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婚約

ローランド視点

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私の父はハレス王国の宰相を務めている。

従兄弟の関係で、公爵位。そう勉学の時間に聞いた事実は、符号でしかない。

一人息子ながら、甘やかさすものらしいが家は貴族らしく距離があった。
父は王城で帰って来ない日もあり、
母は婦人会の活動をして出かけたり、庭でのお茶会など活動的だ。

その頃、私は家の図書室に籠り勉学に励んでいた。
朝食で合わなければ、夕食を一緒にする。その時の会話で何をしていたか知ることもある
それがうちの普通だった。

「勤勉ですね」
教師の褒め言葉だが、勉学は性に合った。

あまりに読書をやめないので、庭に出るように母から言われても
こっそり本を読んだものだ。

人の出入りが多く、母くらいの歳のご婦人方に会っても定型通りの挨拶をすれば良い。

母は手のかからない子だと思ったらしいが、
父は少々、危機感を覚えたらしい。人との関係に積極性がなかったからだと後で聞かされた。

私の友人には王子と、騎士家の
がいる。幼馴染との関係は、まあまあだった。
他の子供との関わりが子供らしくないと言われていたが。


変わり始めたのは、
父に連れられ、ある領地の視察に来た時からだ。

侯爵家の領主と挨拶し、年下の女の子と会った。

「マライヤです。」
隠れてしまうし、オドオドしていた。

父が、同世代の子供と会わせるのはよくある事だ。

『人をよく見ろ』と言われ、経験を与えられているのだと思う。
女の子の瞳は、怯えてはいない。

子供達がとる反応は、2パターンだ。

怯えているか、取り入るような態度。
宰相の子として、よくある事だった。幼馴染のが大変いろいろ方法で被害に遭い人数も多い。
それくらいなら「しょうがないよな」で済ませている。

“仲良くしておけ”と親に言われていたり、その目を輝かせて、手を握ってきたり
叫ぶような声で話しかけられるよりかはいい。

いつも通り、私は父の隣で控えていた。
彼女も、静かに座っている。

刺繍のされたワンピース。クセのない髪と落ち着きのある緑の瞳。
隣の領主と似ている容姿だ。

この時、彼女と目は合わず、父がなんの話をしていたか覚えていない。

「マライヤ、図書室にローランド様をお連れしなさい。」
「はい」

領主の申し出は、ありがたい。

「ご案内します。」
にこりと笑ってくれる。

2人で歩き出した。
いや正確には、メイドも一緒だから2人っきりとはないのだがと頭の中で言い訳しながら。


「マライヤ?お客様が来てるんだったよな。」
「お兄ちゃ…様。」

彼女の兄を紹介してくれるらしい。
「ジェイスです。」

3歳上で、ガッチリした身体は領地を走って鍛えたと聞く。
騎士になると言っていたが身体が薄っぺらいのを気にしていたからな。

「わたしは失礼します」彼女は、戻るようだ。
「案内をありがとう」そう言って、後ろ姿を見送った。

兄のジェイスと2人となると崩れた喋り方になった。

「マライヤはおとなしいけど、俺より肝が据わっててな。よろしく頼むわ。」
「ああ。」

うまくいけば、婚約の話になると聞いていた。
奔放なタイプとは合わないが、マライヤ嬢のようにおとなしい性格なら今後、うまくやれそうだ。



「交流を深めなさい」

婚約を決めたのは、父なりの配慮だ。
私が勉学に没頭しすぎて、人との交流をなおざりにする癖を見通していたのだろう。

「私もそうだったからな」と目尻の笑い皺を深くして言う。


(そういうものか)と記憶に残ったが、交流と言われて手紙を書くことにした。
「宿題のようだ」と幼馴染に言われ、教師に女性への手紙の書き方を習ったりして、

長く続いた。

彼女から帰ってくる便箋、インク、花の香り


生涯を共にするのは、彼女しかいないと思っていた。
あの父からの言葉にショックを受けた。

「マライヤ嬢との婚約を破棄することにした。」

「何故ですか?」
「彼女の父親からの配慮だ。」

彼女からじゃない事に、心の片隅で安堵した。

「マライヤ嬢は?認めたんですか。」
「彼女なら。頷くだろうな。」


わかってる。領地の危機に、彼女は見て見ぬふりはしないだろう。
「私の婚約者選びは、待ってもらえますか?」


「やってみなさい。生涯共にする相手だ。自分の力で手に入れてみるんだな。」

息子の決心した目に「仕事に穴を開けるなよ?」と言い添えた。
上手の父に早く追いつこうと決心する。まずは、母上に相談か。


そして私は、彼女にプロポーズするに至った。
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