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II-a 王都に向う旅

旅立ちの気持ち

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この町を出る。

いつかそうなるとわかってはいた。理解していたのに。
いざそうなったら、思考が止まった。

“思考を止めるな”

とかつての師の声が思い出される。
怖がるな。本能だけで感じれば動けなくなる時がある。

だから考えろ、と。

「一緒に連れて行って欲しい」と願った相手、ロードの腕に
心細さから抱きつき返す。

小さい子どものような反応をしてしまった。
この人に縋り付いてしまっているのでは?と思わなくもないが
応えてくれた体温に安心した。
擦り寄ってくるロードの仕草が子供っぽく感じた。

結局、また抱えられたままギルドを後にした。


行き先は、くだんの宿。

シュルトさんの商会で持っている一軒家で、荷物置きや仮眠に使っているものだとか。
『竜の翼』メンバーと共に、夕飯をご馳走になる。温かいスープに肉、
サラダと豪華な家庭料理が自分には目新しかった。

孤児院で肉は小さく切ってある
ざっくりと大きく切られた野菜と肉をまじまじと見た。
口に入れれば、優しい味がホッとする。

ざわついていた気持ちが落ち着いた。

『竜の翼』として、
数日後に護衛任務を受けて、この町を離れる予定になる。


知り合いの商人の指名依頼を受け、目的地は王都まで。

早々に旅立ちたい自分には、渡りに船。

明日は薬屋のババ様のところで薬の依頼をする。
こちらは、病状を抑えるもので、別に“病気を治す薬”がいるそうだ。
それを王都の薬師に依頼するそうだ。

目の前に座るロードが、飲み物や肉を勧めてきている。
何か楽しそうだ。

自分はここを出る準備をしないと。
荷物は最小限あるだけだし、挨拶まわりが必要かな。
孤児院に何か持って挨拶しに行くか。とつらつら考えていた。

そして、ここに泊まることが決定していた。

着替えなど何もないと辞退しようと思ったら、
シュルトさんからもたらされる着替え。
…ありがとうございます。

部屋は3ー3に分かれる。

「呑みに行ってくる~」と夜の町へカナンが出かける。

2人になった部屋。

「一緒に風呂入ろうぜ!」と元気なノリに頷いた。

一緒に?風呂に入る・・。

……まあいっか。
お湯がもったいないし

さっさと入ろうと用意をはじめた。


成人男性と風呂に入るこの状況。
ここでリリー(冒険ギルドの受付女性)がいれば、

「え、何?変態なの?」と答えていただろう。
彼女はお父さんと入るのにも10歳に満たないくらいに拒否していた。

では、何故セリは簡単に了承したのか?

要因は、セリの羞恥心の感覚にあった。

貴族の生い立ちで、お世話係に洗われるのを慣れていること。
少し大きくなってから自分のことは自分でやるという
貴族の子供としては特殊なサバイバル下におかれ、
その時の生傷が絶えないため手当てを受ける。

ずっと、“見られること”に慣れていた。

そのまま孤児院に来てからも、小さい子を風呂に入れるのに、
小さい男の子も女の子も一気に入れる。

お湯代の節約だ。

そんな時もしっかり、がっつり見られていたのだが
セリは気にしていなかった。
気にも止めていなかった。

流石に、セリの次に年長のシーナが「イヤだ」と拒否して
大きな男の子との混浴は回避された。
ひとりで入れない子達に、分けて入ったが。

これらは、セリの感覚を変えるには至らなかった。

裸になるのに、躊躇がない。
マナー的に遠慮するという意識だけだった。

結果、
効率を考えてロードと一緒に入ることを了承することになる。

身体の関係を持ったロードとなら別に変ではない。
断るに値しないと考えた。

“風呂で何かある”
……そんな想像の余地がなかった。

この後も結構な頻度で一緒に風呂に入るが

エロい方面に持ち込むのは耐えたロードだった。



その夜、用意された高級そうな黒の下着があった。


”自分に用意された下着だから着る“
という躊躇いのない着用。

肌触りの良さは高価なものであると思われた。
用意してもらった物に対しては価格を考えない、と決めた。

着替えをロードはしっかり・ちゃっかり見た。

今回のダンジョン探索を思い返す。
高ランクのチームの動きは速く、正確で安定していた。
その分、身体は楽だったと思ったが、お風呂に入って疲れが出た。

眠い。
ぽすりとベッドに座り、当然のようにロードと同じベッドだった。
他にないからと、ロードが拒否しないからという理由だった。

もちろんロードは大歓迎というより、他に選択肢はない。

一緒に寝る。

温かくなった肌と肌に
穏やかな充足感ある疲れ

早々に寝てしまうセリは、
ロードがチラチラ黒いレースを見ようと意識していたのには

気にもとめなかった。


その様子に帰ってきたカナンが
呆れ返るのがセットだった。


“一緒に寝る”
どまりの夜になった。
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