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育った街へ
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しおりを挟む 私は16歳になり、ギルディス帝国の帝都で成人の儀式を受ける事になった。もちろん、専属騎士であるヴェルも一緒に付き添ってくれた。
教会で祈りを捧げると、王宮医療技師を目指していたはずだったのだが、ステータスカードの職業の選択欄を見てみると聖女と表示されているだけ。他の選択肢がない?
「は?嘘でしょ?」
思わず声に出てしまった。
神聖国ヴァリスタから派遣されていた神父は、私が手に持つステータスカードを覗き込むと驚愕する。
「聖書の言葉どおり、魔王が現世に復活する時、勇者、聖女、賢者が天命を受けて誕生をする。今ここに聖女様が誕生された!!」その言葉が脳内を駆け巡る。
教会にいた、人々は目を閉じて、跪き目、私に祈りを捧げる。横目でチラっとヴェルを見ると、なんだか寂しそうな顔をしていた。
本来未婚者である私の専属の騎士であるヴェルは婚約者として扱われるが、聖女はその意思に関係なく勇者と結婚をしなければならない。既に婚約をしていてもそれは元々無かったものとして無効になるのだ。
ちなみに、聖女という役職を知ったのは、私達が仲間を探し旅をている最中、神聖国ヴァリスタの宿に置かれていた聖書に書かれていたからだが、その時はふーん、としか思わなかった。
聖書によると、聖女とは勇者と賢者を含めて、必ず同じ時代に誕生する事になっている。
神様から聖女に選ばれる基準は処女である事と、勇者の血筋である事が条件だと書かれていた。今のところ勇者復活の声は聞かれないが、そのうち現れると言うことだろう。
それにしても、まさか自分が聖女の末裔?ありえないでしょ。そうは思ったがそもそも拒否権などなかった。
教会から用意された宿に入ると、ヴェルはこの世の終わりのような顔をしていたが「ジュリエッタお嬢様。おめでとうございます」と、長い付き合いの私だけが分かる作り笑いで、祝いの言葉を口にする。私だって悲しすぎて涙が出そうだ。
「何言ってんのよ。まだ聖女になるなんて言ってないでしょ。それにいい加減、お嬢様と付けるのはおよしなさいよ。今では亡国の伯爵家の娘。何の価値もないわ」
「それでもです。あの時ジュリエッタお嬢様がいなかったら、今こうして僕が隣にいる事はありませんでした。それに私とお嬢様は主従の関係、他の者に示しがつきません」
「ヴェル。聖女なんてならないから、一緒に逃げて結婚しよ」
この時本当にそう思った。彼の為になら死んだっていい。そう思うほどにだ。
「何を馬鹿な事を言っているんですか。魔王を討ち滅ぼす。ジェントの町を出る時にそう誓ったじゃありませんか。ここで逃げるなんて、お嬢様らくありません」
「それじゃさ。魔王を倒したら一緒に、どこか遠くの国に逃げようよ」
「分かりました。考えておきます」
ヴェルは…ヴェルはどう思っているのだろう。ヴェルの口から本当の気持ちを聞きたい。そう思ったけど怖くて聞けなかった。
それから私達は、正式に聖女認定の為に神聖国ヴァリスタの聖殿へと向った。
その旅の途中で、各国を巡りエルフのフェミリエと獣人のミラと言う新たな仲間を得た。腕は立つが、少し気に入らないのは二人が二人とも、ヴェルを慕ってやまないからだ。ヴェルはその気がなさそうなので横目にため息をつくだけだが。
船に乗り、隣の大陸である神聖国ヴァリスタに到着をすると大教皇から、正式に聖女と認定された。
