なぜか俺は親友に監禁されている~夏休み最後の3日間~

ha-na-ko

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距離

4. 懐かしい、この声……。

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「!!!!!」


オレは驚きのあまり瞬きもできなくなっていた。
でも冷静に考えたら、この会社の取引相手がキャッスルプレス関連の会社でおかしくはない。
手島さんのつてなら思いついてもよかったのに……。

ハヤは用意された席から一旦後ろに下がって座り、促されてから座布団へと身体を滑らせた。

「今回はわざわざ来ていただいて……」

「いえ、まだ始まったばかりの会社なので、本当にご指導これからもよろしくお願いします」

長い付き合いなのか、親しげに会話が始まった。



広い個室のお座敷の部屋、大きなテーブルの中央に腰を下ろしたハヤは、相手側の部屋の片隅に座るオレに気がつかないままだった。

懐かしい、この声……。

身震いするほどの興奮が身体を駆け上がる。

「ご無沙汰してますぅ」

社長の娘は静々と挨拶をした。

「………ああ…、玲菜…さん、
お久しぶりです。……えぇ……」

「二年前、東京プリンスホテルの祝賀パーティーで……」

「あぁー、それ以来ですね」

ハヤはやわらかい笑顔で返した。

くくっ…あれ絶対憶えてなかったぜ。
何でもないような顔してっけど、すげー焦ってる。
オレには分かる。くくくっ

笑いを堪えるのに必死になっていると、突然全員がこちらを向いた。

「彼は隼人さんのお友達ですよね。
今度、うちで秘書として活躍してもらおうと思ってるんですよ。
さすが、お知り合いも皆さん優秀でいらっしゃる」

………ああ……だから俺をここに同席させたのか。

社長が満面の笑みでハヤにそう言っている横で、娘は驚いた顔をしていた。

あのお嬢さん、ハヤに気があるんだな。今頃オレにした態度を後悔している。

オレはハヤの方を見た。

切ない……苦しい表情。

オレの胸は熱くなった。
しかし、オレはしらんふりを決め込んだ。

少し視線を下げ、ハヤにだけ分かるくらいに首を横に振る。

「……いえ、知りませんが。

若い秘書を雇うのはいいことですね。
若い力や感性はこれからの日本の活力になると思います。
僕もまだまだですが、これからを見てやっていけたらと思います」

またやわらかく微笑み、注がれたビールをくいっと飲み干した。

「そ……そうでしたか。では、私の方の情報違いですかね……」

社長は少しバツが悪そうに、後ろでにオレに下がれと合図する。
オレは今座っていたベテラン秘書の隣の位置からさらに後ろ、完全に壁際まで下がった。
ベテラン秘書の肩越しに気づかれずにハヤを見ることができて好都合だ。
娘はせっせとハヤのグラスにビールを注ぎ、あの甲高い声であからさまに擦り寄る。
社長は終始世間話や他愛もないことで時間を潰していた。

この会食会で一体何を話し合うのか。
ベテラン秘書の人にオレは後ろからそっと耳打ちする。

「あの……、仕事の話はしないんですか?」

部外者のオレがこんな事を聞くのは筋違いかも知れないが、このベテラン秘書の人はオレを気に入ってくれていろいろ教えてもらったので、つい気安く聞いてしまった。
オレはすっと会食会のメンバーに気づかれないように部屋を出された。


うわっ、しまった。怒られる。

下手をしたと後悔したが、ベテラン秘書は怒る気配はなく、逆にあきれた様子で腕を組んだ。

「これは、お嬢様のお見合いだ。
以前から、谷垣隼人氏には好意を寄せていらっしゃったから、なんとかお近づきになりたいと、社長に言っておられた。
今回、谷垣隼人氏が新設されたグループ企業の会社の社長に就任されて、挨拶をしたいだの、取引の話でなど、何かとコンタクトを取れるように我々も手を尽くしたんだ。
まー、社長もお嬢さんが谷垣隼人氏と結婚ともなれば、万々歳なんだろうし……」

……お見合い。
そうか、ハヤとの結婚は皆が狙っている。

これから、結婚適齢期にはこんな話はごまんと来るだろう。
ハヤも、仕事の関係上断ることもできないし、もしかしたら、気に入る女性ができても不思議はない。

さっき、社長の娘と話が弾んでるハヤの顔を思い出した。


身なりも、立場も、違うオレたち……。


距離を感じる。


それに……


オレはどう頑張ったって、ハヤと結婚はできない。

性別の壁が、さらにオレたちの距離を広げている気がして、絶望感が襲う。



「スイマセン……ちょっとトイレへ……」


オレはベテラン秘書にそう言うと、ふらっと広い料亭の廊下の奥へと足を向けた。


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