【長編・完結】300歳エルフは、まだ森には帰りませんよ。 〜目まぐるしく過ぎた日々と、お茶を飲むひと時を。〜

プロローグ

「子供は可愛いな」

王都のカフェから見える公園で、紅茶を飲んでいる男。
エルフは子供ができにくい。とは言え、300歳を過ぎれば世帯を持ち森に戻る。


子供が少ない、周りにいる期間が短いと言い換えるべきか。
獣人の子と妖精族に、特徴の目立たない人族の子が仲良く遊んでいる。

声を上げ、楽しそうな姿に頬を緩める。

男は、再び紅茶を飲んだ。

その所作と美貌の持ち主に、女性客達がほおっと溜め息を吐く。

エルフと呼ばれる森の種族は見目が良い。彼らは500年生きる長寿だ。
それゆえに、見た目年齢が若い。

「あのっお茶をご一緒できませんか？」

ニコッと優しげに男は言った。

「こんな年寄りで良ければ、どうぞ。」

優しく理知的な瞳で、年寄りと言われれば違和感のある容姿。

300歳を過ぎた、男が恋愛対象になるのかは分からないが勇気を出して誘ってくれたお嬢さんのお誘いを断らない事にしている。

(若いなあ)

100年も生きられない種族の輪廻に、長居するのは憚られる。
だが今はまだ、この生活を手放す想像がつかないのだ。

アクレイオスという男の関わった事件の記録。

忘坊録であり、解決の結末、申し送り事項などが書かれている。


それをたまには。見返してみよう。

300歳超えたあたりから数えていないが、子供を愛でるお爺ちゃん。
見た目は人族で言う30歳、男盛りで容姿端麗で少し筋肉質。

城の長に推挙される程の頭脳と采配の手腕を持つ、頼りになる男の話である。