それからヴェルは聖騎士に、仲間の二人は聖戦士として仮認定された。成人の儀ではこれが選択欄に載るらしい。そんなわけで聖国連合軍に加わり魔王との戦いに備えた。
聖国連合軍と言っても、私達パーティは単独行動を認められていた為、聖国連合軍の指揮下からは外れている。食事や住まい、修練などは一緒だったが…
聖国連合軍に入って半年後、四天王の一人が、故郷であったレディアス王国の北に位置する隣国、ギルディス帝国のメリドの砦に攻め込んだとの一報が飛び込んできたので、近くにいた私達四人と聖国連合軍は軍が用意した船に乗り砦へと向かった。
劣勢であったメリドの砦は、私達の参戦によって形勢逆転。敵の将であった四天王の一人であるシルフィスを、ヴェルを主体とした攻撃で追い込んだ。
シルフィスは、ヴェルに剣で胸を貫かれ、黒い霧となり体がゆっくりと体が崩壊し始める。
「貴様等は何者だ!」
「亡国レディアスの伯爵の娘ジュリエッタ。聖女よ」
「聖騎士、ヴェルグラッド」
「エルフ族のフェミリエ」
「獣人族のミラ」
「忌々しい。勇者の末裔か。だがな、聖女では魔王様は倒せん。魔王様と戦えるのは勇者だけだ。せいぜい余生を楽しんでおけ!」
シルフィスは、悪魔らしからぬ潔さで敗北を認め、身体は塵のように消え始めたので、傷ついた兵士の所へ治癒魔法を掛けに行く。
「甘いぞ。ここで油断するとは。死ね!」
刹那、四天王のシルフィスは消えかかった体で魔槍を拾い放つ。
「危ない!!!」
ヴェルは私を庇って魔槍を受けた。
「だっ…だいじょうぶか」
「へっ、えっどうして!!何が起こったの?」
「馬鹿!!あなたを庇って魔槍を受けたのよ。ほら血がこんなに。早く治癒魔法を!!!」
「無駄だ!!血は止まるであろうが、その魔槍には魂に呪いが掛かるように術式を施した。一切の魔法を受け付けぬ。死後も苦しむがいい。聖女を道連れに出来なかったのは忌々しいが、聖女である貴様は愛する者を亡くして苦しむがよい。さらばだ。勇者の血族よ」
シルフィスはそう言うと、今度は完全に塵となって消えた。
その場で治癒魔法を掛けると、シルフィスの言うとおり傷は塞がったが、ステータスカードに示された呪いは消えないし、最悪な事にポツポツと雨が降ってきた。
「ジュリエッタ様。ここでは濡れてしまいます。ヴェル様を洞窟に運んでから治療に当たりましょう」
拠点としていた近くの洞穴に場所を移すと、急いでヴェルを寝かして、解呪魔法のデスペルを掛け続けるが効果が無い。ステータス異常を解くホーリーライトを使ってみたが、ステータスカードに表示されている悪魔の呪いの文字に変化は無い。
「なっ なんで解呪の魔法も聖属性魔法も効かないのよ!!ヴェル!死なないで!!」
「ジュリエッタ様!この呪いにはスキルや魔法は効きません!諦めてヴェル君を楽にしてあげましょう」
ミラは泣きじゃくりながら私を止めるが、ここで私が諦めたらヴェルは死んでしまう。
「そんな事無い!諦めるもんですか!!ホーリーライト!!デスペル!!」
「ヴェル様が……とても辛く苦しそう……苦しむ姿に私は耐え切れそうもありません……ヴェル様を早く楽にしてあげてください……」
フェミリエもまた、泣きながら私を止める。
「ごめんねヴェル!私が油断したばかりにこんな事になって!!」
そう泣きじゃくっていると、ヴェルが力なく目を開けた。
「ジュリエッタ…これはオレの本望です。聖騎士として聖女様の盾になって死ねるのですから。あなたはこの世界の希望の光……無事で良かった。でも最後にひとつだけ言わせてください。今まで言えませんでしたが……ずっと好きでした」
