【長編・完結】この冒険者、何者?〜騎士さまと噂の冒険者は全てを見通す目と耳をお持ちです〜

BBやっこ

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1-10 謝罪

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ギルドに来たクリスは部屋に案内され、謝罪を受ける。

下げっぱなしの頭を上げるよう宥めすかし、冒険者ギルドの今後の方針を聴いた。
あのギルド員は受付から外され、冒険者の前には出てこない扱いになっている。

「今回の責任をとる形で、どんどん閑職に回され追い詰められると思います!」

嬉しそうに話してくれた様子から、嫌われているんだなと分かる。
威圧的な態度は、同僚にも同じだったのかもしれない。よく受付に出したと思ったが、計算ができるからだとか。

「性格は悪いですけど、書類仕事も捌けるし。有能って評価でしたから。」

続く内容から、好かれるタイプではない上に、執拗に恨みを向けてくるかもなと思う。
辞めているギルド員が何人かいるらしいく、予感が強まった。

「まあ、依頼を受付たギルド員の罰になるかと。アイツ、プライド高いので。」


とりあえずの終結なのか。会話能力の高い男は、真面目な顔を作る。
「これは、今回の謝罪としてお受け取りください。」

(後は文句を言うなって事だな。)

袋に入った金をクリスはそのまま返す。
「私の方は良いので代わりと言ってはなんですが、メイヤに他のクランの紹介など便宜をお願いします。」

口止めに、金銭を受けると面倒だ。そのまま受け取らないのも納得しないだろう。
なので、メイヤの利になる事をしてもらってこの件は手打ちとなる。

その後も、クリスにも依頼を色々打診されたが、特に興味を引かれるものはなかった。
変わった依頼を求めるなら街の方に行くのが速いのだと確かめられた。

勧められる依頼をやんわり断り、他の依頼を打診されていると適当に言ってギルドを出た。
商人の護衛依頼が打診されてはいる。

この件は、誰の依頼か暈され被害はなかったとされるだろう。
冒険者ギルドから謝罪はなされていたと噂さが流され、事態は収束する。

襲撃依頼など、受けるクランがなければ捌けない。そんな有り得ない筈の依頼が今回、通ってしまった。
その責任は冒険者ギルドへ、まあ順当な落とし所だ。

冒険者ギルドとあのクランとの間はどうなるかは知らない。もう関係ないからな。
(メイヤが何を希望するか聞いてみないとな。)

今は、冒険者ギルドに寄らず、市場とご婦人の手伝いをしている。これからどうしたいのか決まっただろうか。
冒険者を続ける事に、迷いが見受けられたが。

この件で一番ダメージは受けたのは、メイヤだ。
怪我はないものの、冒険者ギルドと所属していたギルドの不信感と冒険者としての自信を失くしてしまった。
クランとは関係が断ち切れたとして、直ぐに切り替えられるだろうか?

本人次第か。

悩めるだけ悩めば良いと思う。
これからを決めるのに、相談相手もいれば差し迫った事もない。

冒険者として続けるなら、今回の件を整理できている必要がある。
他の者は欲をかいての自滅だといえるが、断れないメイヤの立場が苦しい。

それでも、加害した方に入れられてしまう。そうしないために、クリスのやれる事はやった。
良いきっかけにするよう裏で操ると言うほどじゃないが、しっかりは締めしはつけたつもりだ。

「よーし、ギルドから謝罪を引き出せたか!」
「あら、ならひと段落かしらねえ」


仮家に帰り、ギルドの対応を話した。好転した事態にメイヤは胸を撫で下ろした。
ギルドの対応によっては、彼女の評判にも響く事になっただろう。町では肩身の狭い暮らしを強いられたかもしれない。

「犯罪に加担したとされる冒険者への目は厳しかろう。」
「情報はすぐ巡りますからね。」

冒険者ギルドで見せた出来事が巡るのはなかなか早かった。冒険者と商人など情報網があるのだろう事は想像に難くない。

「そうですねえ、皆さん危険には敏感ですから。」

森に近い町では、魔物の脅威も知っているがやって来る冒険者の素行も気にしている。トラブルは避けられないものの、巻き込まれないよう注視している。自衛のための意識は強かった。

