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「妹君はお元気ですかな?」

その言葉で私の顔は固まった。淑女の手本のようにとがいかなくても、笑顔であることは救いだ。


「最近、お姿を見ていないようですが…」

私の表情作りが上手いのか、男性は話を続ける。しかし私はスッパリ断言した。

「私に妹はおりません。」


“本当にいなけれは良かったのに”と思うほど心が冷える。
それに恐れをなしたのか…男は用事を思い出した。

私の前からさっさと立ち去った。
自身が何か恐ろしいものに触れたような怯えた顔で。

「誰だったかしら、あの方?」

「ああ、貿易をしていると自慢をしている子爵よ。名前は思い出せないけど。」
「それくらい、気にならない相手なのね。」

不愉快を散らすために、ため息をつく。


「気を落とさないでね。」
「ありがとう。飲み物をとってくるわ。」

友人の気持ちはありがたいが、思い出したくもない記憶が浮かび上がる。

『お姉様、ごめんなさい』
『いつも言っているでしょう?すぐに謝らず何故か考えなさい。』

『お姉様、怖いです。』
『姉を怖がってこれからどうするの?貴女グスファース家の一員なのよ!』

『無理なんです。私には。』
『そう。そう思うならそうなのでしょう。』

『私を見捨てるんですか?お姉様!』
『自分で立とうとしない人に手を差し出す気はないわ。』

『そんな。お姉様。』

『すぐ誰かに頼るのはやめなさい。全てが貴女のために動くわけないの。
ちゃんと自分の頭で考えて、最悪を回避しなさい。出ないと…』


「生き残れないわ」
そう冷たく言った私は、まだ貴族社会で生きている。

あの話し合いの後も、アレは泣いていた。泣いたって、何も解決しないと諭しても。
変われなかった。そうなれば、動ける範囲も限定しないといけないし。利用されないようにしないと。

それは、共倒れを避ける方法で、生き残りをかけ戦いの上での犠牲。

(私がならなかった事に少しの安堵と、罪悪感かしら?)

けど心は当然の事だと切り捨てている。そんなに簡単に片付けて良かったのかと
苛んでいるのは、私の声ではなく想像上のアレの姿をしている。



「理由を懇切丁寧に喋る相手でもないし、一部には察してくださる方々もいるけど。
ああいう方の相手は、嫌ねえ。」

囁き、話の種を拾う令嬢達。
そして噂は風のように巡っていく。


確かに私には、妹がいた。もう過去形だ。
その成長は記憶に残るものの、そのうち忘れてしまえるだろう。

いや、記憶にくらい残しても良いかもと思うのは、姉としての感傷で。

「もう、会うことはない。」


それに、清々して呟やいた。
ナラライア・グスファースの妹は、もういないのだ。永久に。
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