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訪れる屋敷

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結婚を夢みていた時期もあったけど。

貴族令嬢の倣いとして、私は結婚した。今日顔を合わせる人とだけど。
なんでも、祖先の約束した婚姻らしい。


「ミーラ様、馬車酔いは大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、レナ。」

「無理なさらないでくださいね。まだかかるようですから。」

「そうね」


王都から、森を突き抜けるように走っている。立派な馬車で嫁入り先のミッドナイト家の家紋
『黒い羽が交わった』紋章が入っていた。

その豊かな内情を見せる一方で、
迎えの御者の愛想のなさとか。手紙のやり取りでの必要最低限の言葉など。

あまり良好とは思えない対応に、少しの不安はある。
調べてみたが、とにかく
わかる事が少なく社交会にもほぼ出ていないらしい。

“陰気な”と陰口を叩かれる貴族家だ。代々、森の奥の屋敷で暮らしていると聞いている。
私とレナは2人でその屋敷に向かっている。

「まるで御伽噺よね。」

これが、王子様が迎えに来たような明るい穏やかなものなら良かったけど。


私の現実は、知らない人との結婚だ。
この憂鬱な気分を止められる要素がどこかにないものか。


「ちょっと酔ってきたかしら。」

「では、御者に少し止まって休んでもらうよう言いましょう。」


コンコンっ
「ちょっと!」「ねえ、聞こえないの?」

無視しているのかしら。
舗装されていないけど、振動はそれほどない。聞こえていると思うけど。


「止まってくださらない?お嬢様が馬車酔いしてしまって…」

耳が遠いのかしら?御者は白髪の壮年の男性だった。

くるりと振り向き…

「止まりません。そう命を受けておりますから。」


そう言ったきり、まっすぐ前を見る。馬車は走り続けた。


森の奥の奥。
たったひとつ建っている、屋敷へと。

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