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隼人さん
7. 《弘和side》ただ、無事でいることだけを願って……。
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《弘和side》
誘拐と聞いて私は慌てて仕事をキャンセルし自宅に戻った。
間髪入れず乳母が私の前で土下座をする。その体は震えていた。
正直に詳しく事情を話すように促す。
乳母の話から、手島が車に乗せられそうになっていた時の最後の言葉で犯人は手島の両親だということは察しがついた。
二人の安否が心配だったが、目撃者も多かったためすぐに警察からも連絡が入り、業者を装った刑事たちが自宅に逆探知の機材などを持ち込み、捜索を開始した。
私は怒りに震えていた。
私の大切なものを二つも、しかも真昼間から奪うなど、許せなかった。
手島の両親のことは調べさせていた。
相変わらずクズでどうしようもなかったが、手島がもう関わらなければ大丈夫とほおっておいた。
まさか、こんな形で手島の前に現れるなんて……。
ものの1時間で手島の携帯電話の電波と、この夫婦の行動範囲などから居場所はすぐに特定できた。
郊外からまた少し山のほうに入ったいくつか廃墟になった工場がある地帯だ。
その時自宅の電話が鳴った。
「はい」
刑事たちが囲む電話機に手を伸ばし、合図があってから受話器を持ち上げ静かに返事をする。
「あー……社長さんだねぇー」
女の声、このいやらしい言い方には聞き覚えがあった。
「息子を返してほしかったら5千万すぐに用意してもらおうか」
その金額にも私はいら立ちを覚え、眉間にしわがよる。
私の息子の身代金にしては安すぎるが、この夫婦の暴力団への借金などが総額で3千万ほど、後の2千万は自分たちが逃げる資金で足りるというような計算だったんだろう。
もしかしたら、高額を吹っかけて、払わないなどということを言われかねないからということかもしれない。
なにせ、自分たちは息子を置き去りにした張本人なのだから……。
「こっちには沢山仲間がいるんだよ。
息子はそいつらに見張らせている。時間までに払わなければ命はないよぉー」
どんなに怒鳴り散らしてやろうかと思い、こぶしを握る。
その時、逆探知ができた合図。
今怒りを露わにしては場所を移動されかねない。
「わかった。用意する時間をくれ。」
怒りをぐっと堪えゆっくりと受話器を置いた。
踵をかえし、刑事や警察官は何台もの覆面パトカーに乗り込んだ。
犯人を目撃している乳母も面通しのため警察車両に乗り込む。
私も運転手に指示をし、その後を追った。
ただ、無事でいることだけを願って……。
工場地帯の入り口付近の電話ボックスに軽自動車が止まっていた。
そこに二人の人影。
そっと警察が取り囲み、いとも簡単に取り押さえられた。
女は暴れていた。
主犯は息子だと喚き散らし、自分たちが帰らなかったら攫った子供を殺すことになっているなどと。
そんなことはありもしないとわかっていた。
この夫婦に仲間などいない。
ましてや私の手島が、お前たちを手引きするなどありえない。
男のほうは静かに捕まっていたが、二人の居場所は言わなかった。
まったく……このアバズレの犬らしく、従順に女の言うことを聞くこの男が手島の実の父だと思うだけで反吐が出る。
警察も暴れる女のほうは押し込むように車に乗せたが、この男のほうからはなんとか居場所を聞き出そうと説得を試みて、電話ボックスからさらに奥にある、工場の廃墟へと連れて行った。
何人もの警官が静かに、そして慎重に捜索を続ける。
仲間がいるなど嘘だと大方予想はついても、もしかしたらということもあった。
私は、車の中からその様子を見ていた。
敷地から奥へと足を進めている警官の一人が、何かに気づいたのかほかの仲間を呼んだ。
廃墟となった大きな建物とは別棟の何個もの木箱などが積み上げられている場所があった。
それを退かせ、さらに何人もの警官が集まる。
どうやら大きな扉があるようだ。
ゆっくりとその扉を開ける。
私は我慢できずに車から飛び出し駆けだした。
そこには大きな声で泣く我が子と、薄汚れ、座り込む手島の姿。
無事だったことに喜びが沸き上がり、駆け寄る足もおぼつかないほどになっていた。
その時、手島は立ち上がり警官にすっと両手を差し出した。
何をやっているのか……
なぜ捕まる気でいるのか……
お前は私のものなのに……
何を、勝手なことを!!
