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現実の波

15-②

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「人酔いする」
「意見を聞くのも仕事よ」

カイナは交流会に出ずっぱりだった。豪華な食事が、心を少し癒してくれる。

手土産という贈り物は、食堂に置かれて増えては減りと見る度に変化があった。カイナはそっと、蜜柑の入ったゼリーを確保した。


実際、カイナのところに面会や挨拶が振り分けられている。理由は、討伐組みより会話が進む。研究者や技術職との会話に慣れている、話す機会が多かったからだろうか。

独特な一方的に話しまくる人、ちょっと距離が近いけど無意識なだけ。それくらい変でも問題な会話が続けられる。濃い人が多いなという感想だった。

たまに、勧誘めいた言葉をかけられても、すんなり断った。今の自由な環境もフォローアップ、給料も文句ない。
作業、企画作り仕事は増えていくがやりがいもある。

「スタンを紹介してくれって話も多くて」
異世界人と密な関係と見なされて、注目され引き抜けたら誘ってこいとで上に言われているんだろうか。

「化粧品が!」

スピリッツアからの物は手に入らない。魔力(と仮称しているもの)が抜けると物がなくなる。

「ダンジョンでのドロップ品も同じく?」
「そう。毛皮が蒸発したみたいに跡形もなくなるってどういう事なの?灰とか毛の一本くらい残らないって、何現象なの?痕跡が残らないの?完全犯罪の出来上がり!」


ゲームの法則として受け入れられる者はそのまま受け入れるが、研究者技術職は、どういう理論なのかさっぱりな現象に頭を抱える。

「不思議現象ですね」
「不思議じゃ、肌は活性化しないの!」

薬効の組み合わせは参考に、魔力の究明をしている女研究者は切実に叫んだ。

「睡眠も大事ですよー」

そろそろ、寝かせにかかる。眠いと愚痴っぽく、早口になるのがわかってからのカイナの役割だった。お肌にも脳にも良いといえば、すんなり寝てくれる。

3回くらい同じやり取りを繰り返すこともあるが、眠気でそうなっているなら対処も楽だ。
人の集まりから抜け出ると、たまにお酒を飲み過ぎて廊下で寝ている人を発見する。

端末で全体に報告したら、お仲間さんが回収してくれるけど。

お酒にお肉、保存の効く食料はこの時季の風物詩だそうだ。なんとも賑やか。でも、一歩輪から外れると静謐だ。
隔絶されたこの研究所も、街と同じように感じた。

(私は、あの世界をそうやって感じられるだろうか?)

没入感、好奇心ならゲームが与えてくれる。今あるのはデザインの仕事。人と会って話して、話を聞いて。
そんな毎日に、日常を感じる。

カイナは異世界との繋がりさえ、日常に浸透していた。

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