【長編・完結】この冒険者、何者?〜騎士さまと噂の冒険者は全てを見通す目と耳をお持ちです〜

BBやっこ

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「顔を拝んでどうじゃった?」
「まあ、普通の男でしたね。」

メイヤが以前に所属していたクランの長と会ってから帰ってきた。夫君に問われたクリスは、悠々と答える。
そのやり取りにメイヤは、色々言いたくなった湧き上がる文句が…

『ちょっと見てみたいでクランの拠点まで行って
ずっと自身が会えなかったクラン長とあっさり会えて?本当にお話しして、終わり。

何しに行ったの?ねえ!どうしてクラン長に会えたの??私、必要だった?!』

…その諸々を言う前に、夕食の準備を手伝いに誘われて行った。メイヤとお茶を出してくれた婦人は、2人の話に参加しない。

「ずいぶん若いクラン長ですね。」

「まあな、あそこの元々のクラン長は今は街の方に行った。その後にあの若造が納まったんだよ。」
「新人の育成には向かない場、ですね。」

あの規模のクランであの様子ではカツカツの運営、外に住んでいる者もいそうだが冒険者の人数も少なそうだ。
装備も充実しているとは言えず、日々の生活をしているだけで精一杯な者が多いのだろう。

「本人の成長がなー。ガッツも野心もあると思うんだが。」
「おや、知ってる間柄なんですか?」

この町に長く腰を据えていると話していた夫君の人脈

「いいや、話した事はないんだ。“俺様クラン長”と言われるくらいの漏れ聞く噂話をな。よくいる粋がった冒険者の中でも少し頭が回るような奴だと。」

さすが元・商人、情報は欠かさない。
「商売人ぬは向かないタイプのクラン長でしたが、稼ぎはあるほうですか?」

感情的で、すぐ人をクビにしてしまう様子と。除名の書類も用意していおらず、交渉の態度ではない。
情報を仕入れられていたかも怪しく、体調の悪そうな顔。

余裕のなく仕事に追い回されている男だな。手伝える人もいない。
ギリギリで回しているクランだ、あれは。突けば崩れてしまいそうな脆さだった。

拠点の家もまあまあな古さだったなとクリスの思考が滑る。

「ん~、クランの運営に手一杯だろうな。片っ端から勧誘して教育してないからな」

「冒険者が育たないし、辞める者も多そうですね。」
「そうだな。商人には向かないな信用を取れない男など、長く取引したくない相手だわい。」

クリスの興味はあのクランが潰れても大丈夫か、存続は認めるべきかにあった。
あのクランの信用は失墜する。それはもう破滅へ動き出していた。

工作をする様子もまだない。
どう噂が変化しても、難癖のあったクランに加担して得があるとは思わないだろう。

何もしてこない相手方に様子を見に行っただけでは済まなかった。
(なかなか動かない相手は、仕掛け辛いな。)

クリスは噂になる程度に目立って動き、関係者への圧力を強める。
相手の行動を誘発することで、展開を次に持っていくものだった。

「もういい加減にアイツら動くしかないぞ?」
「そうでなくては、ね?」

2人は、陽のあるうちから酒を呑むことにしたらしい。

メイヤの所属はもうないと言質を取り、仕掛けてくるのを待ち受けるのみ。
少々暇だった日々もここから佳境だ。

『メイヤを巻き込む事なく、冒険者ギルドとクランに痛い目をみてもらう。』

そのための細工は上々だ。早く来てくれと手ぐすね引くほどに。



そんな事をされているとは知らない、ギルドの会議室にて。

「謝罪?」
「ギルドとしましては、必要かと。」

襲撃依頼とも取れる依頼を担当した受付の男に、責任を押し付ける気だ。
クリスという襲撃を受けた方の男から苦情に、依頼主を確認すればよくわからないの回答された。

あるお貴族様が、頼まれて依頼を出したと発覚した。厳重注意で済ませるしかない上に、どこの誰かわからなくされている。
ただの悪戯だろうと事を納めるつもりらしいが、冒険者相手にそれだけで済ませられそうにない。
上位の冒険者から、そんな依頼を受けたのかと問い合わせが多い。噂で流れているが、事実であると知っているとチラつかせる。今の状態では、ギルドは強く出られない。

「謝罪して、どうなると言うんですか。」

補償金を出して黙らせるのか、謝罪の事実だけで事態が好転するとでも?

