【長編・完結】この冒険者、何者?〜騎士さまと噂の冒険者は全てを見通す目と耳をお持ちです〜

BBやっこ

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例の未明の襲撃を受けても、クリスはこの町に来てから変わりない日々を送っていた。あの襲撃モドキの出来事がまだ解決していないのだが。

襲撃した側のメイヤは違う。彼女の取れる対応は少なくクランに戻り、上の人に会おうと思うが、今は居ないと断られている。もちろん冒険者ギルドの依頼を受けるのも難しいため、手持ち無沙汰であった。

迷惑をかけたクリスの役に立てばと申し出ていた。
なのでクリスの手伝いをと話になったが、今は老夫婦の家で手伝いをしていた。市場への買い物、手伝いと危険はないし冒険者ともほとんど会わない。

報酬は、食糧支給である。婦人の美味しい食事とたまに…

「売るには硬くなった保存食だ。」

そう言って元・商人のコネで手に入れた物を夫君が渡していた。たぶん売ることはできる商品だ。
保存もでき、栄養価が高い代物は育ち盛りには必要だろう。

市場の人達にも可愛がられるようになっている。
“若い娘さんが弟達のために働いている”とは、なんと同情心を誘う。メイヤの健気さも交流してわかった結果だろう。冒険者と話す機会など物の売り買いでしかないのが大半だ。

クリスとの買い物の帰りにも、色々なオマケが渡されている。

「この町の育ちじゃないのか。」
「はい、街の方に居たんですが、両親が帰ってくるまでなんとかしないと。」


彼女の親は町を巡っての商人らしく、家を長く空けることがある。なかなか会えない両親だが稼ぐためにであると理解を示していた、それでメイヤと弟のうちの一人が今は家計を支えている。

弟の働く商会、その支社に近い町に引っ越してきた。ここは森に近い、行き交う馬車も多い。今の家でなら周りも同じ年頃の子供がいるので、暮らしやすくはあるらしい。

「依頼もほどほどに集まります。」

メイヤ曰く、中央の街ではクランの鍔迫り合いが多く、依頼どころではないとか。

「近づかない方が良いか」

いっそ商会の護衛で行った方が厄介な者達と関わらず済むかもしれない。商会が専任の冒険者を雇うのはよくある事だ。変えることはほとんどない信用問題だ。


そしてメイヤは、老夫婦の勧めで部屋を借りて一緒に住んでいる。今は冒険者ギルドとの宿にいない方が良いだろうと老夫婦とクリスの判断が一致した。

冒険者ギルドの上層部はわからないが、あの受付の男は野心が強い。メイヤに不利な事も構わないと言った態度で、他の冒険者をけしかけてくる可能性も思い至った。

変に接点を増やさない方がメイヤの身のためだろうと、経験の差で思いついた3人と若いメイヤに危機感の差はあった。何気なく弟達の周りにも注意してくれるよう、周りの家に頼んでいる。

「変な冒険者が来るかもしれないから注意してほしい」

少々の手土産を持ったクリスの言葉は、市場で顔見知りだった住人がいたためすんなり忠告を受け入れてもらった。彼らの住んでいる家は、周囲も年頃の子供がいる事が多い。

「この辺、冒険者が来ることはまずないからっすぐ分かるわ!」

お互い様で、知らない顔がいればすぐわかる。何か異変や気づいたことがあったら、老夫婦の家に来てくれと少し小金を握らせて願っていた。

そんなクリスの動きに気づけるほどの経験はないメイヤだが、気を紛らわすため老夫人と一緒に過ごしている。


商会の仕事で行った国の話、料理の話をして、メイヤは楽しそうにしていた。それでも…
料理の話をして、メイヤは穏やかに暮らしている。クリスへの贖罪のために何か手伝えないかと来たのだが。冒険者をしているより良いものを食べさえてもらったり、心地よい部屋で過ごせていた。

一人部屋な時点ですごい出世した気分。

(こんな場合じゃないんじゃないか?)

