[完結]幸せの絶頂と女神さまの祝福

BBやっこ

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子爵家の花嫁

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女神の祝福のまま
女が、花嫁となった。

男は、見知らぬ女を娶ることになったのだ。
幸せそうに笑う女と今の状況がわからず呆然としている男。

見つめる先は動かないウェディングドレスと赤色。
絶命していると理性が冷たく言った。

それでも、祝福の光は輝く。
女神さまの祝詞の福音と共に。

その足元に、倒れるウエディングドレスの女が横たわっていても。



女神さまが祝福を与え、女が花嫁姿の女になり変わった
”同時に祝福を受けた男女は夫婦になる“

正装の男と、飛び込んできた女は夫婦となった。
男女は夫婦だ。

足元には、紅く染まった、花嫁姿の女が横たわっているまま。
女は女神に選ばれなかっただけだ。


そうして、ひとつの結婚式が終わった。


その事実は、人々の記憶には残したが、公の記録には残らない。
政略結婚とも言える扱いを受けたソレは、恙無く終わったのだ。

女神様の御威光、教会の権威。
国の威信と政略のバランス。

たったひとつの異例で、女神様の力に瑕疵を与えてはならない。




そこから、夫婦生活が始まった。

そして、直ぐに娘を授かった。
女神様の慈愛の下に。

黒髪が軽くウェーブされ、目は鳶色。
男に似た可愛い女の子は、5歳になる。

「今いくつかしら?」と聞く彼の乳母でもあったおばあちゃんに聞かれ…




思い出した。

私の“結婚式の記憶”

自分は、花嫁だったと。

そして、ここは彼の家。
私の家になる筈だった場所だと、分かったのだ。

“わたし”は、意味がわからず、座り込み泣き出してしまった。


泣き出したわたしを宥め、
部屋に入った。

連れて行ってくれたのは、
皮肉にも私の部屋になる筈だった場所だ。

入り口に派手な女が立つ。

「あら?平気そうね。なんなら、どこかに行ってもいいんだけど。」
ボソリと言ったつもりなのか、
女が得意の小声で実は聞こえている声で言っているのか。


どちらにしろ、
コレを母と呼ぶのは避けたいと心から思った。


子供が泣き出したので母を呼んでくるのはわかるが、
コレはない。と私が冷静に判断する。

わたしの反応が得られないので、苛ついた声で女は叫ぶように言う。

「こんな可愛げのない子より、息子が欲しかったのに!」

わたしにそれを言ってどうする?
後ろの侍女は無表情でコレを嗜めもしない。知らない顔だった。


「旦那様に頼まないと!」名案だとばかりの明るい声で
部屋を出て行った。


まだ、この女は夢物語の妄想の中に生きているらしい。
おばあちゃんに聞けば、わたしは5歳。

あれから5年以上は経っている?
あの結婚式から、

彼とアレの間に、子供をもうけている。

黒色と鳶色は、彼の色。
私が欲しかった彼の子ども。

それがわたし?
なんの冗談なの?悪い夢なのでしょう?

なんで…?

私の隣に彼がいない。
彼の、私の家になるはずだここに

幸せは続いていないのだと突きつけられた。





自分の部屋で、椅子に座る。
“わたし”について思い出すことにした。

子爵家の長女
彼とアレの1人娘。

子供用の家具が入っている部屋を見渡す。
私の母が選んだ、嫁入り道具たちはどこに行ったのだろう。

母が回収した気がする。と思い描きクスっと笑いが溢れた。


私がどうなったか。
わたしはどんな立場にいるのだろう。


そして、・・彼はここにいるの?
それを考えて、悲しくなってくるのだった。



コンコンとノックの音が聞こえたので、
咄嗟に涙を拭き「誰?」と問う。

「お嬢さん、お紅茶はいかが?」とおばあちゃんの声だ。
後ろからお茶の用意を持ってきた彼女は、顔見知り。
古くから仕えてくれる彼女たちだ。

安心してお茶にお呼ばれした。


ザラメ砂糖を2杯。ミルクをたっぷり。
私の好きな紅茶だ。

彼のは砂糖がもう一杯減る。
この2人は、砂糖を3杯にクッキー、ね?

