<長編・2万字>人形が死んでいる [本編完結済み]

BBやっこ

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宿泊

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宿に入ると、左側にある受け付けに向かった。スリッパに履き替えた。ある視線に射られる、気分になる。
ー甲冑だ。
赤拵えという言葉を思い出す色。口元を隠す黒色の覆面。覆面という言葉を使ったが、目元は隠れないのよね。口元の覆いとでも言えば良いのか。人相がわからなくなるのは、兜が帽子の代わりに目元を隠すからだ。なければサングラスをすれば隠れると想像して、似合わないと思い想像を止めた。

「御予約いただいた、『近松智香子』様ですね?学生証のご提示をお願いできますか?」学割をしてもらうために、準備しておいた学生証を見せた。「はい。ありがとうございます。それではお部屋にご案内します」軽い荷物を持ってもらい、今日泊まる部屋に向かった。

館内の内装をちらりちらりと目にうつしながら宿の人について歩く。後でじっくり見たいものを物色中だ。ここのギャラリースペースという名の一角も後で行こう。さっきの甲冑も後でご対面だ!私は、拵えや可愛いポイントを見つけるのが趣味なのだ。衣装や紐の色合わせをじっくり見たい。特に、刺繍糸のような部分や、アジアン結びにありそうな紐飾り。私のお気に入りは、髷がありそうな部分に紐飾りがあった甲冑だ。髪飾りのようで可愛い。今回はどんな可愛いポイントがあるやら。

そんな地味目な趣味を持つ私の宿泊選びは、外観が好みの宿を選んだ。その時に、内装も館内図でさらっと確認している。設備はエアコンがついているのだから近代的と言って良いではないか。ベッドはなく、畳に布団を敷く方式で押し入れの中に入っているのだろう。
今ドキと言えない部分は、トイレが共同なところだろうか?
母が以前、『部屋にトイレがあった方が良い』と言っていた。部屋にないとは言え屋内にトイレがあるのだ。私にとっては許容範囲内だ。「ごゆっくりお過ごし下さい」の言葉につられておじきをして、宿の人からの目線が外れたと見れば、足を崩した。正座はできるが
解放感に浸るため、足を投げ出す。「御行儀が悪い」という言葉は、知りません。

濃い木の机に、出されたお茶。猫舌はしばし置いとくに限る。備え置かれた、まんじゅうの包みをいじりながら待つ。中身はこしあんだろうか?裏を見て心の中でガッツポーズ。こしあん派な私を満足させてくれ。

風呂があるそうだ。陽があるうちからの風呂はテンションがあがる!浴衣の古典的な白地に藍色、川面流れのようにデザインされている。華やかなものんも多いがレトロで文化も落ち着いた話の雰囲気も旅の遠出を感じ、気分を盛り上げてくれる。腹ごなしも終わり今日の3じのおやつは終了しました。館内の案内を見る。避難経路を確認した後、余裕を満悦しながら風呂に向かった。

明るいうちに風呂に入れるのは贅沢だ。だたっ広いわけではないが、実家の風呂より断然広い。シャンプーとリンス、ボディシャンプーがあるのを確認して流し湯をしてから湯に浸かりに行った。「ふぃーーー。」おっさんか!とツッコミがありそうな声を上げ、宿の風呂独占だ。誰も入ってこないようにと願いつつノビノビとする。泳ぐことはないが、誰かが来たら早々に上がってしまおうと思う気分で居た。短く何回か入るのが好きだ。人の影もなく、湯気が揺蕩う影も昼間なら怖くない。夜は影が紛れてわからなければ良い。案外怖がりな自分は、夜に鏡の前で髪を洗いたくない。自分の姿が怖いからね。何かいる気がすると感じて怖がった昔が懐かしいと明るい太陽光が入る宿の風呂を楽しんだ。


「良いお湯でした!」と心の中で歓喜した。私の表情筋には出ないだろうが、心の声は元気だ。誰が騒がしくしても怒られないのだ騒がしくても良いだろう。ロビーに出てひとり静寂を壊さぬよう、そろりそろりと甲冑の前に佇んだ。雨音もこの場に遠慮いや、避けているように静かだ。じっと見つめる。今なら眼差しが絡む位置。ただ相手には瞳はなく、鎧を纏う体も無い甲冑だ。それでも座しているように存在し、前を向いていると思える。そこに顔はない、眼窩さえないのに、“手足と胴があって頭がある”と見なせる。それならば、見つめ合うこともできるのだろう。その腰には刀が下げられ、前の相手をその刀で切り捨てたのだろうか。それは現代ではないが、遥か昔とも言えない時代。ここにあるのは人形、人の形をしたもの。中は伽藍堂でも私が認識すれば人足り得るものだろうか?ふぃっと視線を外す。