ヴェルは私の専属騎士で婚約者なのに、今まで一度たりとも好きだと意思表示をしてくれなかった。それをこんな死に際に……
「馬鹿!こんな時に何を言ってるのよ!元気な姿になって、正々堂々と言いなさいよ!」
「それは…ごめんなさい。叶えられそうもないです……気が…遠くなってきた。先にあの世に……ってます」
ヴェルは力を振り絞るようにそう言うと、全身の力が抜け落ちた。
「――――!」
「――――!」
「……死んじゃゃいやっっ!!ヴェル~!!」
私の最愛のヴェルはこうして亡くなった。私を残して……
◇ ◆ ◇
ヴェルの冷たくなった亡骸に縋り続け、朝を迎える。
死後硬直が既に始まっていたので、フェミリエの氷の魔法で冷凍保存を頼んでから棺に入れた。安らかに眠るヴェルを見ると涙が再びこみ上げてくる。
ヴェルを慕ってやまなかった二人は、涙を流さずに淡々と棺の中に花を並べていた。
「あなた達、ヴェルが死んでしまったというのに、随分とあっさりしているのね」
「ジュリエッタ様。いい加減にしてください。私達が普通でいるように見えますか?あなた程ではないでしょうが、私達は二人はヴェル様をお慕いしておりました。とうとう最後まで言えませんでしたがね」
「ヴェル君は、ジュリエッタお嬢様一筋でしたからね。振られるのが分かっていて言えるわけないですし…」
「そのヴェル様は、あなたを守って死んだのです。それが彼の望みであったのなら、私達二人が何を言えるのでしょうか!泣いて、喚いてヴェル様が生き返るなら何度でも言います。こうして、涙を堪えながらお別れなんてしたくありません。ヴェル様を!ヴェルを返してお願い。神様~!!」
気丈に振舞っていたフェミリエは堪えていたのだろう。大粒の涙を流しながらそう叫ぶと、ミラまで泣き出してしまった。
「ごめんね!こめんなさい二人とも!!」
心の底から謝罪をしたが2人の言うとおり泣いてもヴェルは返ってこない。これだけは確かだ。
夜になり砦に戻ると「聖女様達が帰って来たぞ!!ご無事だ」と、聖国連合軍の兵士から歓迎ムードだったが、私達が引く棺を見ると兵士達はヴェルがいない事に気が付く。
兵士達は剣を捧げ、剣を持たぬ者は全員敬礼をして、私達が通り過ぎると、剣を置いて胸に手を当てて黙祷を捧げる。
ヴェルは連合軍に入ると、兵士達に剣技を教え込み、その持ち前の優しさと強さに兵士達からも慕われていた。その彼が亡くなったのだ。泣き崩れたり号泣する兵士を見て、もう出尽くしたと思った涙が溢れ出る。
その晩、ヴェルの遺品を涙を流しながら整理をしていると手紙が見つかった。1通は私宛、もう1通はフェミリエとミラ宛だった。
手紙を認めてみる。
ジュリエッタお嬢様へ。
この手紙を見たと言う事は、私は恐らく死んだのでしょう。
思い返せば、お嬢様と出会い、助けられたことばかり思い出します。もしあの時お嬢様に助けられていなければ、私の死はもっと早かったのかもしれません。
私は、お嬢様に助けられてばかりの人生でした。そんな私はお嬢様を好きになりました。身分が違う。気持ちを抑えながら、勉強や剣術に打ち込み、自分の気持ちを打ち明けられず誤魔化し続けました。
お嬢様の専属騎士となり、将来私の妻になると決まった時は、本当に天に舞い上がる気持ちでした。
私がその気持ちをお嬢様の誕生日に打ち明けようと決心をしていましたが、祖国は魔王が復活いて亡国となり、その機会を失ってしまいました。