ああ。いつものとおりだわ。

カップが小さな手では重く、扱いづらいこと以外は。
その緊張が見えたのか

「今日は、お稽古お茶の飲み方のレッスンですからね。」
ニッコリ悪戯っぽく笑んでくれたが、彼女の顔が疲れたように見えた。


「あの方にも困ったものねえ」とおばあちゃんがため息まじりに話始める。

アレは“あの方”と呼ばれているのか。
なぜこのうちにいるの?彼の私たちの家に。

俯きそうになると
「お嬢様。」
呼びかけられる。真剣な目だ。

「お嬢様に、この話をしておくのがいいと判断してお話します。
まだ幼いお嬢様に伝えるのは、酷なのかもしれませんが、

あの方と接する機会は、多い。

あの無責任な妄言の言葉に、傷ついて欲しくないのです。」

確かに5歳児のわたしに話すには、難しいだろう。
だけど、真剣なのは伝わる。

そして、
私なら理解できる。知識も記憶もあるのだ。
アレがおかしいのもわかる。つまり、

わたしの立場が厳しいのだろう。


「わからないこともあるでしょうが、お聞きください。」

平易な言葉にして説明してくれる。
わたしのことを。


わたしがここにきたのは、結婚式が終わった1年後。

1歳の女の子と乳母がやってきた。
その容姿は旦那様そっくりで可愛らしい女の子。


「あの方は、自分の子だと言っていましたが、
私共は、「そんなはずはない」と思いました。

旦那様は、愛しい方を亡くされ、悲嘆にくれていました。
家には戻らず、仕事漬けで悲しみを紛らわせていました。

母上にお会いになったり、教会に行くくらいで。
ずっと文官のお仕事をされて戻られていません。

結婚式の後に結ばれた言いますが、
旦那様は悲しみ、棺の側にずっといました。」

「いつ、やったと言うんだか」おばあちゃんが明け透けに言う。

「それから、旦那様はこの家にほとんど戻っていません。
契約のために、あの方をここに置いてはいますが…」


5年経っている。
その事実が私の心に重くのしかかった。

私は死んでしまった。
わたしが生まれた。

あの人を残して。
いつかはそうなるのだろうと思った。
歳を重ねて、子供を育てて、親を見送り別れや新たな出会いを得て。

そう、いつか。
それは、今、いや結婚式の最中ではない筈だった。


意識が遠のく感覚に逆らうため、紅茶を飲んだ。

2人はわたしの反応を不安気に見ている。
彼女達は、戸惑っている。

こんな子供に話して良いことか?と気遣わし気だ。
しかし私は、

知りたい。


「わたしは、誰なの?」


答えは、わからないだ。

あの方、アレの子ではないだろうとは
体型や行動でそうだと思われる。子供を産んだ女には見えないそうだ。

同じ色であるが、旦那様のお子ではない。

似た子を見つけて来たのだろう
という結論になっていた。


まあ、妥当だろう。

あの人の性格や周りの人の反応、
なんとなくそうなりそうだと話の流れに、不審な点はなかった。

疑いだせばキリがないが。
暗い気持ちになる。だけど、

わたしは、あの人とアレの子ではない。


その事実に安堵している私がいる。

安堵が伝わったのか、2人はさらにフォローするように
わたしを守ると言ってくれる。

優しさに涙がポロリと出た。


ここは、私の知っている家だ。
わたしにも優しい人達がいる。

けど、こんなに哀しいのはどうしてなのだろう?

優しい腕に抱きしめられ、
わたしは、彼との続かなかった幸せを嘆くしかなかった。





「眠ったのかい?」

「ああ。寝てしまった。」

気丈な子だ。
大人しく、物静かなこの女の子をあの方は見向きもしなかった。
いや、見れなかったのかもしれない。

この子を見れば、ある筈だった未来を思わずにはいられないだろう。
その現実との違いを突きつけられる心情は察して余りある。


あの方と言えば、最近この子に構わない。
正確には旦那様が帰ってくるときには、連れて歩いていた。

側にいる乳母に任せて旦那様の興味を引こうとしているのが
丸わかりだ。

それが通じないとなると、ドレスや装飾品でハデハデしく飾り立てる。
お茶会やパーティなどの社交にも出ている。
旦那様なしで、若い男を侍って。

あの方の興味からこの娘が外れたのは良かったかもしれない。
だが、小さな子に母親や父親が必要ないということにはならないだろう。

今日少しだけ話してみたが、この娘は聡い。
この幼さで、どれだけわかっているのか。

だけど
この娘をこの家は、愛せると良いと思う。

待ち望んでいた女性が来ず、別人が家に来た。
何故だか伏せられているが、人の口には上る。

それを知っている。
旦那様は家に近寄らなくなり、大奥様は悲しみに伏せていらっしゃる。

お身体に障らないか心配だ。

それを見ていることしかできず、職務を全うした。
あのお方のお相手をしながら、この幼子の成長を見ている。

なんて悲しい連鎖だろう。
だけどこの娘は悪くないのだ。

例え、

真実、旦那様が愛した花嫁様がいないという事実を
知らしめる存在だとしても。


この胸の痛みは、この子のせいではないと、わかっているのだ。
それをこの娘には背負わせないようにしなければと、

私共は決めているのです。


祭壇に祈る。
5年。

貴女様がいなくなって、
新しい者がこの家に来ても

貴女様がいないのが不思議でなりません。

いつ
この心は安らかになるのか
もうこの家には安寧の時間は来ないかもしれません。

幼子が良い夢を見られるように最後に祈った。
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