それを前提にしてもクリスの馴染み方は早かった。
“詐欺師のように懐に入り込んでいる”とやっかみめいた事を言われたのも、こういった状況があったからかもしれない。


『顔が良い男だからじゃないか?』も的を射ていたかもしれない。
美しいと言うほど目が惹く男ではないが、穏やかで物腰柔らかい態度が注目された。

襲撃される何かしらの訳がありそうで、厄介ごとを解決する手腕を見せた。

“なかなか骨のある男じゃないか”と評価は上がった事だろう。
未だに、町に居るのなら注目するべき冒険者になった。

メイヤの憂いも、後は自身の問題のみ。危惧していた再度の襲撃もないようなので家に帰る事にした。
しばらく婦人の手伝いの継続を約束し、また明日と別れる。

周囲の変化は、急激におこる。しかし今は、今宵も眠る仮家にてクリスは、勝利の酒というにはささやかな祝杯を夫君と上げたのだった。

婦人は、美味しい野菜のスープを出したくれ夕食を楽しむ。そしてさっさと寝た。
彼らの朝は早いが、夜はさっさと寝るに限ると意見の一致が見られるのだった。



その夜、ギルドの一室では件のクラン長が抗議をしていた。

「うちのクランと敵対する気か?!」
「そんな対立はありませんよ。彼が約束した依頼を回す話がなくなるだけでしょ。」

上の者を出せ!と乗り込んだ俺様クラン長と呼ばれる男に少しウンザリして対応する。

クランを裏切った事実などなく、こちらも信用を落としている状況だ。

これ以上、深い仲になるのは避けたいと思うのが考えとして自然だろうに。

襲撃依頼と噂される発端は、このクランと受付の男の癒着にある。依頼の融通を利かせるという口約束を、ギルドが請け負う気はないと通告した。

罰則は課さないが、先の約束も反故にさせてもらう。その確認に、面会を通した。
納得してもらう。穏便に済ませた方だと言えた。

それでもこのクランには辛い状況か、落ち目にある。これ以上、利益が上がらなければクランの存続も難しいだろう。

(街に進出する野望も遠のいたな。)

この男も同僚の男も、町にいるのが嫌であるらしい。早く街に出たいと言って憚らない。

確かにこのギルドでは、森への狩りや手伝い依頼ばかりで骨のある依頼ってやつはない。
依頼の内容は見劣りする。初心者にはちょうど良いがその分、報酬は少ない。


突発する危険な依頼なんて、何年出てないか?
危険といっても、土砂崩れで道が通じなくなったとかくらいか。

何でそんなに、刺激を求めるのか理解できなかった。まあだから冒険者という職業にはつかなかった自身の決定を振り返る。

現状をどうにかしたくて足掻くのは良いが、人を蹴落としてまでやる事かな。
そでもしないと変えられないものなのだろうか。

(余計に落ちこんでいくだけだと思うがな。)

勢いのあったクラン長が落ち着くまで、付き合う。
ギルドは潰れないが、このクランは潰れる直前まで来ている。ー

女冒険者を敵に回し、信用も落ちる。今後の“良い依頼”というのも入らないのだ。
逆転は難しいだろう。


個人的な感情でいうと、あんな依頼を受けた冒険者に危険な依頼は許せないし、標的になった男も何もないのは不幸中の幸いだ。

男が、死んでたら?
冒険者が殺していたら?


ギルドで済む話じゃなくなってた。依頼主も現れないし、関わった貴族も煩かっただろうな。
そんな事も考えられないのか?

(運が良かったんだ、全員な。)

最小限の被害で済んだのは、男の立ち回りがうまかったく情報もうまく巡った結果だ。
それを成した中心人物が、クリスであると確信は得ていたがその追求ができる立場ではないと分かっていた。


そこまで思い至るも、報告にどう書くか悩むギルド員だった。

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