<長編・2万字>人形が死んでいる [本編完結済み]

BBやっこ

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夢①

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それを認識した。
まずは、抜き身で、(刀を抜いた状態という意味。白い空間で)赤拵えの武者が立っている。私を見ているのだろうか。カーン、カーンと鉄を金槌で叩いているような甲高い音が規則的に、間延びしたように鳴る。どこでだ?自分の体の存在がわからず、耳を傾けているのか、目を開けているのかもわからない。ゲームの一人称視点というやつだったか。動かせないからVRの体験みたいだと思った。

そんな視界しか動かない私の意識は、前の甲冑を注視するしかない。その手に持たれた刀が気になる。太刀ではないなとそれが収まっていた甲冑の持つ鞘を思い出した。私の趣味ではないが、刀が出てくるゲームに詳しい友人が、見分け方まで教えてくれた。この刀に、銘はないだろう。なんとなく格好良いから言ってみた。

微動だにしない目の前の相手を私が、恐れていないのは不思議だった。美術品のようにそこにある。存在する人ではないもの。だけど、その手は刀を握り込みこちらが「少しでも動けば斬ってしまうぞ?」と言いたげにこちらを見ているようではないか。相変わらず貌はない。

「何故、私を?」そう問いかけたくても相手に合わせる目がなく、目玉もない。私という人の形があっても引き摺り出された罪人のように、首を斬られるのを待つのだろうか?相対しているが、私は罪人ではない。座して死を待つ立場ではない。「カーン」と鳴っていた音が止まっている。武者が下段に構える。私には白い死装束もゴザも敷かれず、顔を隠すものもない!真っ直ぐ見る。首部もたれず、武者に立ちはだかる私。無手、何も武器がないな。これは夢。ここまでの夢を夢とわかる。明晰夢。

半分覚醒しているんだったか?それならさっさと起きたいなと暢気な感想が出た。武者に顔はなく、身もない甲冑の中身がなければ斬られないか?いいや、人形なら操られて動くではないか!目の前の標的は私。殺意もなく動くかもわからない武者。その前に試されるように前に置かれる私は、「何故?」という問いさえ口にできない。

武者の口を覆う黒い覆いがよく見えるようになった。そう、ズバッと感触とともに無音で斬られ、「逆袈裟斬りは片方だけ?」と考えた頭。藁の屑が目の前を通り過ぎる。目に眩しさを感じれば、部屋に朝日が入り込んでいるの見た。

なんでそんなこと思ったんだという答えは、「両袈裟斬りだわ、バッテンに斬られるのって」という確認事項だった。夢がはちゃめちゃなのはいつものことだ。内容は、昨日の時代劇を見た影響なのか。武者が出たのは。喧嘩を売ったしっぺ返しなのだろうか?今日は、入り口近くで宿を護る武者に、謝ろうと思った。悪戯がすぎたらしい。斬られるほど怒らせていたとは気づかなかった。

変な胸の息苦しさを感じる。夢が変だとこんなものかとも思う。しかし、あの音は?工事の音、ツルハシで掘る音。そうだアレは、木の家を建築中の時に聴いた音。釘を打つ音だと生温い何かに触れられたような嫌な感じが一瞬した。ああそんなことよりお腹が空いた。二度寝はやめて朝の支度をすることにした。今日は晴れてくれるだろうか?と見た空は灰色がかった雲が広がっている。

テレビを点けても、いつもの番組にはならない。旅さの宿でテレビを見るといつも見る番組じゃないから新鮮なんだよね。旅先だと強く実感する。ローカルなニュース番組に合わせ、天気予報が始まるまでそのままにした。端末でさっさと確認すれば良いのだが、流しっぱなしのテレビは心地よい。急がない朝だから尚更。時間を把握するのも楽で、端末はまだ触っていないがアラームの設定時間が近い。解除していれば天気予報が始まった。

この辺全て、雨予報らしい。
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