<長編・2万字>人形が死んでいる [本編完結済み]

BBやっこ

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人と美術品

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雨音が続く。夜になっても雨は止んでいなかった。しばらく止むことはないのだろう。ただ、降水量がスゴイ。窓は水滴で埋め尽くされ川が流れる。視界に入った窓から意識を離し、風呂上がりと言えば!売店で牛乳を買って飲んだ。
「ぷはぁー」とその冷たさに満足し、この宿にある郷土史的な本を読み尽くそう!と意気込み勢いのまま進む。たどり着いたそこには、それほど冊数はないがと言っても百科事典みたいに分厚く重い5冊がある。それとイラスト付きの資料集、古そうな個人出版らしき冊子。定番の観光地の解説に特化した本が置かれている。この書棚スペースの近くに、宿の客は居ない。微睡んだ雰囲気でちょっと座ろうと来る人が、寄り付かなさそうなソファに本を何冊か持って移動した。1から読み始める。

かつてこの地にいくさがあった、とはこの小さな島国のどこかにあった話だろう。都を落ち延びた武士、農民がいてその子孫が脈々と命を繋ぐ。そのもっと昔、古墳はそれよりも昔にできていたのだ。そして人を埋めている。王の埋葬に下々の者を道連れに、生き埋めに。人の命とは、何かとそういう扱いをされる。世界のあちこちにある話しかもしれない。その死出の旅路のお付きの人を、人型を代わりとし埋めるようになった。

死んだ偉い人に仕えるため、と人が死なずに、ヒトガタ「人形が死んだ」。死は、常には日常へ持ち込まないが、人は死んでいる。私が死ぬとは考えない。人形は死ぬだろうか?その屍が青銅色になって並べられているのを視界に収める。手足はなく横たえられる。あれは人の形を型どった抜け殻。けど、死を迎えたもの。生きはせず、動きもしない。ただ存在する死を持った人。生きるの逆が死ではないのか?非可逆的なせいとと死なのに、『死』それだけの意味を持たされた人。それは形から入る型、頭と胴があれば良い。しかし、その様は人に見えるか?人の形のものは手足もあった方が人形としてそういうものだと見れる。

青銅の板に手足をつけるなら、どうするか?と見つめても省略という工夫が良いのよと今の形に納得し直した。
人の通りすぎた声が耳に届き、そろそろ終わるかと読み漁った本をまとめる。重い。よろよろしていたところを助けてもらい、明日帰る際に買う土産を売店でチェックする。カード払いなので財布に中身の心配はない。稼ぎはまあまあ。旅先くらい楽しもう。カードが使えるかレジで確認し明日買うことに決める。その時、レジにある可愛いサイズの色とりどりのクマのぬいぐるみを見て、ピンクはないなと自分の年齢を思った。

明日の昼前には宿を出よう。荷物を広げることはなく観光地の海鮮丼を食べようとネットで調べておいた。子供は寝る時間だが、私は大人だ。テレビをつけ今日の映画をチェックする。気になる映画はなく、持っている端末で映画をみようと決めた。なんでかジャパニーズホラーを観る。この雨の気分を反映した。雨のせいで土砂崩れが起き、村から出れなくなり悪霊を鎮めるため…(途中トイレへ中座した)。どおおんと登場した親玉の人ならざる者と対峙、無事生還っと。良い頃合いに寝る時間だ。

明日の天気予報が目につく。大雨洪水警報に入っている。例え、警報が出てもここは避難場所に指定されているくらい川の増水の危険はないそうだ。どちらかというと、避難してくる人がいるかもしれないと聞いた。さっきの映画ではないが。この近くの避難マップを検索して見て、何となく枕の近くに荷物を置いて寝た。晴れなくても良いから、雨の勢いが弱まってますように。そう願って寝たのだが、

「変な夢を見ないように」と、祈っておくべきだったと起きてから思うのだった。


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