お嬢様が聖女となり、結婚が無理となった時は死にたい気持ちにもなりました。あの時、お嬢様が私と一緒に逃げてと言った時には、嬉しくて本当に全てを捨てて逃げたかったのです。
ですが苦しむ人々を見捨てて、自分達だけ幸せになるなんて受け入れられませんでした。
お嬢様、ファミリエ、ミラと一緒に旅が出来た事は本当に楽しくて充実した毎日でした。今も私は幸せです。
最後になりますが、お嬢様はこの世界の人々にとって最後の希望の光です。私と同じように不器用なフェミリエとミラの事を宜しくお願いします。
気の利いた言葉は最後まで言えませんでしたが、お嬢様を思う気持ちは誰にも負けません。出来れば自分の口から言いたかったかったですが、ごめんなさい。
もし来世があるなら、今度こそ一緒になりたい。愛しています。
ヴェルグラッド・フォレスタ
手紙を読み終わると、私達は互いに胸と背中を貸しあい号泣した。なぜ、私はあの時、聖女なんてやめて強引にでも契りを交わさなかったのかとも後悔した。
でも、今更後悔してもヴェルは生き返ことはない。それから暫く経って泣きやむと、二人がいいと言うので二人の手紙を読んでみる。
フェミリエ、ミラへ
二人の気持ちに応えてあげられなくてごめん。もしもっと早く君達と出会えていたなら、なんて、都合のいい事を思ったりもしたけど、僕の隣にはずっと愛するお嬢様がいた。
二人は美しくかわいいから、直ぐにいい人が現れるよ。自信を持ってほしい。
最後になるけど、もし僕がいなくなっても、お嬢様を支えてあげて欲しい。願わくは、また来世で一緒に旅をしたいな。一緒にいれて楽しかったよ。
ヴェルグラッド・フォレスタ
手紙を読むと、私は、この場にいるのが耐えれなくなり外に出た。
すると、どこから沸いて出たのか分からないけど夜光蝶が夜空を舞い始め、その幻想的な姿は、まるでヴェルを天国に導くように見えた。
夜光蝶を見ながらヴェルが天国で安らかに眠れるように、ただ時間を忘れて祈りを捧げ続けた。
教会で祈りを捧げると、王宮医療技師を目指していたはずだったのだが、ステータスカードの職業の選択欄を見てみると聖女と表示されているだけ。他の選択肢がない?
「は?嘘でしょ?」
思わず声に出てしまった。
神聖国ヴァリスタから派遣されていた神父は、私が手に持つステータスカードを覗き込むと驚愕する。
「聖書の言葉どおり、魔王が現世に復活する時、勇者、聖女、賢者が天命を受けて誕生をする。今ここに聖女様が誕生された!!」その言葉が脳内を駆け巡る。
教会にいた、人々は目を閉じて、跪き目、私に祈りを捧げる。横目でチラっとヴェルを見ると、なんだか寂しそうな顔をしていた。
本来未婚者である私の専属の騎士であるヴェルは婚約者として扱われるが、聖女はその意思に関係なく勇者と結婚をしなければならない。既に婚約をしていてもそれは元々無かったものとして無効になるのだ。
ちなみに、聖女という役職を知ったのは、私達が仲間を探し旅をている最中、神聖国ヴァリスタの宿に置かれていた聖書に書かれていたからだが、その時はふーん、としか思わなかった。
聖書によると、聖女とは勇者と賢者を含めて、必ず同じ時代に誕生する事になっている。
神様から聖女に選ばれる基準は処女である事と、勇者の血筋である事が条件だと書かれていた。今のところ勇者復活の声は聞かれないが、そのうち現れると言うことだろう。
それにしても、まさか自分が聖女の末裔?ありえないでしょ。そうは思ったがそもそも拒否権などなかった。
