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この子供は?
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辺境の地は、他国の侵略から自国を護るのに必要な防御の要だ。
そこに住う貴族には、軍事力、防御力、戦略をもってして協力して
守りを固めて備えていなければならない。
魔物の氾濫もある危険な土地だが、富をもたらす物を秘める森が広がって恵も与えている。
その森と共存し、魔物を退けることを貴族の責務として求められていた。
土地柄、軍事に明るい者、守りが強い者、知略を活かす貴族が
貴族同士のパワーバランスを保ちつつ、その土地を護っていたが…
辺境貴族のひとつの家が、現在の当主が不在のまま今日まできていた。
そもそもが、その当主は王都に行ってから、帰ってこないのだ。
嫁取りに王都の社交シーズン前より、いち早く送り出したものの
また書物の方へ通っているのだと使用人達は呆れて待っていた。
手紙は来ていたものの、もう帰郷予定を3ヶ月も過ぎている。
あまりにも遅い。
その上、音沙汰もなくなった。
現当主は頼りないながら、魔法や魔道具に精通している。
古くこの地を護っていた一族の血を引いた正当なる後継者だ。
他に本家と言える家族はいない。
研究に没頭する性質だが、義務を捨てるほど軽薄ではない。
ーと信じている使用人一同。少々間抜けで信用が置ける傑物とはいかないが…
「その身が無事なのか?」
先代から仕える執事は、気を揉んでいた。
執事でありながら、代理としてこの家の権限を授かっている。
しかし、当主が関わっている仕事がさっぱり進まない。
領地の運営は手堅くまわるが、独自に当主が着手していたものは専門知識が必要で手が出せない。
効率化や強化を狙った魔道具の手入れの仕事を受けていた。
皆、顔見知りで協力的だが、そのままにしておくのも座りが悪い。
現状をこのままで良いとは思わないが、王都の知り合い全てに連絡を取ってみるも
当人が掴まらないのだ。行き方知れずとなった当主が居なくてもなんとか古参の使用人が
家を支え、領地を護った。
そして『北へ行く』と書いたメモのような手紙があったが、それ以降何もないまま
もう半年たった。本格的な冬で出れなくなる前に、捜査の依頼を出したが
見つけ出すことは叶わなかった。いよいよ、生死さえも怪しくなってくる。
とうとう、1年以上。冬を越え新年が過ぎ、再び社交の時期が始まる。
そろそろ、本格的に“探し人”として王都に報告の必要があるだろうか。
執事は、何がこの家のためになるか。真剣に悩んでいた。
そんな暗澹とする気持ちとは裏腹に、麗かな日の訪れと共に、
この家に送られてきたのは
鳥の魔物に配達されてきたバスケット。
その中に赤児がいた。
使い魔らしき小柄な猿の魔物が、その子をあやしている。
1歳に満たないのではないか?と思える
その子と一緒にあったのは当主の持ち物。
魔力の篭った御守りとともに、降り立った“手がかり”だった。
執事はすぐにこの従魔と鳥の魔物の所属を辿った。
赤児の方は、屋敷の者に預けられる。
使用人の台所では
「どこの女の子供だ?」
「まさか、当主様の子ってワケあるまい。」
と珍客を見ようと使用人が集まった。
「ほら!うるさいよ!!あ~ヨシヨシ、お腹空いたねー。」
子供の扱いに慣れたメイドが赤児の世話をする。
「怪我はないな?」と料理長に確認され、メイドにお湯で身体を清められた。
「あら!女の子だよ。」の声、清潔な布に包まれ
温めたヤギの乳を飲み、もにゅもにゅと口が動いている。
すぐに眠ったが、
泣く体力もないのかもしれない。空の旅はどんなものだったんだろう?
