上 下
8 / 200
I 育った町で冒険者

1日目

しおりを挟む
早朝、ゴトゴトと音を立てて馬が進む。
冒険者パーティ『竜の翼』一行は、馬車の中で朝食を食べていた。

セリも朝食を頂いていた。
ある男の膝の上で。

「ほら飲め」とロードが飲み物を渡してくる
セリが受け取るも手を離さないので、そのまま飲んだ。

ロードがセリに、ふにゃりというように笑いかけた。

「ふやけきってる…。」と引き気味に言ったのはキース。
「まあネェ~」と含みを持たせてジト目で黙ったのはシュルトだった。

グスタフは馬車を操っている。

後ろを警戒していたカナンが話に加わってきた。
「まだまだマシな方だぜぇー、番っていうのは溺愛するもんだからな!」と楽しそうに言った。

「溺愛って何?」と膝の上からセリが聞いた。
キョトンといった風情だ。少々の間があってから3人は端的に返答した。

「溺れるくらい愛す?」
「べったり離れない重いヤツ」
「・・構い倒される」

キース、シュルト、カナンの解答だ。
疑問符がついてよくわかっていないキース。
何が重いのか遠い目のシュルト。
初めて真顔なカナンだった。

そんな答えを聞いてもわかっていないセリだった。
原因は、恋愛のれの字も関わっていないからだ。

単独の冒険者としてスキを見せない生活
恋愛にうつつを抜かすなんてなり様もなく、

恋愛とは、空想上の関わりないものと認識されていたのだ。

「溺愛でも足りないな。」とロードが言ってセリの頬にキスした。
そうした行動もセリにとっては挨拶の延長ぐらいの認識。

思いに隔たりがあるのが周りにもわかってきた。

ーー

馬車内には少し間延びした空気があったが、外は朝日が明るく出てきていた。

馬車を結界の中に置き、気を引き締めて森のダンジョンへ入っていく。

暗くなっていく洞窟に「ライト」とキースが魔法を使った。
ライトの魔法で丸い光源が宙に浮いた。

光源が揺らがず、明るいので先見するのに助かる。
魔力も消費するから、レベルが低いと長く持たないのだが。
そんな心配はいらないようだ。
「ボクの魔法なんだから。」と言っていた。

セリが案内と斥候で先に立つ。

覚えているトラップと予兆を見逃さず
よく来ている道を進んだ。

魔物はスライムが横道から出ただけで
カナンが処理してくれる。

1、2、3階層。順調に最短距離を進んだ。
危なげない様子にスピードを上げることにする。
4、5、6階と虫の魔物と戦闘になったが、

一刀両断。
頭をしっかり潰して(復活するため)

サクサクと進む。

役割、無駄のない動きと連携は心地よいほどだった。
レベルと経験の差を歴然と感じる。

素材は特にいらないのでドロップ品は落ちたままだ。
『虫の魔物は金にならない』と言われるほど需要が少ない。

「セリ、疲れてないか?」とロードが声をかける。
セリは大丈夫の意味で、首を縦に振る。

ライトの魔法で見やすく、カナンが魔物の接近を察知して知らせてくれる。
後ろはひとかたまりで油断なく移動するので

気が散らない。案内人として気を配る必要性が少ないと、
斥候として前に集中できた。
そのおかげで、疲れていない。

「よし、行くか!」と再び進み、
7、8、9階層を進み、10階層のボス部屋に来た。

昼を大幅に過ぎた頃だろうか。

予定より早くボス部屋にたどり着いた。
小休憩をいれ、ささっと食事をした。

ハーブ水が
冷えていて美味しい。と感動していると

「これ回復効果が少しあるから備えてあるのヨ」とシュルトが教えてくれる

「ポーションほどじゃないけど、便利な点もあるよね、これ」キースも気に入っている様子。
「食事に合うもんなぁ」とカナンが相槌を打った。

「気に入ったか?起きた時に飲めるように備えてあるのと同じものだ。」と嬉しそうに言う。
喉が痛い朝にロードの部屋で飲んだものだと思い出してちょっと複雑な気分になった。
・・その前のことは思い出さない。

補給が終わり、ボス部屋へ
「俺とグスタフで行くか。
コクリとグスタフが頷き、魔道具から弓を出した。アーチャーなのかな。

ロードがいつのまにか出した大剣の感触を確かめている。
「オシ!サクッと終わらすか。」

との言葉通り2人で仕留めた。
オスメスを大剣でなぎ払い、子たちが出る前に

弓で額部分を撃ち抜いて絶命させた。

卵がぐしゃりと嫌な音がしたが、燃やすのが定石のため

素早く、収納していた使用済みの料理用油で燃やすらしい。捨てそびれてたって。
宝箱を確認して

麻痺消し薬(低級)を手に入れて、
ダンジョンのフィールドへ降りていった。

ーーー
斥候の交代だ。

盾を持つカナンの後ろ。セリはその後ろを一歩下がってついていく。

11、12と順調に進んだが、
13階層で
レンガの色の配置が違うと気づき、歩みを一旦、止めた。

覚え書きをめくって確認する

「最短距離があいている。」
運が良い。

「飛び矢の罠に注意すれば、予定のルートより速くいける」
そちらにルートを変えた。

矢の罠は予想された箇所でカナンが盾で防ぐ。
再起動しないうちに進んだ。

14層から少しずつ休みも入れ、地図の通りに進んだ。

思った以上に早く20階のボス部屋前まで着いた。

最速記録だなと考えて
もう夜だろう時刻で
ボス部屋の前で食事をして休むことになった。




明日は、ボスの攻略からだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました

山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」 確かに私達の結婚は政略結婚。 2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。 ならば私も好きにさせて貰おう!!

処理中です...