教会から用意された宿に入ると、ヴェルはこの世の終わりのような顔をしていたが「ジュリエッタお嬢様。おめでとうございます」と、長い付き合いの私だけが分かる作り笑いで、祝いの言葉を口にする。私だって悲しすぎて涙が出そうだ。
「何言ってんのよ。まだ聖女になるなんて言ってないでしょ。それにいい加減、お嬢様と付けるのはおよしなさいよ。今では亡国の伯爵家の娘。何の価値もないわ」
「それでもです。あの時ジュリエッタお嬢様がいなかったら、今こうして僕が隣にいる事はありませんでした。それに私とお嬢様は主従の関係、他の者に示しがつきません」
「ヴェル。聖女なんてならないから、一緒に逃げて結婚しよ」
この時本当にそう思った。彼の為になら死んだっていい。そう思うほどにだ。
「何を馬鹿な事を言っているんですか。魔王を討ち滅ぼす。ジェントの町を出る時にそう誓ったじゃありませんか。ここで逃げるなんて、お嬢様らくありません」
「それじゃさ。魔王を倒したら一緒に、どこか遠くの国に逃げようよ」
「分かりました。考えておきます」
ヴェルは…ヴェルはどう思っているのだろう。ヴェルの口から本当の気持ちを聞きたい。そう思ったけど怖くて聞けなかった。
それから私達は、正式に聖女認定の為に神聖国ヴァリスタの聖殿へと向った。
その旅の途中で、各国を巡りエルフのフェミリエと獣人のミラと言う新たな仲間を得た。腕は立つが、少し気に入らないのは二人が二人とも、ヴェルを慕ってやまないからだ。ヴェルはその気がなさそうなので横目にため息をつくだけだが。
船に乗り、隣の大陸である神聖国ヴァリスタに到着をすると大教皇から、正式に聖女と認定された。
それからヴェルは聖騎士に、仲間の二人は聖戦士として仮認定された。成人の儀ではこれが選択欄に載るらしい。そんなわけで聖国連合軍に加わり魔王との戦いに備えた。
聖国連合軍と言っても、私達パーティは単独行動を認められていた為、聖国連合軍の指揮下からは外れている。食事や住まい、修練などは一緒だったが…
聖国連合軍に入って半年後、四天王の一人が、故郷であったレディアス王国の北に位置する隣国、ギルディス帝国のメリドの砦に攻め込んだとの一報が飛び込んできたので、近くにいた私達四人と聖国連合軍は軍が用意した船に乗り砦へと向かった。
劣勢であったメリドの砦は、私達の参戦によって形勢逆転。敵の将であった四天王の一人であるシルフィスを、ヴェルを主体とした攻撃で追い込んだ。
シルフィスは、ヴェルに剣で胸を貫かれ、黒い霧となり体がゆっくりと体が崩壊し始める。
「貴様等は何者だ!」
「亡国レディアスの伯爵の娘ジュリエッタ。聖女よ」
「聖騎士、ヴェルグラッド」
「エルフ族のフェミリエ」
「獣人族のミラ」
「忌々しい。勇者の末裔か。だがな、聖女では魔王様は倒せん。魔王様と戦えるのは勇者だけだ。せいぜい余生を楽しんでおけ!」
シルフィスは、悪魔らしからぬ潔さで敗北を認め、身体は塵のように消え始めたので、傷ついた兵士の所へ治癒魔法を掛けに行く。
「甘いぞ。ここで油断するとは。死ね!」
刹那、四天王のシルフィスは消えかかった体で魔槍を拾い放つ。
「危ない!!!」
ヴェルは私を庇って魔槍を受けた。
「だっ…だいじょうぶか」
「へっ、えっどうして!!何が起こったの?」
「馬鹿!!あなたを庇って魔槍を受けたのよ。ほら血がこんなに。早く治癒魔法を!!!」
「無駄だ!!血は止まるであろうが、その魔槍には魂に呪いが掛かるように術式を施した。一切の魔法を受け付けぬ。死後も苦しむがいい。聖女を道連れに出来なかったのは忌々しいが、聖女である貴様は愛する者を亡くして苦しむがよい。さらばだ。勇者の血族よ」
