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IV 新たな道行き
⑶ 夜の宣言
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食事を終え、ワインを飲もうという話になり
部屋の移動を決めたが、2人は違った。
ドレスのまま、ロードと出てきたセリは足早に歩く。
話というのをするらしいが、
「連れて行きたいところがある」と、かかとの高い靴で少し速く歩く。
手を引くロードの歩調は、緊張しているように感じた。
前を歩く男と後ろからついて行く、揺れるスカート。
その後姿は、御伽噺のワンシーンのように幻想的だった。
恋人たちが扉を次々、通りすぎて行く。
庭にたどり着いた2人の息は上がっていない。
それでもセリが、ほぅと息をついたのは、
ステキな庭の花々が明かりに照らされていたからだ。
夜の庭も趣がある。
見惚れていたセリだが、ロードは違った。
セリに向き直り、おもむろに抱き上げた。
“お姫様抱っこ”と言われる物だが、セリは慣れてきていた。
よくされていると言える程。
突然の浮遊感に驚いたものの、
安定感、落とされないという信頼もロードにあった。
どこかに行くのだろうと察し、抱きつく形を取る。
その方が互いに楽なのだと羞恥心はなかった。
絵になる憧れのシーンだろうが、セリの心は平静だった。
思った通り、移動をするロードは庭に入り、壁を伝い上がり、
ある建物の屋上にたどり着いた。灯りのあまり届かない、暗い屋上。
ぽつんとベンチが置いてある。
庭が見渡せるようになっている場所なのだろう。
ロードがベンチに座り、セリと向き合う形にする。
そう、膝の上で向き合って座らせた。
この姿勢に、セリは慌てた。
真っ直ぐ見える、ロードの黄色の目。
慣れぬ対面と眼差しに、焦るセリ。
そういえばロードとまだ会って、時間がそれほど立っていない。
濃い日々だったが。
真剣な瞳に、落ち着かない気持ちになる。
少々の不安を覚えたところで、ロードが語りかける。
「耳飾りを贈らせてくれ」
セリの左耳に触れる手。今はパールの飾りがある。
その意味は、
「俺のものだと、婚約の申し入れだと思って欲しい。」
なんでも、ロードの生まれた地域では
思いを告げる相手に、ピアスを贈る。
左耳に飾られる、自分の瞳の色が
『俺の番だ、手を出すんじゃねえ!』という牽制になるらしい。
相手がいる、アプローチを受けているという印になるとか。
そんな習慣があるらしく、ロードはある鉱物を探していたそうだ。
耳にあったロードの手が、セリの頬を包む。
「セリを手放せない」
ダイレクトな宣言だった。
アプローチを続けたい、その許可が欲しい、
逃さず、俺のものにしたい、と。
セリは常に想定していた。
あるとすれば、自分の手が離される方だと思っている。この居心地の良い場所を
離れる想像をすれば、胸が痛いのだから。
セリには厄介事がある。
それによって、この触れている手は離れていくかもしれない。
そっと頬にある手に、セリは手を重ねた。
今、自分の利を考えている。
ロードの思いに答える程、自分の心は動いていない。
それがわかっていながらズルいとは思う。
けれど、
逃げられないのだから。
手を離されることになっても。
そう吹っ切り、
セリはロードの言葉に了承したのだった。
部屋の移動を決めたが、2人は違った。
ドレスのまま、ロードと出てきたセリは足早に歩く。
話というのをするらしいが、
「連れて行きたいところがある」と、かかとの高い靴で少し速く歩く。
手を引くロードの歩調は、緊張しているように感じた。
前を歩く男と後ろからついて行く、揺れるスカート。
その後姿は、御伽噺のワンシーンのように幻想的だった。
恋人たちが扉を次々、通りすぎて行く。
庭にたどり着いた2人の息は上がっていない。
それでもセリが、ほぅと息をついたのは、
ステキな庭の花々が明かりに照らされていたからだ。
夜の庭も趣がある。
見惚れていたセリだが、ロードは違った。
セリに向き直り、おもむろに抱き上げた。
“お姫様抱っこ”と言われる物だが、セリは慣れてきていた。
よくされていると言える程。
突然の浮遊感に驚いたものの、
安定感、落とされないという信頼もロードにあった。
どこかに行くのだろうと察し、抱きつく形を取る。
その方が互いに楽なのだと羞恥心はなかった。
絵になる憧れのシーンだろうが、セリの心は平静だった。
思った通り、移動をするロードは庭に入り、壁を伝い上がり、
ある建物の屋上にたどり着いた。灯りのあまり届かない、暗い屋上。
ぽつんとベンチが置いてある。
庭が見渡せるようになっている場所なのだろう。
ロードがベンチに座り、セリと向き合う形にする。
そう、膝の上で向き合って座らせた。
この姿勢に、セリは慌てた。
真っ直ぐ見える、ロードの黄色の目。
慣れぬ対面と眼差しに、焦るセリ。
そういえばロードとまだ会って、時間がそれほど立っていない。
濃い日々だったが。
真剣な瞳に、落ち着かない気持ちになる。
少々の不安を覚えたところで、ロードが語りかける。
「耳飾りを贈らせてくれ」
セリの左耳に触れる手。今はパールの飾りがある。
その意味は、
「俺のものだと、婚約の申し入れだと思って欲しい。」
なんでも、ロードの生まれた地域では
思いを告げる相手に、ピアスを贈る。
左耳に飾られる、自分の瞳の色が
『俺の番だ、手を出すんじゃねえ!』という牽制になるらしい。
相手がいる、アプローチを受けているという印になるとか。
そんな習慣があるらしく、ロードはある鉱物を探していたそうだ。
耳にあったロードの手が、セリの頬を包む。
「セリを手放せない」
ダイレクトな宣言だった。
アプローチを続けたい、その許可が欲しい、
逃さず、俺のものにしたい、と。
セリは常に想定していた。
あるとすれば、自分の手が離される方だと思っている。この居心地の良い場所を
離れる想像をすれば、胸が痛いのだから。
セリには厄介事がある。
それによって、この触れている手は離れていくかもしれない。
そっと頬にある手に、セリは手を重ねた。
今、自分の利を考えている。
ロードの思いに答える程、自分の心は動いていない。
それがわかっていながらズルいとは思う。
けれど、
逃げられないのだから。
手を離されることになっても。
そう吹っ切り、
セリはロードの言葉に了承したのだった。
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