小さなコーナーのギャラリースペースに入った。ざっと全体を見れば、読み物が置かれた本棚。資料は手紙のような折った跡があるものと描かれているものだ。あっちにあるのは木の箱。その手前にあるの人型だ。銅でできた物と思ったが、10円玉の色ではなく、青銅色。その青錆の色は手はなく頭と胴の部分のシンプルな物。生贄という言葉が出てくる。古墳がある時代に、墓に一緒に埋める人だ。これも人。手足もなく厚みもないそれは、確かに人として埋まっていたのだろう。人型の死。今掘り出されたこれは、生きているのか死んでいるのか?動かなければ止まっているということか?いいや、止まっているとは、真反対の方向に同じ力がかかった状態。物理でやってた!モーメントにまで思考が行ったところで、思考を止めることにした。雨はまだパラパラ降っているのだろう。窓から外の水溜りを見て確認した。

観光地図を見る。この近くの観光地にも何百年か前の戦が繰り広げられた場所がある。私の実家近くにもある戦の跡という場所、その近くで買い物をしているのが日常。今日は平和だ。だが平穏とは違う。字がではない。心の平穏はぺらりと捲られれば、一変してしまうもの。それは気付くことから始まってしまう。無視しても心の平穏は訪れない。今日は大丈夫と部屋に戻った。ごろごろと横になりテレビをつける。久々の時代劇が映る。血を流さない活劇を懐かしく思いながら楽しんだ。何年前に見たきりか?と考えながら、ごろごろする。夕飯の時間までこの調子でいようと決めたものの、タブレット端末に手が伸びる。

SNS経由で有名人の訃報が入り、メールを確認。その後、ファンタジー小説をまとめて読む流れになった。そこでふと気になる。デュラハンの登場。鎧の幽霊と言えば良いのか、馬に乗り首のない騎士という認識のそれ。人だったものとされるのか、モンスター枠なのか?私の中では首がないという点で人ではなく、人に似せたものと認識した。人に非ず。“人でなし”は、意味が違ってくるぞ。それの死は人ではなく、操られた人形でもない。人ならず者には、死ではなく止なのだと結論づけて、小説を読み進めた。

「しまった」デジタル時計を見てそう言った。小説に集中し過ぎて、すっかり夕食の開始時間を過ぎてしまった。まあ、普通に時間内なので問題なしというところなんだけど。最初に入ってやろう!という気概を失してしまった。一階の食堂に入れば、3部屋ほどブチ抜いた空間になっており、大きな花瓶に活けられた花が出迎えてくれた。「どうぞ」とかけられた言葉に、そそくさと名前が書かれたテーブルに着席する。

夕飯に日は暮れ、夜の帳が半分は降りている。高い所から見れば夕陽が海に沈むところが見えるかもと考えたが、「雨降ってるんだから空見えないでしょ」のツッコミに黙った。宿の人によって、チャッカマンで火がつけられた小鍋を横目に、「いただきます」と言ってから刺身や吸い物に手をつける。旨い。旅先の楽しみを味わい、食後のお茶を一服。「ふぅ」と満足のため息を吐き、まだ強く地面を叩く雨を目にしていた。

腹ごなしに、ふらりと本を見にきた。ロビーにある新聞やら雑誌をざっと見ても気になるものはなく、ギャラリースペースの本を覗きに行った。

その帰りに甲冑の武士と相対する!正眼の構えをとる私に相手は、上段に構え、半身引いた武者。その眼光は・・ないけど、視線が逸らせない。相手は上段から刀を振り下ろした。私の左肩から袈裟懸けに斬ろうとした斬撃を見切り、身を引いて避ける。ここで風車でも投げれれば、さっき観た時代劇のシーンに合うだろうに。そんな妄想はおわりにして。敵に
後ろを見せ、用足し行った。未だに甲冑は佇んだままだろう。

再度捕まらないよう、部屋に戻る。今夜はアクション映画を探して観ようと思う。殺陣が秀逸の映画は何があったか?考えながらも部屋にゆったり帰って行った。夜遅くまで映画を観ていたが、雨音はずっと続いていた。
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