シルフィスはそう言うと、今度は完全に塵となって消えた。
その場で治癒魔法を掛けると、シルフィスの言うとおり傷は塞がったが、ステータスカードに示された呪いは消えないし、最悪な事にポツポツと雨が降ってきた。
「ジュリエッタ様。ここでは濡れてしまいます。ヴェル様を洞窟に運んでから治療に当たりましょう」
拠点としていた近くの洞穴に場所を移すと、急いでヴェルを寝かして、解呪魔法のデスペルを掛け続けるが効果が無い。ステータス異常を解くホーリーライトを使ってみたが、ステータスカードに表示されている悪魔の呪いの文字に変化は無い。
「なっ なんで解呪の魔法も聖属性魔法も効かないのよ!!ヴェル!死なないで!!」
「ジュリエッタ様!この呪いにはスキルや魔法は効きません!諦めてヴェル君を楽にしてあげましょう」
ミラは泣きじゃくりながら私を止めるが、ここで私が諦めたらヴェルは死んでしまう。
「そんな事無い!諦めるもんですか!!ホーリーライト!!デスペル!!」
「ヴェル様が……とても辛く苦しそう……苦しむ姿に私は耐え切れそうもありません……ヴェル様を早く楽にしてあげてください……」
フェミリエもまた、泣きながら私を止める。
「ごめんねヴェル!私が油断したばかりにこんな事になって!!」
そう泣きじゃくっていると、ヴェルが力なく目を開けた。
「ジュリエッタ…これはオレの本望です。聖騎士として聖女様の盾になって死ねるのですから。あなたはこの世界の希望の光……無事で良かった。でも最後にひとつだけ言わせてください。今まで言えませんでしたが……ずっと好きでした」
ヴェルは私の専属騎士で婚約者なのに、今まで一度たりとも好きだと意思表示をしてくれなかった。それをこんな死に際に……
「馬鹿!こんな時に何を言ってるのよ!元気な姿になって、正々堂々と言いなさいよ!」
「それは…ごめんなさい。叶えられそうもないです……気が…遠くなってきた。先にあの世に……ってます」
ヴェルは力を振り絞るようにそう言うと、全身の力が抜け落ちた。
「――――!」
「――――!」
「……死んじゃゃいやっっ!!ヴェル~!!」
私の最愛のヴェルはこうして亡くなった。私を残して……
◇ ◆ ◇
ヴェルの冷たくなった亡骸に縋り続け、朝を迎える。
死後硬直が既に始まっていたので、フェミリエの氷の魔法で冷凍保存を頼んでから棺に入れた。安らかに眠るヴェルを見ると涙が再びこみ上げてくる。
ヴェルを慕ってやまなかった二人は、涙を流さずに淡々と棺の中に花を並べていた。
「あなた達、ヴェルが死んでしまったというのに、随分とあっさりしているのね」
「ジュリエッタ様。いい加減にしてください。私達が普通でいるように見えますか?あなた程ではないでしょうが、私達は二人はヴェル様をお慕いしておりました。とうとう最後まで言えませんでしたがね」
「ヴェル君は、ジュリエッタお嬢様一筋でしたからね。振られるのが分かっていて言えるわけないですし…」
「そのヴェル様は、あなたを守って死んだのです。それが彼の望みであったのなら、私達二人が何を言えるのでしょうか!泣いて、喚いてヴェル様が生き返るなら何度でも言います。こうして、涙を堪えながらお別れなんてしたくありません。ヴェル様を!ヴェルを返してお願い。神様~!!」
気丈に振舞っていたフェミリエは堪えていたのだろう。大粒の涙を流しながらそう叫ぶと、ミラまで泣き出してしまった。
「ごめんね!こめんなさい二人とも!!」
心の底から謝罪をしたが2人の言うとおり泣いてもヴェルは返ってこない。これだけは確かだ。
