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I 育った町で冒険者

番の本能

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部屋に人が入ってきた。
男が自分を探している気配がする。

バクバクと心臓の音でバレるんじゃないかと思う。
ギュと、手の中のダガーを強く握った。

怖い
格上の魔物に見つからないよう、隠れているような緊張感。

窓から逃れられるか?落ち着きなく目を動かす
じっとしている?逃げる?
決めれずにいたら…


影ができて
首根っこを掴まれて、男に持ち上げられた。

!?
速い接近に反応できず、捕まった。


マジマジと相手を見ると、ガッチリと身体のできた肢体は
風格ある冒険者といった雰囲気だが、男の顔を見ると
思ったより若いと思えた。

相手の顔の前まで持ち上げられ、
じろりと視線を向けられた。

「他の男のニオイがする」
不服そうな声に聞き覚えなどないが、
追いかけられ、なぜ捕まっているのか。

何なんだろう?
殺気は感じないが動けない、噛まれたし。

何がしたいんだ?と困惑しているところで
この部屋の主、ギルドマスターが男に声をかけた

「うちの冒険者に何の用だ?」


ギルドマスターとして仲裁に入る。
これはどんなトラブルだろうか?と観察しつつ、ギルドの長として介入することにした。

ギルド内のトラブルはご法度だが、
冒険者の喧嘩や犯罪、規約違反と事欠かない。

新人がベテランの素材をかすめた
金を握り込んだ、などの件もあったが
この子にはその類はないだろう。

そもそも、目の前の男はダンジョン専門の冒険者と言われている
フィールドが違うため、双方の接点はなさそうだが。

男は、片手であの子を抱え込むと、ひと言
「持ち帰る」と言って
バッと窓から出ていった。

「待っ・・!」
追って止めるべきか、拐われたととるか。

今の状況にギルドの規範に抵触してはいない
窓から出て行かれたが規約違反とは言いがたい破損もない。

権限あるギルドマスターは不用意に動けない。

「番の本能かねー」
と残った男がのんびりと言った。

この男に問い詰めるのが優先だな。

ーーある一軒家の一室

連れこまれた先でベッドに組み敷かれる。

この行為を知っている


甘い
甘く甘く。
ぐるぐると深い混乱と・・

安堵。

オトコの匂いに
身体は受け入れた。

現実味のない温度と音に、昼か夜かも

わからなくなっていった。


ーーー夕方 再びギルドマスターの部屋

「あの子は!?」
ギルドマスターの焦った声に、男は呑気に答えた。

「寝潰した。」

その答えにギルドマスターから怒りの感情が見えた。


ボクは、そこまで怒ってない。後から合流のためにギルドに来たら
ギルドマスターの部屋に呼ばれて、こんな状況でもね。

・・ため息ものだ。

………そもそもの話

ボクの所属、[竜の翼]はダンジョンを攻略するのがメインの冒険者パーティだ。
男だけのメンバーで、とくに大きなトラブルを起こさずやってきた方だ。

女関係や盗賊の強襲なんて小事は、ままあったが冒険者
かつ名が通っているパーティにしては堅実と言えるだろう。

今回、受けたいクエストのために臨時のメンバーを探しにきたのに、
リーダーが何を血迷ったのか、新人冒険者を拉致!?

何やってくれてるの??
同じ所属だからって、ボクが来たらここに案内されたけど、どうしろっていうのさ。

一応、先にいた同メンバーに状況を聞いた。

「なんでボクまで巻き込まれるの?」トゲを含ませ
リーダーを止めるべきだった男を睨んだ。

「あれはムリだわぁ~。
止めでもしたら、オレもこのギルドも真っ平らになってたかもよお?」

軽い。

いつもながら軽いが、一応 理由があるようだ。
「何で?」

「番を見つけたから。」
「は?誰が」

「リーダー。」

という会話をした。その後も、
「巣に囲い込みに行った」
「帰ってくると思う」と言う。

狼の獣人の血が入っているこの男は、番の重要性、衝動を
よく知っているのだろうが、ボクにはさっぱりわからない。

書類がここにあるので一応は臨時メンバーの選別をしていたのだろう。
「この子だよ、リーダーの番」と、書類を渡してきた。

何枚かキープしていたうちのひとりだったらしい。
レベルが低い。ここで活動でいえば中堅どころか。
ソロ活動が長いとパーティとの連携的に厄介だが、
案内係には良いかもしれない。

「はあ~。暇。
出してくんないだもん」と独りごちてるけど
仕事をしているギルドマスターの睨みがきた。わかって言ってるな。

「お前がいるし!
ちょっとカウンターに行ってくるわ!」ナンパにって言葉が付いていそうだ

オイ、逃げんな!と言う前に、

ピクっと何かに反応した男が
「戻ってきた。」と呟くと、

窓からリーダーが入ってきた。


ーーー

「あいつを連れてく。」とリーダーは言い放った。


「決定なの?ていうか書類見た!?」とボクが言っても無駄かも。
この2人の野生の直感はムシできない。決定か。


「待て勝手に連れて行くな!
一度、セリにはギルドに来てもらう」とギルドマスターとして言う。

?なぜだという顔を男はしたが、当たり前だ!

「安否確に・・依頼を承認させる必要がある。」と言い切った。



ギルドマスターは身内が心配のようだ。まあ当然か。いや少し私情が見える。
人材として重宝しているのかな、この子。

今回のクエストはボクらのレベルなら簡単だけど、
なるべく、はやい方が良いクエストだ。
だから、慣れないダンジョンに案内役の斥候が必要だった。

それでこのギルドに寄ったのに。
リーダーがこんな調子じゃあね。

日程に余裕はあるけど、
早い方が良いのに。


ハア。
もう一度ボクはため息をついた。
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