってくれよ。」

手下を連れて、俺様の兄貴は颯爽と去っていった。止めていた冒険者ギルド員の手が宙を彷徨っている。
騒ぎは、喧騒に消え冒険者ギルドは通常に戻った。クリスも特にこれ以上の用はないためギルドを去った。



「熱烈な誘いをかけられたもんだなあ」
「あれは、勧誘なんですか?」

喧嘩っぱやい男達を市場でも冒険者ギルドでも見た。その夜は夕食を老夫婦ととっていて話題に上がる。

「あーいうのは、どこかのクランに所属するまで追いかけ回してくるぞ?」
「そうですね。元気が有り余っていますか。」

ヤンチャな年頃扱いに、年寄りくささを滲ませた。
こういうところがこのクリスという男と気が合う部分な気がする。

達観しているのか、穏やかな気性というだけではないものが元・商人の自身と同じとは?
老成している考え方や、物腰の柔らかさにどんな人生を歩んできたのか。

そのストーリーは思いもよらないものが、多分に含まれていそうだな。


それを吐かせるには、良い酒と時間が必要だろう。
夫君は、是非聞いてみたいなと策を練る。


それさえも躱されるのだろうが、簡単に諦めるには面白そうな予感がする。
今も楽しいのだ、この男の奥深さを知るのは楽しいだろうと夕食の後は酒を飲み交わす方に向けた。

気の良い男と、年齢の差を感じない男と酒と会話の時間を楽しんだ。

この愉快な夜がどれくらい過ごせるか?

「昼間っから酒は、無理だしなあ。」
「ん?酒じゃなくお茶じゃ雰囲気が出ませんか。」


酒もいける口で、紅茶にもこだわりがあるクリスに商人の知識から色々勧められている。
お茶受けもこだわる。

その選び方から、『貴族の階級の事を知っている』『行った事のある土地のもの』
もちろん趣味まで、把握しつつある。まだまだ知らないことも多いが、それを暴けるのも商人として楽しんでいた。

夫君の趣味と化している。それに婦人も気づいていた。

別にバレても構わないとクリスは思っているが、婦人からあの人の楽しみだからと黙っている状況だ。
知らない物が少なく、奇抜な物は好まない。

いつの間にか最近の流行の品まで知っているのには驚くが、気の良い男だ。


何を秘密にしていても
不可解な事と思うことがあっても


総合して、そのままクリスという男を受け入れている。危険はない、どちらかというと危険から遠ざけるために知らせないようだ。

「あの男の秘密には、びっくりさせらないか?」

あの若さで知識の深い事、落ち着きのある貫禄。どういう道を生きていればああなるものか?
その秘密を暴きたくもあるし、そのまま隠しておいても良いと思う。

「流れに任せてみれば?その方が面白そうだし」

そう婦人が笑い、気楽で良いなと言いながら同意するのだった。
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