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それは小規模の魔物の襲来だったらしい。

ガイサスおじさん、当主補佐は、子供を戦いの場に連れて行くわけはなく。

大人しく指図に従って、臨時の治療場に来た。
防衛戦線から下がった、退避を想定された建物の中へ使用人たちと向かった。


この地は、森の恵みと共に魔物の脅威に晒される。
その魔物が時に群を成して襲ってくる“魔物の氾濫”と呼ぶ緊急事態。

魔物の恐さは、元冒険者の料理長からよく聞いていた。


でも、私は流れる血の臭いを知らなかった。

建物内では簡易なベッドの上で
人々がベッドで痛みに苦しむ声

その様子に尻込んだ。
家の者は慣れているらしく、傷ついた兵や冒険者の治療に加わる。

包帯を巻く、物資の確認や配布をして建物内に散らばっていった。

換気のために開けられている室内でも、
汗と血の臭いが混じって気持ち悪さが胸に上がってきた。

視野が暗くなって
目眩がする。

「水を!」
治療師らしき人の指示に注意を向けられたため、
足を叱咤して水を取りに向かった。


メイドの仕事のように動けば良いんだと集中する。
治療に必要な物を用意して、水と包帯やタオルを置いてまわる。

呻く声
血のにおい
胸を鷲掴みにされたような心苦しさに、
それを気のせいだとねじ伏せ

“私は怪我していない“と気持ちを切り替えて
動き回った。

そのうち、
食事の準備ができ、人の出入りも落ち着いてきたため
休憩と昼食に入ったが。

気分が悪い。クラクラする頭と、
吐きたくなる気持ちをなんとか、大丈夫なように装い

メイドの手伝いをしていた頃のように、すました顔で控える。

建物内に緊張感はもうなく、”報せ“も入った。
『魔物は既に沈黙し、死人は出ていない』
と伝令を耳にし、戦線に出ているガイサスおじさんのことを考えた。

今後、出陣するのは私だ。

ベッドに横たわるのは私かもしれない。
その現実が突きつけられる。

「うう…痛い…。」

痛みに耐える人達を見ながら思う。

「貴族の子になる」は、戦いの場に出ることを意味した。
あの家にいるために必要だと感じたから。

私の扱いはあやふやだ。

優しいのはきっと小さな子供のうちだけ。
手放さないのは、当主がいないから。

私のお父様と思われる、知らないおじさん。
ガイサスおじさんの子供くらいの年齢で、サディスより歳上。

周りは

『自分の身くらい、自分で見ろ』と手を離し
『当主の子でしょ?』と優しげに言い、違うことに期待する。

”ただの子供“ではここに居られない。

けど、貴族の子は守護者がいなければ
ただ死ぬだけだと強く思った。

セリには誰もいないが…

“セリュート・ヴェーネン”には家があり、会ったことはないが家族と
優しく接してくれる使用人たちが居る。

求めてくれる。


たまに聞こえる
幻聴は

”貴族と嘘をついた子どもは、王様から
罰が与えられえるだろう“

と言う。

貴族の子、セリュートに父母の守護はない。
それなら捨て子とどう違うのか?

行き場などない。
この道しかないのだと

前を見るしかなかった。

『分かっていたはずだ』と怖くて泣きたくなるのを
グッと堪えた。
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