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『妹などおりません。』『お間違いでは?』『いいえ、当家の女は私だけです。』


「彼女はどこなんだ!!」


(ええ、変な人が多くて困りますわね。)


社交界では、噂だけが一人歩きした。真に受ける方もいるらしい。
20人の恋人を持つ女がいたとか

一回デートしたら、恋人と勘違いする男の話。


若い令嬢に、ご主人が溺れたせいで自死したご婦人がいた?
名前もどこでかもわからない、噂。


もう、うっすらになってきた妹の匂い。


出会った男は、みんな恋人。

貢がれ、相手が破産しても確かに『私のせいではありません。』
だけど、外聞が悪すぎる。


かわるがわるにデートをして、遊んでいるという意識はなく。
相手には夢中になって貢がれる。

“毒の華”

妹は、特別麗しいというわけではなかった。ただ、可愛らしく甘えるのが得意だっただけ。
そして無邪気で、男性の自尊心をくすぐるのが、天性でうまい。

それを意図して使えていたのなら、令嬢として生きていられたと思うけど。


『わたし、愛されてるの。』


あの甘い声は、想像の国から、帰ってこない。
この世界が御伽噺と同じで自分を幸せにしてくれる存在がいると信じ切っている。


病気だと


存在を消した。


私に妹はいない。グスファース家に女は私以外、いない。

(この選択を間違っているとは思えない。)

同じ家にいれば、転覆してしまうと危惧した存在。
貴族でなければ生きられない。領民をも巻き添えにして彼女を生かしておけない。

“妹なのに?”


『私達がどれほど、動いたかわからないくせに!』

後始末に、謝罪、わけもわからず
グスファース家の令嬢を出せと、私が面会したのがどれだけあったか!

その全ての男に、怒鳴られた。

「こいつじゃない」
『嘘だ』
『彼女を出せ』

攻撃的に騒ぐ男も居て、内心恐怖も感じた。
使用人にも居てもらったけど、年上の男と対峙しなきゃいけないのは強張った。

相手は、怒り、不安定な思考で、私を目の敵にする。
我が家の家名を名乗るのも禁じても、あの子に恋した男達は“私ではない”と言いにきた。

違うなら帰れば良いものを。

『まあ!迎えにきてくださったの?お手紙で知らせてくれた方が嬉しいわ。準備の時間がほしいもの。』

あんな状況になるなんて。
あの時は、妹という言葉も消えて、悪魔に見えたわ。

『じゃあ次の休みの日は会えるのね?』

私が居たにも関わらず。男のさっきの剣幕は掻き消えて。
可愛らしく笑う女に、叫んでいた男にデートの約束をするだけのあの姿を見て…


全てを諦めた。
切り捨ててしまおうと…


罪悪感さえ切った。



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