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それぞれの思惑

料理長 バリス

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北の地に行くとなれば
相当しっかりした準備が必要だ。

寒さに加え、魔物の獰猛さも
地理的条件も違うらしい。

そんなところに当主のがいるってか?
誰かの作為を感じるな。

わざと隠されたような。

そんなきな臭さだが、やっと行方の特定ができたわけだ。
この機を逃す手はないぜ!

俺も参加しての大捜索になる予定だった。
冒険者としてまだ腕も勘も鈍っちゃいないぜ?

とまあその直前に、セリからの手紙に
ガイサスが騒いでいた。

「すぐ屋敷へ」の帰還命令。

「訳くらい聞かせてから帰らせろよ」と聞き出したところ

セリを番というやつが現れた。
番っつーと、運命の番とかか?獣人の文化だよな。

思い浮かぶのはトラブル。
人攫いやら監禁。

相手は高ランクの冒険者らしい。
対抗手段がサディスだけでは不安だろう。

…暗殺しかねねえな。

そんな暴走を止める役目と、その相手の見定めろと
仰せ使った訳だわ。

重大任務だな!

俺はセリの今後を憂いている。
このまま貴族としての道を歩ませる

冒険者としての技能は十分だが
女一人でやっていけるほど楽なものじゃなく、トラブルも多い。
しかも貴族として顔が知られれば余計に市井じゃ暮らしにくい。

セリは十分、ヴェーネン家に協力してくれた。
『将来まで差し出せ』なんて言えねえ。

それはガイサスも同じだと思うが
…セリは優秀だ。

セリュートとして、男だったらとつい言ってしまうのもわかるくらいに
当主としての器も十分ある。

その優秀さで、ここまで当主不在でもやってこれたんだ。
これ以上望んでどうする?

「あの娘の希望を奪うことはないようにしたい」
ガイサスが言った酒の勢いの本音だ。

セリを守らねえとな!まだ子供のうちくらい大人がしっかりしねえと。

帰って早々、問題児と手合わせだった。
『竜の翼』の方は追々、観察させてもらうか。

サディスのやろう、ったく。石頭だよなあ
あいつの契約っつーのは奴隷契約に系統が似ているらしい。

その辺はよくわからないが、なんでも昔に主人ととものあるためにという誓いと、
道連れにする相互の契約という考えがあって生まれた魔術らしい。

それをあのいけ好かないガキだった執事見習いが、
生きてんのかわからない現当主と交わしたと聞いたのは覚えていた。
その時は、ふーんとしか思わなかったからな。
互いに良いならま、別にってな。けどな!?

「セリと交わしたいだ?
あの娘の意思は聞いたのかよ!

オマエは誘導している、この家にいるように閉じ込めてんだよ!!」


そんな大人の勝手な、焦りのようなものに
セリを絡めとらせたくない。


逃げて欲しいのかもしれない。
そして自由に生きていて欲しいのだ。

この屋敷で育った女の子の巣立ち
に導けたらと願うばかりだ。
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