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I 育った町で冒険者

帰還

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夜だ。
だが、ギルドは煌々と明るい。

冒険者となって教会に帰っていたと思っていたが、
いつの間にか、ギルドの明かりをみても帰ってきたという気持ちになる。

依頼の終了の報告にカウンターへ行けば、

ギルドマスターの部屋に呼ばれた。



「セリ!」

ギルドマスターに様子を伺われる。
冒険者登録をした当初から世話になっている人だ。

あまり会うことはないが、気にかけてくれる大人。
信用できる人だ。

「只今帰りました。」と丁寧にこたえた。

報告だけで終わると思ったのだが、何か用があったのか?
ギルドマスターはちらりとロードに目を向ける。


「依頼は終了だな?」(目線:もう終わったんなら、帰れ)

トラブルがあったから心配させたようだ。
そういえば、この部屋から拉致されたんだった。

依頼はちゃんとしてきましたよ?
とじっと見つめたら、頭を撫でられた。

まだ自分は子ども扱いなのだろうか。
と思わなくもないが。

ギルドマスターは見た目が実年齢より相当若いらしく、自分と同じ年頃のひ孫がいるって
噂がリリー(ギルドの採取カウンター職員)からの情報であった。

と思い返しているとロードが話し出す。

「いや。セリを『竜の翼」に勧誘したい」

「「‼︎?」」

セリは言葉が出なかった。
どこから勧誘なんて言葉が出たのか。

レベル差も能力も桁違いな自分を入れる利点が出てこない。

「理由を聞いても?」とギルドマスターが問う。
ギルドで勧誘は自由だが、レベル差があればパーティへの評価に関わる場合がある。


・・とは表向き。

セリをどうする気だ?と保護者の心持ちで訪ねた。

「うちに欲しいからだ。


セリ、来い。」

ものすごく、シンプルな言葉だった。
何か聞かなければと思考が焦る。

一緒に来ていたシュルトが口を出す。

「ロード。もう少し説明しなさい。
セリ。うちの勧誘は、ロードの決定が大きいの。もう一つはパーティに参加して、

依頼を受けるってところかしら。あなたは両方、クリアしてる。」

パーティの決定の方法はそれぞれだと思うが、『竜の翼』はリーダーの決定が大きいのか。

「自分はDランク。ダンジョンの攻略の経験も『森のダンジョン』だけ。
他のメンバーが認めないと思う」

思いついた第三者目線だと、お荷物が必要か?いらないと思う。

「問題ない。皆、了承してる」

「!?
いつの間にそんな話に?」とセリが言えば、考える素振りで

「会った最初から、だな」とロードが軽く言った。

シュルトが言葉を継いで、
「補足すると、前から宣言してたのよ。“番と冒険したい”ってね」

番認定
一目惚れされたと、犬に噛まれたくらいに(正確には肉食獣に比喩的に食べられたけど)
思えばいいと、受け入れていたのだが。

ここでソレを出すか。

なんて言って良いかわかなかった。
混乱するまま思考を巡らせていると。

「あー、話の途中で悪いが、セリ。」ギルドマスターが話はじめる。

「悪い知らせがある」と言い聞かせるように言う。

逃げ出したい気分になったが、正解だった。

「アチラに動きがあった。早くこの町を

出た方が良い。」



聞きたくなかった言葉だった。

ーーー
動揺が出てしまったかもしれない。

小さい頃の教育で
ポーカーフェイスを植え付けられている。

それでも、何年か経っても
表情はなかなか動かなかった。


それでも、心のうちを透かし見られないよう
振舞ってきたと自負している。


恐れている。
心の底から。

冒険者として死ぬと想像するより、
怖いものとして認識しているようだった。

今、自分はどんな顔をしているだろうか?


ギルドマスターは静かに待っている。

「・・出て行きます。ここを」
酷くつっかえたような、つなぎ合わせた言葉が落ちた。


ここを追い出されるんじゃない。
アチラに動きがあれば、出て行くと決めていたんだ。

それが、来ただけだ。
と頭の中で説得しても
気持ちがついてきていない。

呼吸が浅い気がする。
鼻がツンとして目が潤う。

グッと奥歯を噛み締めた。
早くしないと。

と、自分が返答していない方へ目を向けた。

出て行くのに1人は難しい。
だが、そうそう手を取って良いのだろうか。

出自を話す必要性が出てくる。
その降りかかる火の粉が迷惑でしかないだろう。

自分は不安な顔をしているかもしれない。
彼らにバレるだろうか。

迷子になったような、泣きそうな心持ちを。



「俺はセリを離すつもりはない」
と頰に触れた手は、剣だこで硬い冒険者の手。

「……一緒に連れてって。」と掠れた声に

自分を番だと言う男は、笑った。





町を出て冒険の旅へ




育った町で冒険者の終わり
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