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距離

5. 《隼人side》今すぐ、抱きしめたい!!!

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《隼人side》

驚いた……。

しつこく連絡がくるこの会社の社長へは、一度会って話をすれば治まると思い、ようやく空いた時間に会うことができた。
父さんの関連企業の取引先らしかったが、今回任された会社とは余り縁がなく話すこともなかったのだが、まぁ、父さんの顔も立てておかないととも思った。
しかし、来てみて状況がすぐに飲み込めた。

これは、俺にお嬢さんを紹介するためにセッティングされた場だ。


最初は当たり障りのない会話を交わしていたが、お嬢さんがぐいぐいと俺に擦り寄る。
正直、もうこの時点で早く帰ろうと思っていた。
だが、急に社長が後ろを指して秘書であろう人物を紹介した。



ナツ!!


そこには、しばらく俺の頭の中でしか居なかった、愛しの人の姿があった。

胸が張り裂けそうで、自分の胸倉をぎゅうっと掴む。



今すぐ、抱きしめたい!!!


4年間の想いが破裂しそうなくらい一気に膨れ上がり、歯を食いしばり耐えるのに必死なくらいになっていた。

あまり変わらないナツの姿。スーツには相変わらず着られてる。
襟足が少し短く刈り上げていて、髪はさっぱりした印象になっていた。

就職活動用か……。

あの襟足を舐めまわしたい。
赤くなった耳も、伏せた瞼も、俺のキスで埋め尽くしたい。

だが、ナツは俺からすっと視線を反らし、首を振る。


ああ…、何か事情があるんだな。
ナツのことだから、俺の知り合いだからということで仕事を貰うなんてのは嫌がりそうだ。
俺はナツの意思に添って、言葉を合わせた。



相変わらず世間話やお嬢さんの話が主流で、俺を退屈させた。
そんなことより、ナツと時間を過ごしたかった。
父さんにも別れを告げた以上、俺もそこそこの土台を作るまではナツに連絡を取らないと決めていた。
だが、ナツの事を思い出さない日はなかった。

何度もあの夜を思い出しては身体が疼いた。
そんな触れたくて仕方がなかったナツが、すぐ側にいる。

俺は社長やお嬢さんの話を受け流しながら、身体の芯を熱くしていた。

ふと見ると、ナツが部屋から居なくなっていた。一緒にいた秘書もいない。
帰ったのだろうか……。

いや、社長がまだ居るのにそれはないだろう。

俺は内心焦りながらも、平静を装い、

「すこし、飲みすぎました。ちょっと、失礼します。」

と、トイレに行くという空気で席を立った。


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