【長編・完結】この冒険者、何者?〜騎士さまと噂の冒険者は全てを見通す目と耳をお持ちです〜

BBやっこ

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襲撃依頼と噂の立った例の件からメイヤの悩みは、まだ続いている。


“相手を驚かせるため部屋へこっそり入って欲しい”

通常なら確実に受けない類いの依頼を押し付けられ、スキルを使って代わりに依頼を遂行した。
思えば、標的となったクリスという男が慌てた様子を見せたことはなかった。

今は、森に採取をしに来ていてのんびり座っている。
この人が、まとめてくれたおかげでまだ冒険者の活動をできている。

そんな風には見えないほど、長閑な感じ。


老齢な知恵者と言うには穏やかな相貌に柔らかい物腰。

メイヤの依頼は冒険者ギルドからの抹消、犯罪者扱いだってあり得たと聞きゾッとした。

それも慌てふためく間に、冒険者ギルドと所属のクランの両方を説得してくれた。そのことに感謝しているし、今も世話をしてくれている。

「面倒をかけているのは同じだ」

と借りている部屋の老夫婦は、温かく迎えてくれた。
祖父母とは縁がなかったので、とても落ち着く日々が待っていたのも予期しない事だった。

とても、怒涛の数日が過ぎて。
けどそろそろ、決めないといけない。このまま冒険者を続けるか?

自身のスキルは冒険者向けであっても、気性がそうではないのだとメイヤは自信を喪失している。

クリスに言わせれば、まだ冒険者として鍛えてもいない状況だそうだが。見込みがあると言われているのだが
とても力が入らない。

“どうしたいか”は重要だと、メイヤからどうしたいか言い出すのを待っている。
まあ辞めるという選択をしても、生活できるようにそれとなく支えている。

今日は天気も良く、森の浅いところへの採取をしに来た。冒険者ギルドで依頼は受けず、食糧になりそうなものをのんびり採取しながら、移動している。ちょっとした護身術がある者なら来るくらいの危険度だ。

ツノウサギが出ても逃げていくくらいに、警戒は緩くて良い。

それにしても、木々を見ているクリスを何をやっているのか見ている。採取に勤しむのはメイヤだけ。
(別にいいんだけど、森にのんびりしにくる人なんて変人しかいないよね。)


魔物が飛び出てくるかもしれないから町の人でも、警戒しながら通るような場所。その少し奥で木の実を採る。
なかなかにいっぱいあって取り出があると考えていた。

黙々とメイヤが採取に励む間、クリスはのんびり木々のざわめきを聴いていた。



大量の採取物を持ち込み、冒険者ギルドへ顔を出した。受付の担当は、この前に部屋で話をした男に代わっていた。

密かにメイヤはホッと息を吐く。会いたくないギルド員は居ないようだ。
出てくることはないと聞いたが、緊張していたらしい。


クリスは注目されている。クランへの勧誘に値するか?

「腕はたつのか?」
「噂では、商会に雇われて護衛任務でこの町に来たらしい。」

「どこの商会だ?クランに加えちまえば、護衛依頼も付いてくるな!」

値踏みする視線と会話。


「あんな優男か。けっ、お綺麗な顔してんな。」
「あの顔なら、貴族からの依頼が増えるかもな?」

どこぞの貴族と思われる噂はまだ消えないか。ほとんどの噂を掌握し、クリスは悠々としていた。
それというのも、勧誘の手を出しかねているからだ。

流れの冒険者を装っている騎士とみられれば、勧誘しても無駄になる。
武器は持っているものの、その腕を見せたことはなくただ噂に上がる男。

その噂だけで、関わらない方向で冒険者同士牽制し合っている。
こにままどこにクランに所属する事なく何処か遠くへ行くなそれで良い。それを望んでいる面もあるかもしれない。

