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ガイサス視線

「赤児?」

聞き返した訳ではないが、そう繰り返したのは
面倒事になる考えからだった。

貴族の家に赤児とともにやってきて、『認知しろ』
『教育費を出せ』とは、よく聴く詐欺だ。

この家にも何回か来ているが
あの坊ちゃん、現当主にそんな甲斐性などない。

魔道具狂いに近い趣味の持ち主
それをやるため、興味のために領主の仕事をやっている若い主人だ。

引きこもりで女性に興味を示さない主人を
おだてて、宥め、王都へ送り出したのは私だ。

友人であり先代から任命を受け、執事長として
この家を守ってきた。

この地は魔物の脅威がある。貴族が民を守るため出陣し
命を落とすこともあるが。
まさか、王都で行方知れずになるとは思ってもみなかった。

6年もだ。

その間に赤児は、現当主と同じ色合いを持つ子に育った。

そっくりな容姿。並べば親子と思える面影。
それでも当主の子とは断定できないのが歯痒い。

赤児を送ってきたテイムされた魔鳥、世話をしていたリス型の魔物が
誰のものかは突き止められた。
本人には会えていないが、北から飛んできたと分かった。

領地を離れ、王都よりももっと北に行く理由とは?
田舎のように安全ではないと言い含め王都の屋敷の者に任せたが

その当主は、生きているかさえわからない状態だ。

手がかりは赤児がもたらしたものだけ。
それ以降マシな情報が得られず、なんとか領地を当主補佐として守ってきたが

色々と限界に近づいていた。
当主がいない貴族家とは虚しいものだな。


それでも、当主の存命を信じている。
すぐにでも探しに行きたいが、この家を私が離れる訳には…。

堂々巡りの思考。
当主は死んでいるのでは?という諦めの思考に陥る。



それを変えたのも、魔鳥に運ばれてきた赤児…
今はもう6歳になる子供だ。

「なら、が当主になったら嬉しい?」と言ってきた。

確かにこの子が、本当にそうなら
色々とできることがある。

しかし、違うのならば?虚偽を申請したと咎められる可能性。
そこを突かれて、家を潰されるやもしれん。

当主の後ろ盾がない子をどう守れるだろうか?
実子の証明も、養子にするにも当主が必要だ。


そこが為されないままの危うい“当主代理”。
この子に、貴族の義務が発生する。


子どもを戦いの場に出す。
貴族の義務とは言えそれは、親の庇護の下。

この子にそれはない。私だけでは庇えないだろう。


今まで、この子がしていた狩りのまねごと、
料理の手伝いと違う。

義務を果たすこと。
この地で大きく意味を持つ、それは命懸けだ。

途中で投げ出したくなるほど。
子供にはわかるようじっくり話をした。

話をして分かった、聡い子だ。
貴族の子となることで変わる未来に、覚悟があった。

若いメイドが囁く『当主の子か怪しい』
『女の子に継げはしない』と聞いていたようだ。


世間の言葉としては正しいだろう。やり方はあるんだが


この子が拓いてくれた道
私は共犯だ。

この子に重荷を背をわせる。
延命でしかないかもしれない。だが希望の光だ。


当主を本格的に探すのは、5年くらい後だが。
3年で補佐があれば、領地を回せるくらいにしておきたい。

息子のサディスにも仕事を仕込むことにしよう。


これが良かったのかわからないが、もう後には戻れない。

私の、覚悟はできた。
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