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報告書

19-②

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「精霊の聖域とその管理、侵入者できる者がいないのにか?」

精霊のお相手をするという職務内容に、つい聴き返した。精霊の許可した者しか入れない“聖域”、“棲み家”と呼ぶ精霊様が普段居る場所とは違う。

鉄壁、そして入っても盗る物が無い。

「感覚的には“安全な別荘”だろうか?」

王からの報酬、城の任期を無事終えたものの、次が困る?
“役職につけておきたい”という思惑。

貴族達はざわめく、精霊様と交流を持てる地位はどれくらい自身に優位になるか?
(エルフは森に帰ると思われている、と)

この長い耳は、人の会話を容易く拾えると広まっていないのだろうか?まだ、故郷に帰るつもりはないんだがなあ。

そんな個人的な話をする仲でもない。やっかみも少しは起こるが、捌くのにも慣れてきた。

(これも、森に居たら味わえない刺激か。)

貴族、その派閥の興味は1箇所に集約される。
“次の王位継承に精霊様が、関わっているのではないか?”

私を重要視する、見当違いの疑惑だ。彼の方は政治に関わっていない。だが、王位はある存在に認められて次が決まる。

<緑と風の精霊様>のことでは、ない。

私はそう確信しているし、王位継承の話には関わらないと言っている。
表明しても、騒がしのが想像できる。これが王都に長く居たくない理由だ。大体、以下の通り。

「王とは長い仲なのでしょう、知的な話がお好きなようで」
「獣人の王では無いですからな」

(その言葉以外に、非難する要素が無いと言っているようなものなのだがな。)

「私には、政治は分かりませんな!」

煙に巻けば、煙たい顔をする。これもまた懐かしむべきか?<極北の城>から出てきて久しぶりと感じれば、いや時間の無駄だな。

「王に重宝される?まあ、それほどの成果は上げているぞ。」

貴族達も必死だ。それに、特別な職は私の研究の功績の方だと思いたいんだが。

「人が多い」

この感覚も久しく感じてなかった。諸々の書類を出して、仕事は終わった。後任も予定通り通常の極北の城での任務を回せるだろう。

今回のイレギュラーは私の赴任から始まっていた。王の采配は、国を守るためにあった。突然に来たあの子も竜人もその範囲内だ。

予想外は竜人のツガイの子供、だな。だが大きな意味があった。まるで運命に導かれるように。そんな風を感じたが、追求することでも無い。

「少し出歩いて、既知を尋ねて挨拶する時間が取れるな。」

新しい役職といえど、やる事は少ない。

今までの管理体系に、お飾りのトップができた。精霊様の要望を聴ける機会が増えるくらいだ。そう変わらない

「たいそうな名前だが、ずっと部屋に詰める必要もない。」

長い付き合いの<緑と風の精霊様>に、就任のご挨拶の後お茶をご一緒した。極北の城の話をして、和やかに初仕事は終わった。


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