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騎士侯爵<サイド>

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我が家に、女性が訪れた。

よくある事とも言えるが、

今回は手紙が届けられ、訪問の理由も添えられている。
こちらの予定に配慮された文。

書いた子爵の人となりがわかるような丁寧な手紙だ。

来るのは令嬢の方だが。
この手順なら、正式な訪いと言える部類だ。

『会ったことのない令嬢がいきなりきて、嫁にしろ』
『貴方に尽くしたい』と突然来て、お帰り願えない女性達よりよっぽど…

「マシだ。」
ぽつりと本音が出る。

その近くには、我が家の執事チェバスがいた。
私を訪ねてくるご令嬢達を散々、見て来たその視点で、彼女をどう評価したのだろうか?

「御坊ちゃま。訪問を知らせて来た女性にあのような威圧的な態度は感心致しません。

訪問を歓迎しないお客様ばかりで、
礼儀を忘れてしまったのかとさえ…」

「御坊ちゃまはやめろ。私は既に騎士を拝命した侯爵だぞ?」

その仕草も相まって、幼く感じる当主に傷ましさと再度お願いしている事
その言葉を飲み込み、嗜める。

「名乗りもされておりませんね?」
ギクっと御坊ちゃまの拙いと思った時の癖を見逃さない。

「じい」

そのお声は、幼少期を思わせる高い声。
執事として長くこの家に仕える上で知った、この家の闇の部分。


年齢にそぐわない物だと知っている。

古くから仕える家だ
しがらみもあり、風習もある。


それを壊すきっかけを望むのは、執事としての領分を超えてしまう。


「調査結果を見せてくれ」

「ここに」

家をざっと調べた結果だ。

「ミレーネ嬢の人柄は?」


「おおむね大人しい方という評判です。
社交に出られても特に目立つ行動をとるかたではなく、情報が拾えませんでした。」

ざっと書類を見た主人の視線を受けた執事が滞りなく応える。

「何か裏はありそうか?」

「今のところ出ておりません。」


騎士であり、侯爵家に入りたいという
間諜や騎士の仕事の探りを入れたりする。

爵位に釣られてくれた方がマシで、大抵が女性だった。

その女性達を悉く追い返せば、変な噂もたつ。
主人の麗しいご尊顔も相まって、社交界では人気の話のタネにされている



「仕事だ。噂など棄ておけば良い。」

そうおっしゃるものの、
仕事に支障が出ないために動く事もある。

その状況を防ぐ役割も執事として、統括してご報告している。


「引き続き頼む。
かの令嬢は、帰ると言うまで客間にいて貰えば良い。」


「我々で歓待します。」

にこやかに笑うも、当家の執事が甘い対応をするわけない。
その隙のない動きで優雅に礼をして去るチェバス


それを見送って、部屋に酒がないのに気づいた。

「ちっ。やられた。」

まだまだ、執事にとって自分は御坊ちゃまらしいとため息を吐いて
紅茶を飲んだのだった。
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