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イギリスから

3. 《隼人side》今の自分も、そして未来の自分もなげうってでももう一度、あの翼に触れてみたかった。

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《隼人side》

俺は空港に着き、すぐに日本行きの便を探した。

2時間後のロンドン羽田間にキャンセルが出て運よく乗ることができたが、そこからまだ12時間も飛行機の中で不安なときを過ごさなくてはいけないのかと、気持ちばかり焦るのだった。


小学2年生のとき、学校のクラスメートは皆ライバルだった。

それに俺はキャッスルプレスの4代目ということで風当たりもきつく、先生もやたらヒイキするものだから、俺の周りには同年代の話をする子すらいなかった。
大人の中で息苦しさを感じ、父さんからは4代目としての心構えを叩きこまれ、体と精神の鍛錬として空手を習えと強要されていた。


俺は逃げ出した。

初めて家に逆らった。

俺の心を分かってくれる誰かがほしかった。


外の世界を知らない俺が、結局途方に暮れた川原で、夕暮れの光の中ボールを追いかけて近づく男の子。
話しかけられたこと自体驚いたが、彼の話す言葉は魔法のように俺の暗く沈んだ心を溶かしてくれた。
そして夢中になっているものの話しを沢山してくれた。

ヒーローもののテレビ番組、サッカー、人気のスポーツ選手、今ハマっているクラスでの遊び、学校の先生のモノマネや、家族のこと。

ころころと表情を変え、屈託なく話をする彼の姿は夕日に照らされて輝き、まるで翼が生えているかのように光の中で舞い踊っていた。

もっと、彼の側に居たい。

彼の話に夢中で聞き入っていると父さんの秘書に見つかり、連れ戻された。
でも、俺の心は決まっていた。

『敵が現れたら、そいつの弱点とか調べて、そんでそいつ倒すために鍛えるんだぜ!!』

父さんの弱点。それは約束だ。
一度した約束は絶対に守る。それは人の上に立つ者の絶対条件だ。
常々言っていた。

だから、少しでも言葉で誤魔化したり、できもしない事を言ったりはできなかった。
それは目標のできた俺には好都合だった。

約束をした。

今の自分も、そして未来の自分もなげうってでももう一度、あの翼に触れてみたかった。



普通の学校がこんなに楽しいなんて思いもしなかった。

進学校から転校して来た俺の事をとやかく言う輩はいるとは思ったが、俺は彼、ナツの側に居られるようになったことだけで十分だった。
それなのに、ナツはまた俺の想像を超え、大きな翼を見せてくれた。

『俺の親友をコソコソ悪く言うんじゃねー!!』

まっすぐな心。強い眼差し。
俺は魅了され、初めて男としての興奮を覚えた。

だが、その興奮とは裏腹に、ナツの言う「親友」という言葉は俺にとってどんなものにも変えがたいものとなっていた。

ナツの強い心、羽ばたき自由に舞う姿を目の当たりにするたび、自慰行為を繰り返す。
あれが全て自分に向けられたら、どんなに幸福な気持ちになるだろうか。

そう思いながらも「親友」という特別な場所で過ごす日々を崩すことは出来なかった。



17歳……約束の歳。

父さんは覚えていた。
いや、待ち望んでいたんだろう。
俺もそれに関して文句などなかった。

……はずだった。



最後に親友の枠を壊した。
そして、悔いなくこの谷垣家の屍になろうと決意した。

だが、俺の予想に反し、ナツが……あのナツが……
俺に全てを捧げてくれると言ったのだ。
そして、ナツ自身、俺をほしいと言ってくれた。


だが、彼の翼、自由を奪うことはできなかった。

黙って出て行った。
もともとその予定だった。
もう、全てを捨てるはずだった。

……でも……




俺は飛行機の中、首からかけているネックレスを眺める。

そこには、ナツの首輪にかけていた錠前の鍵がぶらさがっていた。


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