「冒険者達の噂を知らないんですか!」

『危険な依頼を受理した冒険者ギルドを信用できない』

女冒険者からは、批判の嵐だ。自身に降り掛かったらと気が気じゃないのだろう。

「信用問題になってるんです!」
クランとの癒着も批判が免れない。

「そんなものやっかみだろう。」

冒険者ギルドに信頼されているなら、良い依頼が回るのは当たり前であるし
それを羨ましがっても実力が伴っていない冒険者に声をかけることはない。


ギルドにだって、その見極めをしなけらば未達成の依頼で溢れてしまう。

「謝罪をすれば、こちらに不備があったと認める事になるんですよ?」

仕事がし辛くなり、無理を言ってくる冒険者が増える。
バカな冒険者の相手なんて割に合わない。

しかし、この騒動を鎮めなければ冒険者が依頼を受けに来ない。

結構な正確性のある噂に、少しの危機感を煽られクリスへの謝罪と興味が注がれる事になった。
やっとギルドは動く事にしたらしいとクリスの下に知らせが入るのだった。




「依頼主はどうでした?」

この黒幕というべき立ち位置の人物と会えていない。


何人か人を介され出された依頼らしく、辿り着くのは困難だ。
痕跡がないため、私の追手ではないだろうと強まった。

とりあえず貴族の依頼

なんだってこんな依頼を出して、冒険者ギルドで受理されてしまったのか。まあ少し握らせれば無茶は通るものだ。それくらいの出費など瑣末な事なのだろう。


「まあ予想できた。さっさと逃げる気だったのだろう。」
『騎士への嫌がらせとありましたので』

「私は騎士ではないのですが」

“そういう設定なんですね”という目をされてしまうことが多々合った。
こんな行儀の良い冒険者はいないだろうにとまで付け添えられて。


この思考は正しいのだ。思慮深いなら、冒険者などやらずに商会やら貴族やらに売り込んでる。
今回も依頼人を突いて金か、もっと良い依頼を出せという言う冒険者のが大半だ。


冒険者には、お行儀の良い事だと思われている。
ギルドでは、食えない男だと会議で話題に上っていた。

クリスと情報源の会合は、早々に終わるほど内容は薄かった。



謝罪の件は担当が変わる事になる。次にクリスが来た時は部屋に案内して謝罪をする形だ。
当該のギルド員は、擦り寄る逸材を間違えた。不信を招いたという結果だけが残った。

「信用のないものに任せられるか?」

受付から外され、冒険者とは遠い配属にまわされる。

なぜ?街のギルドへ行く筈だったのに、これでは出世街道を外されている。
上にに目をつけられては出世は見込めなかった。

それに気付きたくなくて、私怨を向けるのはあの“騎士さま”と呼ばれる男だ。


「クリスと言ったな」


襲撃依頼を出す。
もちろん冒険者ギルドにそんな依頼が通る訳がない。誰が受けると言うのか?

ならば、こういった依頼を受ける場所へ持っていけば良いのだ。
金はあるところにはある。

それより、適当な奴に襲撃させた方が安上がりだな。

足の付かない方法、どこで仕掛けるか。あの女冒険者をどう使うか。
頭を使っているように見えて、事前の調査がなっていない。


その男が何者で、誰に繋がりがあるか?

それを知っていれば、まだ冒険者ギルドで働けていただろう。
この町から出て行くこともなく、街に行く日も来ていたかもしれない。


そう思い返す男に後悔の時が訪れるのは、すぐそこまで。
自身の足で向かってしまうのだった。
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