支配されている感情は、不安だ。
その感情に気づいた婦人は、メイヤの手を取り助言めいた言葉を送った。

「待つのも大事よ。今の貴方には、現状をひっくり返せる手札がないの。どうしたいか?そのために動くことよ。」

「お金は必要です。でも、冒険者を続けるには何が必要かわからなくなって。」

冒険者に必要なものといえば体力。使えるスキルと、一発当てようとする欲だろうか。

私は隠密スキルを持ってたから。狩りや調査に役立てるって思って。
単純に馴れたから選んだ。

最初は下働き。それはどこも同じで歳の近い弟は商家に通って手伝いから始めている。
冒険者としてこれからも、できるだろうか?

「ひとつの考えに捕われないことね。ぐるぐるその場を回るようじゃ、どこにも辿り着かないの。さ、弟達に料理を持っていって。」


暗くならないうちに戻って来なければ。メイヤは自身が守られているのは理解していた。
だけど、何も恩返しできない今やれる事をと老夫婦の家から、立ち去って行った。


それを上の階から眺め、クリスは考えに戻る。

「冒険者ギルドの上司は知らず単独行動。野心を持つ男か。」

受付で対応した男は、依頼の逸脱の可能性を考えられる頭はあるようだ。
バレればギルドの信頼が堕ちるが、隠し通すつもりか。

「メイヤを捨て駒にしたクランは、これからの依頼に利益を得る。」

彼女にとって、よくない状況だ。切り捨てられて終わりにされてしまう。
彼らの望みはその展開だ。そうさせたくはないとクリスは望む。

風がクリスの髪を弄んだが、思考はまだ途切れていない。

「その上司に知らせても握りつぶされそうだな。」

クリスが関わった事で、思い通りにがいかない様子だ。
どこから切り崩すか?

思案する顔は、おもしろいと笑みを浮かべていた。この男が負ける展開などないのだ。それならば望みの展開へと動くだけだった。

コクリと酒で喉を潤した。


他にも考えることはある。冒険者ギルドの言い分をどれくらいメイヤの所属していたクランが出てくるか?
普通のクランなら、冒険者を庇うのだが。メイヤが戻っても会いもしないトップ。

被害を訴えたクリスの方にも接触がなかった。冒険者ギルドを通じて誰か来るのかと、大人しく過ごしていたのだが。接触がない。



そんな事を思われているメイヤに所属するクランでは、冒険者ギルドからの報告を受けていたが。

「ふーん」

それだけで終わった。

『そちらのクランの冒険者が問題を起こした』
そう聞いただけで、無視している。そんな小言になんか興味はないという態度だ。


「多少、あの依頼関係で文句がくるのは織り込み済みだ。」

さっさと次の報告を促す。そんなものより、他の依頼のが重要視している。森での狩りに、遠くへの護衛の日程。主力を投入した依頼の達成具合が気になる。

他にもこのクランには冒険者がいるが、後は適当に呑んでそこそこの依頼をしていれば良いと考えていた。

ゆるい関係、雑な管理だった。名前だけの所属という者も多い。メイヤの認識も下っ端でテキトーに雑用をやっている女だった。スキルがあっても一緒に呑んだ仲でもないし交流が少ないので印象も薄い。アピール重視の仲間内でやるクランだった。面倒見が良いとはお世辞にも言えない。


通常のしっかりしたクランでは、世話係、教育係や依頼を回すなど組織として機能している。
勧誘しておいて、放置。使いたい時だけ声をかけるクラン。

そのトップは、成り上がる事しか考えていない。下っ端の名前も覚えていない奴なんてどうでも良い。
メイヤのフォローをする気がないのは、明確だ。


それでクランに参加すれば依頼えお回してくれるかもしれないし、合同の依頼を受けやすい。
利点はある筈だったが、メイヤはそれほど恩恵を受けていないと判断した。

どこから動かすか、クリスは思案しながら酒を嗜んだ。
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