何か不気味な男だ、と冒険者の中の警戒心が湧く。

冒険者ギルドへの牽制、クランとも慣れ合わない。
あの悠々とした雰囲気が、あの男の本性も欲望も包み込んで見せない。

奥が見えないのは、踏み入れ無い方が良い相手だ。


クリスの動機は単純だった。襲撃者としては初心者すぎる相手が、見捨てられるのが忍びなかっただけで、少し手を貸しただけだ。自身の手の内も明かす事はない。

暇つぶしと言い換えても良いものだった。今回の口先だけで済ませたので、口が達者な男という事しか分からない。

勧誘がないのも策も打てる人物を懐に入れて、不安がないわけじゃない。
乗っ取られるなんて間抜けすぎるし、冒険者として誇れない事態だ。

唯一その視線の中でクリスの近づいたのは、女性冒険者のグループだった。
メイヤの事を気になったのもあり、その事を出汁にしてクリスとも接触を計った。

少々ハニーとラップめいていたものの紳士的な対応。
周りからは羨ましい視線をもらうくらい女冒険者に囲まれていたが、友好的に別れた。

「合同の依頼でも今度受けましょうね」
メイヤにも誘いがあったようで挨拶だとしても、好意的なかんじだった。

ここで分かったのは、まだクリスが町に居るつもりだろうという事。
結局、観察にとどまった。気になる男だが、街に流れていくだろうと言う見方が強い。




「これで終わりかの?」

夫君は事の結末に、不満な様子。それを婦人が嗜める。
「問題が無いのが一番ですよ」

その通りだが退屈さはわかる気がする。情報として流すくらいで、クリスの周りは平穏であった。
「街の方から誰か来るんじゃないか?ほれ、俺様クラン長のとこよ」

何か情報が入ったのか、予測か。その話題にクリスが出した情報は…
「出てくるのなら、ギルド員の方でしょうね」

メイヤの方を夫君は見たが、クリスが訂正する。

「狙いは私の方です」

朗らかに言うが、そうなるように誘導した狙ったのが確信めいて分かる。

「大丈夫、なんだろうが…。」

囃し立てた手前、クリスへの心配を口にしかけたが夫君は言い淀む。
危険も切り抜けられるような安定感をこの男には感じている。これは商人の勘で正確だ。


“大丈夫なようにしてあるのだろう”と予想がついた。この男はどこに耳目があるのか。
噂も相手に行動もわかっているような動きをする。

商人のように広く浅くではない、集中的な深い情報まで手にしている様子だ。
「ま、ほどほどに怪我しないようにな」
「もちろん、注意深いのは冒険者に必要な事ですよ。」

さらりと同意し、酒を酌み交わした。



話題に出た俺様クラン長は、街にあるクランから手紙を受け取っていた。

内容は、『話に聞いたが無茶をしたな?フォローはしないぞ。
その男の事を詳しく教えろ。』


「兄貴の興味を引いたらしい。」

どう情報収集するか、考えを巡らせ始めた。
冒険者ギルドでも、情報が入っていない男だ。

町の市場にはよく目撃されている。冒険者ギルドにも来ているが、依頼は積極的では無い。

金はあるのか?そういえば商人の護衛でこの町に来たんだったな。まだ資金は尽きないのだろう。
金で釣れるとは思わないな。

商人の家に部屋を借りている、場所は分かるな。

あの男、強いのか?

兄貴はどこが良いと思ったんだか。俺をこの町のクラン長に指名してくれたのは兄貴だ。
まだ駆け出しの冒険者の頃から、目をかけてもらった。


失望されないように、挽回する。

誰か、あの男の腕がわかるように襲いに行かせるか?喧嘩を吹っかけるか。
まだ誰も突っかかりにいかないのはなんでなんだ。

それか、女。酒と女で情報を引き抜くのが良いか。

こんな町に誘い出せるような女がいるだろうか?

冒険者の女どもの誘いにも乗らないらしっからな。
酒場にも居るのを目撃されていない。

爺婆みたいに早寝早起き、依頼も難しいものは受けていない。
しかしソロの冒険者としては安定した依頼の受け方をしている。


さっさと街へ出てこれば良いものを。

そちらのが使える冒険者が居る。誘惑も多い。
「ここじゃ手駒が足りねえ。」

兄貴に相談の手紙と、分かっているような些細な情報を書きつけ街へと送るのだった。
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