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心境の変化
5. 一体何がどうなっているんですか?
しおりを挟む目覚めると、見かけない天井があり、ベッドに寝かされているのがわかった。
目をこすりながら身体を起こすと見かけない浴衣を着せられていて、頭痛も少しばかり取れていた。
それでもまだ後遺症なのか、ぼーっとする頭で辺りを見回した。
手島さんがソファーに座り、タブレットで何か仕事をしていた。
「あっ、起きたかい!?」
オレに駆け寄る。
「一体何がどうなっているんですか?」
「あの議員と富士城興産の癒着は噂になっていたらしいんだ。
昨日、弘和さんが出席したこの岩手の開発関係者との会合で話が浮上してね。
そのすぐ後、うちで夏斗くんが山形に出張だと知った弘和さんが
もしかしたら、夏斗くんはその癒着の駒にされているかも知れないって……」
え………弘和さんって、あの谷垣さんが!?
「まさかあの議員が男色家で、夏斗くんにレイプまがいなことまでしてるとは思わなかったんだけど……」
「…………」
オレは俯いた。
秘書として頑張って仕事をこなして、早く一人前と認めてほしいとその一心で、逆に盲目となっていた自分……。
谷垣さんはこんなオレを笑っただろうか。
「ふふっ……。すごかったんだから……。
久しぶりに見たよ。弘和さんが啖呵を切ったところ」
「え……」
「『この開発はキャッスルプレスが全面的に関わることが決まった。
もうあなたには何の権限もありませんよ。
立場を利用して、小銭を稼ぎ、勝手をするのはそれまでだ。
今の議員という立場も危うくならないうちに退散するんだな。
それにこれは、私の息子の大事なものでね、手を出されては困る代物なんだ。
それに関してはいずれ償ってもらうよ』なんて……」
谷垣さんが、オレのためにわざわざ岩手まで来て、そんな風に言ってくれたなんて……。
オレは涙が止まらなかった。
「谷垣さんは!?」
直接お礼が言いたかった。
こんな情けない姿だったのに「息子の大事なもの」と言ってもらえて、素直に嬉しかった。
「東京に戻ったよ。
いくつかの仕事をキャンセルしてここに来たものだから……」
「………そうでしたか……」
「ああ……弘和さんから。
おかげで、目の上のたんこぶだったあの議員の弱みを握れた。感謝するよ。だって……」
谷垣さんの憎まれ口をちょっと口調を真似て言った手島さんは、優しく笑った。
コンコン……
まだ意識が朦朧としていてベッドへと横たえたとき、部屋の扉のノックされる音が聞こえた。
手島さんが立ち上がり扉へ向かう。
そんなに広くない、ツインのホテルの一室だろうか。
部屋にはベッドが二つとソファーセットが一組あるだけのシンプルな造りで、扉の側にはユニットバスがついている程度のものだ。
急に手配したであろうその部屋だが、谷垣さんと手島さんの優しさが胸を熱くし、オレは布団を抱え込んでぎゅっと丸まった。
「大丈夫?まだ、辛い?」
手島さんの声にオレは丸まり目を閉じたまま、首を振った。
「どうも、何かの薬を飲まされたみたいで……。
無茶されて、意識が随分混濁していたようなんですが、ようやく先ほど目を覚ましたんです」
手島さんが誰かと話をしている声がした。
がたん……。
音がしたかと思うと、大きな手がオレの頭をなでた。
そぉっと目を開ける。
鏡台の椅子をベッド脇に持ってきて誰かが座っていた。
大きなスラッとした姿。
そして暖かな優しい手……。
オレはそれが誰か、顔も見れないうちに涙があふれ嗚咽しだした。
「ナツ……ナツ……」
この柔らかな口調でオレを呼ぶ、低音ボイス……。
「じゃ…もうお任せします。私も仕事でこれから東京へ戻りますので……」
そう言って手島さんはごそごそと荷物を持って部屋を出て行った。
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