不安と心配と、そして失うことへの恐怖に葛藤していた私の気持ちは一気に爆発した。
頬を張り、怒鳴り散らした。
手島は大声で泣き出した。
こんなに感情を露わにして泣いた手島を初めて見た。
いつも押し殺し、自分の気持ちや感情を表に出さず、ひたすら従順な手島……。
そして私は悟った。
ああ……反吐が出るが、手島は間違いなくあの男の息子なのだと……。
誘拐と聞いて私は慌てて仕事をキャンセルし自宅に戻った。
間髪入れず乳母が私の前で土下座をする。その体は震えていた。
正直に詳しく事情を話すように促す。
乳母の話から、手島が車に乗せられそうになっていた時の最後の言葉で犯人は手島の両親だということは察しがついた。
二人の安否が心配だったが、目撃者も多かったためすぐに警察からも連絡が入り、業者を装った刑事たちが自宅に逆探知の機材などを持ち込み、捜索を開始した。
私は怒りに震えていた。
私の大切なものを二つも、しかも真昼間から奪うなど、許せなかった。
手島の両親のことは調べさせていた。
相変わらずクズでどうしようもなかったが、手島がもう関わらなければ大丈夫とほおっておいた。
まさか、こんな形で手島の前に現れるなんて……。
ものの1時間で手島の携帯電話の電波と、この夫婦の行動範囲などから居場所はすぐに特定できた。
郊外からまた少し山のほうに入ったいくつか廃墟になった工場がある地帯だ。
その時自宅の電話が鳴った。
「はい」
刑事たちが囲む電話機に手を伸ばし、合図があってから受話器を持ち上げ静かに返事をする。
「あー……社長さんだねぇー」
女の声、このいやらしい言い方には聞き覚えがあった。
「息子を返してほしかったら5千万すぐに用意してもらおうか」
その金額にも私はいら立ちを覚え、眉間にしわがよる。
私の息子の身代金にしては安すぎるが、この夫婦の暴力団への借金などが総額で3千万ほど、後の2千万は自分たちが逃げる資金で足りるというような計算だったんだろう。
もしかしたら、高額を吹っかけて、払わないなどということを言われかねないからということかもしれない。
なにせ、自分たちは息子を置き去りにした張本人なのだから……。
「こっちには沢山仲間がいるんだよ。
息子はそいつらに見張らせている。時間までに払わなければ命はないよぉー」
どんなに怒鳴り散らしてやろうかと思い、こぶしを握る。
その時、逆探知ができた合図。
今怒りを露わにしては場所を移動されかねない。
「わかった。用意する時間をくれ。」
怒りをぐっと堪えゆっくりと受話器を置いた。
踵をかえし、刑事や警察官は何台もの覆面パトカーに乗り込んだ。
犯人を目撃している乳母も面通しのため警察車両に乗り込む。
私も運転手に指示をし、その後を追った。
ただ、無事でいることだけを願って……。
工場地帯の入り口付近の電話ボックスに軽自動車が止まっていた。
そこに二人の人影。
そっと警察が取り囲み、いとも簡単に取り押さえられた。
女は暴れていた。
主犯は息子だと喚き散らし、自分たちが帰らなかったら攫った子供を殺すことになっているなどと。
そんなことはありもしないとわかっていた。
この夫婦に仲間などいない。
ましてや私の手島が、お前たちを手引きするなどありえない。
男のほうは静かに捕まっていたが、二人の居場所は言わなかった。
まったく……このアバズレの犬らしく、従順に女の言うことを聞くこの男が手島の実の父だと思うだけで反吐が出る。
警察も暴れる女のほうは押し込むように車に乗せたが、この男のほうからはなんとか居場所を聞き出そうと説得を試みて、電話ボックスからさらに奥にある、工場の廃墟へと連れて行った。
何人もの警官が静かに、そして慎重に捜索を続ける。
仲間がいるなど嘘だと大方予想はついても、もしかしたらということもあった。
私は、車の中からその様子を見ていた。
敷地から奥へと足を進めている警官の一人が、何かに気づいたのかほかの仲間を呼んだ。
廃墟となった大きな建物とは別棟の何個もの木箱などが積み上げられている場所があった。
それを退かせ、さらに何人もの警官が集まる。
どうやら大きな扉があるようだ。
ゆっくりとその扉を開ける。
私は我慢できずに車から飛び出し駆けだした。
そこには大きな声で泣く我が子と、薄汚れ、座り込む手島の姿。
無事だったことに喜びが沸き上がり、駆け寄る足もおぼつかないほどになっていた。
その時、手島は立ち上がり警官にすっと両手を差し出した。
何をやっているのか……
なぜ捕まる気でいるのか……
お前は私のものなのに……
何を、勝手なことを!!
不安と心配と、そして失うことへの恐怖に葛藤していた私の気持ちは一気に爆発した。
頬を張り、怒鳴り散らした。
手島は大声で泣き出した。
こんなに感情を露わにして泣いた手島を初めて見た。
いつも押し殺し、自分の気持ちや感情を表に出さず、ひたすら従順な手島……。
そして私は悟った。
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