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「セリちゃん」
出身、誕生日、
名前さえついていなかった赤児は、

“セリュート”という次の当主の名前を一部、もらっていた。

使用人に交代で世話され、
すくすくと育った女の子は、屋敷で大事に育てられていた。

今は元気に育ってくれれば良い。そう思いながらも
メイドになれるくらい礼儀作法や生活の仕方を身につければ、この子のためになる。
魔物の氾濫が起きる危険な土地だから、護身術は身につけさせよう。
植物に興味があるなら知識があって役に立つこともあるだろうと、

遊びの延長線上で基礎のようなものを教えれば
面白いように覚えていった。

魔の森と言われる近くでの生活、共生や対処を知っている者たちの集まりだ。
小さな子くらい守れる自負と実績があった。
安全な場所で、その知識を惜しみなく注がれることになる。

良く相手をしていたのは、庭師のお爺さん。
独りが気楽だといいつつ、ここの薬草園と畑を見て周り

弟子の庭師も育てていると言う。その近くで赤児が土に塗れて遊んだり
日向ぼっこしながら寝てしまう。そんな様子をそれとなく気にしながら面倒を見ていた。

そこには弟子が数人、時期によって入れ替わり立ち替わりしていた。

「機嫌伺いをして交代できている」
「師匠の世話をしているのだ」と冗談か本気か笑いながら言っていた。

動き回るようになれば、1人遊びに花を眺め土の生物を捕まえた。
「物怖じしないやんちゃな子供になるな」と可愛がられていた。

おしゃべりするようになれば、
薬草をおぼえ、森にあるという植物もおぼえた。

聡明だと褒めて
教えてくれる庭師のおじいちゃんは弟子へ教える知識と同じように、植物の名前や効能
育て方まで教え込んだ。

うちの弟子よりできが良いな!
と楽しそうだった。


昼からは料理人のところで話をすることが多い。
赤児の頃は一方的に語るだけだった料理長のお話。料理の話が多く子守唄の代わりだった。
反応を返す年齢になれば
元冒険者の料理長は、町の話や魔物の危険を教えてくれる。

おやつまでつく劇は、お気に入りの時間だった。
冒険譚のようで、拳を握って聞き入ったものだ。

その興奮で昼寝ができないと、メイド長に文句を言われるが、
その歳には、寝るのが早いので昼寝は免れていた。

動き回るようになれば、
メイドのおばさんのお手伝いに、せいいいっぱい動いた。

夕食を共にして夜の仕事をするメイドたちを見送って寝った。

疲れにベッドが優しく抱きしめ、
体力のついてきた頃には、一端のお手伝いができる。
ただ、メイドの取り留めのない話を静かに聞くおとなしい子だったそうだ。
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