【完結済み】当主代理ですが、実父に会った記憶がありません。

3-6

その湖の中は未だ夜は明けず、影を色濃く映していた。

煌めく魔力の後、そこにあったモノは魔力に影響を受け
虹のように軌跡をつけた

水の魔力が波紋を作ったように。
それに流れ、波紋のように伝わた。

新たに作られたそれは、既に名付けられている。

やがて
朝日を浴び、より一層深く色づき
煌く光の中、見つけられる時を待っていた。


日が昇り、朝だと頭が覚醒した。
セリは、起きるのが遅れたと焦る。

干し肉を齧りながら支度し
師匠を探す。


湖を一周してきたのか
悠々と歩いて戻ってきた。


「戻るぞ」

そのひと言で、私は屋敷へ返されることになった。
淡々と、森を駆け抜けていった。


師匠はこの地を去る。
荷物を取って、
ガイサスおじさんに会いすぐにだ。

急な別れの挨拶が思いつかず、戸惑いを隠せない私の
頭を撫で、収納小袋というべき小さな巾着袋を押しつけた。


バリスの出す馬車で屋敷を離れて行った
もう会う機会はないだろうと思う。私がこの地を離れないからだ。

少しは役に立てただろうか？と自問する。森に再び入る事はなく、
帰郷するのはここで探索のを諦めたのか。良い暗示があったら良いと思う。

私はというと、泊まりがけの探索の後は
屋敷に安堵より、違和感があった。

ここでは異物のような足下がクラッとくる感覚。

それを払拭したくて書庫で勉学に努める。

使用人たちは
変わらず過ごしていたようだ。

領主の仕事は
間引きの時期を迎えるためその手配があるくらいで、通常の仕事量のようだ。
サディスがついて側で学んでいるのだろう。

執事の仕事を免除しそちらを優先させ、しばらく経った。


普段より多く
冒険者を招き、宿泊した時期

セリが冒険者パーティについて森に行くことも増えた。

冒険者登録していない子供、
領主の子の扱いに困惑がみえるものの

子守り感覚で、森の浅いところを周る。
魔物を狩らなくても得るものはある。

手伝いに止まり、成果として反応されないが

まず
採取素材の取り扱い方が良くなった。

森の周り方
冒険者がどう動いているか目で見て学んだ。

その傍ら
取り掛かっている魔導具の方は、ゆっくり進めるしかない
理論の構築には、理解が必要だ。

手にできる魔導具を触りながら
実験や試作が出来上がる。


結果が出るのは
何年か見越す必要がある。焦っちゃダメだ。

穏やかと言っていいのか。
間引きでおさまる程度の魔物の動き。

参加したその場では
血が充満する狩りの跡

もう、大丈夫。自分も狩る側なんだ。そう決心ができた。


平和を取り戻した今を祝う席を用意し
冒険者を労う

使用人たちは忙しく働く
私も当主代理として、役目があった。

初めてだったのは、
酒癖の悪い冒険者の参加だった。

早めに切り上げたい気持ち
開催者なのである程度はいなければならない
貴族の義務、当主代理として留まる。

「そろそろ…」と離れようとして。

その冒険者に

張っ倒された。ガシャン！！と食器類が落ちる音と静寂より
頬に当たった指輪で血が伝う。

「貴族に寄生した、偽物のガキが！」
何が可笑しいのか高らかに笑い出す。

「どこの女のガキだ？ハハっ、どこぞの娼婦と俺の子かもな？？」

ぐらりと地面が傾ぐ。
何を喋るべきなんだろう？変に遅くなった視界。

酔っている冒険者を数人で摘み出している。
視線が集中していることに気づき、

ふぅ。とため息を吐き。
「引き続き、パーティをお楽しみください」

身に付けた微笑みを残して、場を去った。

考えが止まったまま、足は自室に向かう。
頭が重い。

何も考えたくない。

誰の子かわからないのは事実で
この家の子供かもわからないなんて

はやくもない遅くもない歩は、自動的に動き
思考することを阻んだ。


「セリ様」


呼び止められる。サディスだ。

留めていた感情が流れ出す
「本物が必要？今いるのは代替え品のただの子供ガキ？」
憤り、暴力と暴言。貴族としての私の否定。

「貴方しかいません」仰々しく頭を下げる男。

そう、
確かに。それは事実だ。


けど…「“今”は、ね？」

継承権とは男児に与えられることが多い。
女児しかいない場合は、婿をとる。

それは、弟が生まれた場合どうなるのか？
当主と会い、セリの出生が明らかになって何も変わらないと？？

私が進むのは、ボロボロの橋だ。
先まで渡れるかもわからない。


「(次期当主が)取り替えられても、世間は
気づかないかもね。」

それが現実だ。



さっさと、自室に入る。

呆然とした心、
涙が止まらなかった


この地でこの場所しか知らない
どこへ行けというのだろう？


無力な自分に
かけられた暴言より

冷たい感触が心を伝った。