聞いても答えられる訳がなかった。
「確かに、奥様を連れてこいと送り出されていた。
しかし、なぜ赤児だけが家にきたのだろう?」
執事長が嘆く
「当主本人は、どこにいるんだ?」
それは十数年も答えが出ないとは
誰も思わなかった。
その一連の流れを見ていた私も、
まさかその時の赤児が、当主代理になるとは露とも思っていなかったのだった。
そこに住う貴族には、軍事力、防御力、戦略をもってして協力して
守りを固めて備えていなければならない。
魔物の氾濫もある危険な土地だが、富をもたらす物を秘める森が広がって恵も与えている。
その森と共存し、魔物を退けることを貴族の責務として求められていた。
土地柄、軍事に明るい者、守りが強い者、知略を活かす貴族が
貴族同士のパワーバランスを保ちつつ、その土地を護っていたが…
辺境貴族のひとつの家が、現在の当主が不在のまま今日まできていた。
そもそもが、その当主は王都に行ってから、帰ってこないのだ。
嫁取りに王都の社交シーズン前より、いち早く送り出したものの
また書物の方へ通っているのだと使用人達は呆れて待っていた。
手紙は来ていたものの、もう帰郷予定を3ヶ月も過ぎている。
あまりにも遅い。
その上、音沙汰もなくなった。
現当主は頼りないながら、魔法や魔道具に精通している。
古くこの地を護っていた一族の血を引いた正当なる後継者だ。
他に本家と言える家族はいない。
研究に没頭する性質だが、義務を捨てるほど軽薄ではない。
ーと信じている使用人一同。少々間抜けで信用が置ける傑物とはいかないが…
「その身が無事なのか?」
先代から仕える執事は、気を揉んでいた。
執事でありながら、代理としてこの家の権限を授かっている。
しかし、当主が関わっている仕事がさっぱり進まない。
領地の運営は手堅くまわるが、独自に当主が着手していたものは専門知識が必要で手が出せない。
効率化や強化を狙った魔道具の手入れの仕事を受けていた。
皆、顔見知りで協力的だが、そのままにしておくのも座りが悪い。
現状をこのままで良いとは思わないが、王都の知り合い全てに連絡を取ってみるも
当人が掴まらないのだ。行き方知れずとなった当主が居なくてもなんとか古参の使用人が
家を支え、領地を護った。
そして『北へ行く』と書いたメモのような手紙があったが、それ以降何もないまま
もう半年たった。本格的な冬で出れなくなる前に、捜査の依頼を出したが
見つけ出すことは叶わなかった。いよいよ、生死さえも怪しくなってくる。
とうとう、1年以上。冬を越え新年が過ぎ、再び社交の時期が始まる。
そろそろ、本格的に“探し人”として王都に報告の必要があるだろうか。
執事は、何がこの家のためになるか。真剣に悩んでいた。
そんな暗澹とする気持ちとは裏腹に、麗かな日の訪れと共に、
この家に送られてきたのは
鳥の魔物に配達されてきたバスケット。
その中に赤児がいた。
使い魔らしき小柄な猿の魔物が、その子をあやしている。
1歳に満たないのではないか?と思える
その子と一緒にあったのは当主の持ち物。
魔力の篭った御守りとともに、降り立った“手がかり”だった。
執事はすぐにこの従魔と鳥の魔物の所属を辿った。
赤児の方は、屋敷の者に預けられる。
使用人の台所では
「どこの女の子供だ?」
「まさか、当主様の子ってワケあるまい。」
と珍客を見ようと使用人が集まった。
「ほら!うるさいよ!!あ~ヨシヨシ、お腹空いたねー。」
子供の扱いに慣れたメイドが赤児の世話をする。
「怪我はないな?」と料理長に確認され、メイドにお湯で身体を清められた。
「あら!女の子だよ。」の声、清潔な布に包まれ
温めたヤギの乳を飲み、もにゅもにゅと口が動いている。
すぐに眠ったが、
泣く体力もないのかもしれない。空の旅はどんなものだったんだろう?
聞いても答えられる訳がなかった。
「確かに、奥様を連れてこいと送り出されていた。
しかし、なぜ赤児だけが家にきたのだろう?」
執事長が嘆く
「当主本人は、どこにいるんだ?」
それは十数年も答えが出ないとは
誰も思わなかった。
その一連の流れを見ていた私も、
まさかその時の赤児が、当主代理になるとは露とも思っていなかったのだった。
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