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孤児院の食卓では、日が暮れてすぐ夕食が始まる。

シスターと神父に
スープにお肉が入ったことを感謝され

お祈りをして食事をした。

10歳が3人。
9歳と7歳、6歳以下が3人。計8人も居れば、わちゃわちゃしている。

誰?この人と遠巻きな子供たちだ。

自分も子供だったと内心思った。

マナーというものはなく

賑やかな音と声の食事風景に
驚きながら

いただく

森で食べるものより多く
屋敷の食事より、品数も大きさも違う。

屋敷の食事は豪勢なんだなと確認し
上品に食べた。

「あらー、綺麗に食べてくれるわね?」

(しまった!)
つい出てしまったらしい。

神父には、貴族とバレているが、
「貴族の家で、世話になっているので」

とぼかして言った。


貴族に良い感情がないように見えたのと
正直な事実だと思う。

貴族の子とは言えないのでは?
そう思っている。

そして、(もう、良いのでは?)
“ ヴェーネン家に子供がいた”

その事実で
家の延命は十分できる。

当主がいなければ、また逆戻りだが。


『あの家には後継者の子がいたでしょう?』
『子供?出自不明だったな』

『ああ、騙りだったって話だ。』

『へえ、じゃあ後継はいないのか』
『まあ、当主がいれば何処かから養子をもらうだろう。』


それで終わりだ。
終わりになるんだ。

そこに私はいらない。
舞台からの退場。

命があれば、殊更上々。

なんて話が頭の中で、展開される。


このシナリオに、ガイサスおじさんは
どれくらい慈悲を見せてくれるだろう?

当主を優先しないわけがない。
まだ見ぬ、暫定の父という人が絶対の決定権を持つ。

私に先はない。


悲しくもない。
ただただ、事実だろう?


「お口にあったかしら?」

考え事をしながらも食事を終え
シスターに聞かれる

「おいしかったです。」
料理長の味におよばず薄く、材料は小さくなっている。
それでも
賑やかな食事は満足感があった。

片付けを手伝い、
早々の就寝を勧められる。

(もう?!)

寝る時間の早さに驚くが、魔石の灯りを消費しないためだった。
節約というやつか。

屋敷では、自分で入手した魔核も使える。勉強に夜更まで使っていた灯りより
暗い魔道具だった。

この時間の就寝に戸惑うも

「お話、できる?」の小さな子の要求に

『精霊の泉』の伝承をお話し風に聞かせた。


寝たな。

私は寝れそうになく
ベッドを抜け出して夜空を見た



もうどこにいるか把握されているだろう。
どれだけほっといてもらえるか?

(明日連絡を入れよう)

帰らないという選択肢はないんだから。



一方
屋敷の大人たち


セリが出かけたらしいとは気づいていた
森に、畑、書庫と人目につかないとこによく居る。

しかし、日がすっかり沈み

夕食にと
書庫へ居るだろうと呼びに行ったものの

いない。

「どこに行った?」

セリは夕食の時間には顔を出す
使用人を早上がりさせるための配慮だ。

書庫にいる場合は、よく時間を忘れるが。
その時は、食事を書庫へ運ぶこともあった。


まずは料理長

「は?セリ・・様。見てねえな。」
料理を仕上げにかかっている。

メイド長に聞くも、分からず
報告に上がった。

【執務室】
ガイサスが書類にキリをつけたところ、報告を受ける
「いないのか?」その声は、驚きだ。

“常なら森にまだいるのか”
と問うところだが

「誰か知らないのか?」少々の焦りと心配が滲んだ。

「今探させています。」

現状の報告をするサディスは執事としての顔だ。
わがままなどない

「全く心配かけて」

子供への言葉を呆れが出た。
それを咎めず

呆然と
「帰ってくるだろうか?」呟くガイサスは、息子に言い含めた。

「あの子を巻き込んだのは、
大人である私たちだ。

まだ守られる年齢で、背負わせてしまった。
あの子がいないなら、戻らないなら終わりが早まる。

だが、十分有余をくれた。

あの子を責めてはならない。」


交換条件に押し付けた義務から
逃れたいのか?
どこに?

ハッとした
“どこにけばいいのだろう”

と言った子供に。
ここは、あの子の家ではないと態度で示してしまった。

自分は主人と認めていない。
子供としか扱っていない。

その主人もいない、執事のなんと無意味なことか。

ドンドン!ノックの後
執務室にバリスが来る。コック帽は頭にない。
「馬を走らせに、行ったらしい」

続いてマリーメイド長
「鳥が手紙を届けていました。」

面識のある
ギルド長からの手紙をガイアスが目を通し


「しばらく、そっとしておこう。」

どこへ行ったのか言わなかった。
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