夜になり砦に戻ると「聖女様達が帰って来たぞ!!ご無事だ」と、聖国連合軍の兵士から歓迎ムードだったが、私達が引く棺を見ると兵士達はヴェルがいない事に気が付く。
兵士達は剣を捧げ、剣を持たぬ者は全員敬礼をして、私達が通り過ぎると、剣を置いて胸に手を当てて黙祷を捧げる。
ヴェルは連合軍に入ると、兵士達に剣技を教え込み、その持ち前の優しさと強さに兵士達からも慕われていた。その彼が亡くなったのだ。泣き崩れたり号泣する兵士を見て、もう出尽くしたと思った涙が溢れ出る。
その晩、ヴェルの遺品を涙を流しながら整理をしていると手紙が見つかった。1通は私宛、もう1通はフェミリエとミラ宛だった。
手紙を認めてみる。
ジュリエッタお嬢様へ。
この手紙を見たと言う事は、私は恐らく死んだのでしょう。
思い返せば、お嬢様と出会い、助けられたことばかり思い出します。もしあの時お嬢様に助けられていなければ、私の死はもっと早かったのかもしれません。
私は、お嬢様に助けられてばかりの人生でした。そんな私はお嬢様を好きになりました。身分が違う。気持ちを抑えながら、勉強や剣術に打ち込み、自分の気持ちを打ち明けられず誤魔化し続けました。
お嬢様の専属騎士となり、将来私の妻になると決まった時は、本当に天に舞い上がる気持ちでした。
私がその気持ちをお嬢様の誕生日に打ち明けようと決心をしていましたが、祖国は魔王が復活いて亡国となり、その機会を失ってしまいました。
お嬢様が聖女となり、結婚が無理となった時は死にたい気持ちにもなりました。あの時、お嬢様が私と一緒に逃げてと言った時には、嬉しくて本当に全てを捨てて逃げたかったのです。
ですが苦しむ人々を見捨てて、自分達だけ幸せになるなんて受け入れられませんでした。
お嬢様、ファミリエ、ミラと一緒に旅が出来た事は本当に楽しくて充実した毎日でした。今も私は幸せです。
最後になりますが、お嬢様はこの世界の人々にとって最後の希望の光です。私と同じように不器用なフェミリエとミラの事を宜しくお願いします。
気の利いた言葉は最後まで言えませんでしたが、お嬢様を思う気持ちは誰にも負けません。出来れば自分の口から言いたかったかったですが、ごめんなさい。
もし来世があるなら、今度こそ一緒になりたい。愛しています。
ヴェルグラッド・フォレスタ
手紙を読み終わると、私達は互いに胸と背中を貸しあい号泣した。なぜ、私はあの時、聖女なんてやめて強引にでも契りを交わさなかったのかとも後悔した。
でも、今更後悔してもヴェルは生き返ことはない。それから暫く経って泣きやむと、二人がいいと言うので二人の手紙を読んでみる。
フェミリエ、ミラへ
二人の気持ちに応えてあげられなくてごめん。もしもっと早く君達と出会えていたなら、なんて、都合のいい事を思ったりもしたけど、僕の隣にはずっと愛するお嬢様がいた。
二人は美しくかわいいから、直ぐにいい人が現れるよ。自信を持ってほしい。
最後になるけど、もし僕がいなくなっても、お嬢様を支えてあげて欲しい。願わくは、また来世で一緒に旅をしたいな。一緒にいれて楽しかったよ。
ヴェルグラッド・フォレスタ
手紙を読むと、私は、この場にいるのが耐えれなくなり外に出た。
すると、どこから沸いて出たのか分からないけど夜光蝶が夜空を舞い始め、その幻想的な姿は、まるでヴェルを天国に導くように見えた。
夜光蝶を見ながらヴェルが天国で安らかに眠れるように、ただ時間を忘れて祈りを捧げ続けた。
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