【完結済み】当主代理ですが、実父に会った記憶がありません。

3-1

長らく当主不在の貴族家に変化があった。

「よー、当主代理、鍛錬か？」
「ちょっと採取してくるよー。」

別棟に、冒険者が宿泊していることだ。
声をかけ、手で挨拶をしてくれた3人は森に入って行った。

空いていた別棟に
「森で討伐目的の冒険者を招いてはどうか？」

とセリが言い出したことで始まった冒険者の招待

これには、双方の利点があった。

冒険者には森の近く、安全な宿泊場所ができる。
町中ではできない素振りもできるし
従魔にも慣れた使用人たち。食事の量も冒険者向けに多い。

貴族の家は、冒険者と関係性を深める。馴染みの冒険者が増え、依頼の指名も受けてくれた。
今後、ガイサスが不在だった時の戦力を見込めた。

ヴェーネン家は魔導具や分析の力でこの地に寄与するため、
他家と比べて私兵は多くない。


使用人たちの意見を取り込み計画を練り
まずは現料理長、バリスの知り合いの冒険者に声をかけ始めた。
元冒険者だけあって、知り合いを誘うのに信用があった。

貴族の家となると妙に勘ぐられ、倦厭される心配があったが杞憂に終わった。
それも使用人たちの人柄があってこそだ。

この計画はセリが次代の当主として、初の試みとも言えるものだった。
出だしは好調だ。

マリーが慌ただしく働いているのを
セリがこっそりメイドの手伝いに混ざり、叱られるという図もよく見かけ、

新しく来たメイドとおしゃべりをしながら
セリは勉強もしつつ過ごす。

ドム爺ちゃんも協力的で、畑の野菜やハーブを使わせてくれる
それをバリスは魔物の解体し、料理して出した。

魔物は冒険者達の差し入れだったりすることもあり、関係は良好だ。

そのうち、
バリスだけでは手が回らなくなり、

新たにドレアスとアンの夫婦が、別棟で働くことになった。
息子夫婦に町の食堂を譲り、来てくれた。

他の使用人とも顔馴染みですぐ打ち解けていた。

娘のレンがメイド見習いに入り
セリにお姉さん風を吹かせつつ、世間話をする仲になる。

新しい人材、新しい試みを軌道に乗せた。


ガイサスおじさんがこの地を離れても
戦力としていてくれる冒険者は心強い

人柄もバリスが時たま、供に夕食を狩りに行っていた。
この頃、鍛錬の相手をしてくれなくなったのでセリは少し不満だった。

まだ連れて行かないと言い渡されているので、温順しくしている。
代わりに、冒険者の話しを聞いた

「魔法を使う冒険者は少ない」

「なんで？」セリは、砕けた言葉を使う。執事のサディスは渋い顔だが変える気はない。

「冒険者より安定した職を得られるから」
「なるほど」


冒険者の事情や職の苦労話し、自慢を一緒に食事しながら聞き役に回る。


子供相手に軽妙に、楽しませようと
話してくれた。

冒険者には、強面の兄ちゃんやおじさんが多く
子どものセリは、同世代の子や姪っ子がいたりして
知りたがりの子に教えるようだった。

注意点は、
「俺(バリス)くらいの年齢はお兄さんと呼んであげてくれ！」
と頼まれた。

そういうお年頃があるらしい。


そんな賑やかな時間がある一方で、用事がないな時は書庫に篭る

セリの中で計画が持ち上がる
備蓄の管理、特に魔法薬が充実した。


次にやることは決まっている。

この家の書庫には魔道具に関する
内容と、魔の森のことがぎっしり詰まっていた。

これを
解き明かし、使えるようにすること。

それが当主代理の役目だった。