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番外編1

14.谷垣さんの手術の日

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次の日からまさに「公私ともに」オレ達の生活が始まった。

社長がしばらく抜けるということで本社でのハヤの仕事も増え、正直この1週間は激務だった。
谷垣さんの体調も心配しながら、それでも冷静に仕事をこなすハヤ。
頭の回転の速さ、判断力はやはり群を抜いて適格で、若くても役職についている者達を圧倒していた。

手島さんは社長のスケジュールの調整などテキパキと仕事をこなしていて、やはりこの人無しではこの会社は無かったんだと実感する。
オレも早くあんな風になりたい。憧れと尊敬がいっそう強まった。


そして谷垣さんの手術の日。

何もかも覚悟をして臨んでいた。
朝から手島さんと電話で話したが「心配いらないよ」と穏やかな声で答えていた。
どれだけハヤは病院まで駆けつけたかっただろう。
でも手島さんが家族として谷垣さんの側に居てくれている、それはハヤにとっても心強いようだった。

案の定、谷垣さんは自分の手術当日、ハヤにはシンガポールでのホテル誘致の開発に携わる大口の会議や会合などを入れ、抜けられないよう準備万端にしていた。
そんな父の行動はお見通しのハヤはもちろん手を抜くこともなく仕事をこなす。

ふと時計を見るともう手術開始から6時間も経っていた。

「まだ手島さんから連絡はないか?」

取引先の重役との食事会の合間にハヤがオレに耳打ちする。

「まだありません」

静かに返すと、また重役と話が盛り上がる。
オレはゆっくり後ろへ下がると廊下に出てスマホの着信をもう一度チェックした。

予定では手術時間は4時間と聞いていた。流石に心配になってくるが、抜けるわけにはいかない。
料亭の広い日本庭園から大きな満月が見え、池の鯉が跳ねた時、バイブモードにしていたスマホが震え出し、慌てて電話に出た。
 
「夏斗君、今大丈夫?」

震えた手島さんの声…。
心臓が胸を叩くほどの激しい鼓動になる。


「手術は成功したって

……よか…、よかっ…た……うぅっ…」

手島さんの上ずった声で、緊張の糸が切れたのがわかった。


はー、よかった!本当に!!

オレも全身が震え、体の中の心配を吐き出すかのように大きく息をついた。

踵を返してハヤがいる部屋へ戻ると、ハヤは重役との話の腰を折らない程度にオレの方を見た。
オレは静かに頷く。

オレのその時の表情とその頷きで察したのかホッとした表情になり、陽気に重役にビールを注いでいた。
そのビールの持つ手が震えていて、ハヤもずっと心配が張り詰めていたんだと察した。


もう夜10時を過ぎようとする頃、取引先の重役を見送り二人はハイヤーへと乗り込むと谷垣さんが入院している病院へと急いだ。




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