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報告書

11-②

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[報告]

<監視部隊>より
魔物避けの薬をポイントに撒き、周辺状況の把握。
雪の降り積もり具合、荒れた場所は無く魔物の目撃はなし。違和感あり。

拠点を作り、監視。
もし対象の魔物の襲撃があれば、魔導具で退避の命令。
そのまま帰還になった。

「痕跡は見つけられませんでしたが無事、帰還しました。」

「収穫無しか」
嫌味があったが、焦る時期ではない。戻って来ないと分かれば安心なのだが。

「魔物の目撃例が無いのは、大型の魔物から逃げたと想定する。監視の範囲を広げる、川を遡上するか。」

地図上の長い川が横たわるところ、西には痕跡がない。

(北、北東に行ったと思うのは、願望に過ぎないか?)

「迎え撃ってやります!部隊を派遣しましょうっ」
「このまま追い返す事もできます」

勢いがあるのは良いが、この地形で追いかけるのは不利だ。どこまで追うか、反撃にどう対処するか。とれる対応策は少ない。

「隊に負傷者が出たとしても、すぐに支援・後退もできないだろう。」
「拠点を計画的に作れば、可能かと」

可能であっても、脆弱な物しかできない。慣れない魔導具を、展開するのもひと苦労だろうに。ドワーフの技術者の参加を願って何とかなるかどうか。


ここに集まった兵士達の練度は、団体の防衛を基礎としている。この『極北の城』を出ての討伐経験がない者ばかりだ。

雪が隠してしまう道、寒さ。どれもこの城に居れば解消できる。

(大型の魔物相手は、準備を万端にしたとしても思いがけない事がある。そんな冒険者の頃の話も一蹴されそうだ。)


他にも、問題は起こっているか。
「城の住民に、不安が伝わったようです」

閉鎖されている分、兵士の緊張が直接伝わるのだろう。

「不安が増幅してしまう前に、方をつけたいな」

城壁に設置している魔導具の演習を見せ、安心を伝える実演をする事に決まった。この演習に際しては、よくある兵士と住民との交流会だ。

定期的に行うイベントを利用する、それほど慌てる事はない。

(どのタイミングで動くか。風が穏やかになってくれると良いが。)

その時を待ち、討伐隊が出ると決まった。

監視に出た事のある者から、選別もスムーズに行われた。竜人も同道するのを会議で認めさせた。

『大型の魔物の討伐依頼、救出を優先。』

討伐隊は案内と地理的情報を提供し、見届けるために出す。

「兵士達を引き連れてもらう。」
「邪魔なら置いて行く」

(迷わないと良いが。)

城には、極大魔法を使える魔法使いが2人残るという安心を伝えて。<極北の城>は静かに、良い報告を待った。
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