<長編・2万字>人形が死んでいる [本編完結済み]

BBやっこ

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ピンクの頭

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夜と言っても子供もまだ寝ないんじゃないか?という時間。何か飲み物を買うため部屋をぶらりと出た。小説に集中していた目と首をコキコキと動かす。階段の近くに人の気配がある。

わんわん泣く小さな女の子。母親らしき人が一緒に椅子に座って慰めている。あ、あの子か。感情が爆発したようで小さな女の子の手は、ピンクの、くま?否ウサギを抱きしめている。レースのエプロンをしたぬいぐるみは、しっかり力を入れられて苦しそうだ。鯖折りという言葉が頭を過ぎ去った。ぎゅむぎゅむに抱きしめられたぬいぐるみの綿がちろっと出ている。相当お気に入りのぬいぐるみなのだろうと察する。少々薄汚れてしまっているが、大事に連れ歩いている友達なのだろう。

そんな時代が私にもあったかな?

生地まで傷んでなければ、針と糸で治してもらえるよとたぶん安心して泣いている、詳しくわからない状況だが、心の中で慰め、お母さんともの時間を邪魔しないよう立ち去った。ひととおり泣いた後で良いから落ち着いて笑顔になってくれるといいけど。

自販機で飲み物を買うとガコンッと派手な音が響く。それを取り出して窓の近くに寄った。ザーザーと降る雨にお前も止めよと空を仰いだ。何故かハードボイルドな気分だ。コーヒーかお酒の方が似合うシチュエーションだと思うが、両方好みの味じゃない。甘い紅茶を片手に親子がいた場所を静かに通って部屋に向かう。

少々落ち着いた子供の持つ、無理矢理首を押さえられているぬいぐるみにご苦労様と心の中で声をかけ茶色の目と視線が合う。ぬいぐるみの目って可愛いけど、とれかけになるとなんか怖くなるんだよね。糸と紐で付け直せるものもあるけど、はめ込んで治せないものもある。いや、接着剤でなんとか。昔、目がなくなってしまったぬいぐるみに眼帯を作って付けたのを思い出した。あの子の目はどこにいったのか。オッドアイも可愛いよなってそれは猫が良いかなと女の子の表情を伺いみる。

落ち着いてきている小さな女の子を、このまま鎮まるとといいけどと思った。

テレビを点けると、「晴れ間も見えるのでは?」と天気予報士が言うが、曇りの予報を出す。「引き続き河川に近い所では注意が必要ですと添えられる。」興味が失せてテレビを消した。再び、のんびりネットの海を泳ぎながら夜も更けていく。私の頭の中は、妄想と想像が入り込み混ざり合う。もちろん私は現実にいて、創作の世界を見ているのだけれど。モヤがかかるように現実が夢の方へと引っ張られていく。それは眠気のせいだ。そうでなければ、起きている世界と夢に出るものの何が、違うのだろう。

夢も今も私でしょう?
私の形をしただけになるのかなあ。
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