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1.唐突には突然に

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恋した婚約者なんて、触りたくもない。浮かれたまま、一方的に話をして去ってしまった。
後ろ姿を見て今あった事を再現してみる。

「エイブリン!聞いてくれっ」

この駆け寄ってくる姿は、毎回犬っぽいと思う。この婚約者とは幼い頃からの付き合いだ。
愛嬌と対人関係で要領が良いから、憎めないタイプ。ただし勉学は苦手でよく私に頼ってきた。座ったままなのが苦手なのは良いけど、宿題の丸投げはなんとか回避している。

「ためにならないし、楽を覚えてどうするのよ!」

そう言って、やるのを手伝うのも大事だと思う。その関係性に言い合いのケンカはあったが、周囲の取りなしもあって、これまでやってきた。そのまま結婚するのだろうと思ってきた頃だ。

「好きな女ができた」
「そう」


と答える。頭の中まで伝わっていなくて、どうせ宿題を手伝ってとか言ってくるのだと思った。
普段と変わらないように見える無邪気さの婚約者を見る。

「好きな相手ができたら、婚約破棄しようって話していただろう?」

確かに話し合った。6歳だったかその頃に、お姉様が読んでいた小説の内容を聞いて影響されていた。
もう、卒業まで間近の15歳でその頃の話を持ち出されたのに驚いた。

覚えている自分にもびっくり。

「そういう事だから、親父さんに話を通しておいてくれよ?」

まるで気軽に、外出の許可をとって祭りに行こうと言った去年の時みたい。
軽快に走り抜けて行った婚約者の姿はもうない。


廊下を走ったらまた、先生に怒られるわよ?と言う言葉だけが頭に残る。
私は混乱しているらしい。

とりあえず、近くのベンチに座ってみる。

「好きな女?」

可愛いくて胸のある癒し系が好きとかほざいてた婚約者が、言ったよね?

あのいつも通りに見えた婚約者は真剣だったのか、ふざけたのかもしれないと混乱する頭のまま。
私はいつものように、図書館に向かう。

「本を返さなきゃ。」

そう、いつも通りに。寮に帰り、明日は実家に帰ってお母様とお茶をしながらお話する。
今までの通りに行かないのか?

借りる本を探すのが億劫で、そのまま図書館を出た。
眩しい夕陽に、違和感を覚える。


衝撃がまだ、頭に残っているけど、何ひとつよくわかっていない。

いや、
私は婚約破棄されようとしている。

そうだとしても、家に帰るまで何もする事はない。


ただ、ぼうっと今日という日をやり過ごした。

心配した同級生が「今日はもう寝たら?」と勧められたまま。
目を閉じて眠った。


明日、お父様に話をしなくてはと思いながら。
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