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イギリスから

2. 《隼人side》なぜ、ナツが俺の実家に?

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《隼人side》



「おい、日本から緊急の電話だって」

同室の男が俺に話しかけてきた。


ここはロンドンの大学の寮。
俺は夢のようなあの夏休み最後の日からこの現実へと歩みだし、一ヶ月が過ぎ去ろうとしていた。

俺に緊急の電話って……。
なんだろう。

一階の事務所に行き、寮生証明書を提示して受話器を受け取った。

「はい……」

「隼人さん!! 隼人さん!!手島です」

電話の相手は父さんの秘書の手島さんだった。

手島さんは完全に父さん付きの秘書で、若いのに一番の古株らしく、俺とはほとんど会話をかわしたこともない。
父さんと俺との連絡役は別の秘書やハウスキーパーがしていたので、手島さんが直接俺にコンタクトを取るなんて今までに無かった。

よほどの緊急なのか?

「どうしたんです?」

俺は至極冷静にと心がけて受け答えをした。

「夏斗くんが……。夏斗くんが……」

「!!!!」

なぜ手島さんの口からナツの名前が出たのか!?

一瞬わからなかったが、あの父さんのこと、どうせ全て調べ上げていることは間違いなかった。
だが、この手島さんの慌てようで俺の心もざわついた。

「な……ナツを知ってるの!?
ナツがとうしたんです!?手島さん……」

「今、夏斗くんは谷垣家のお屋敷にいらっしゃいます。
そして、調教を受けています」

なぜ、ナツが俺の実家に?
それに、調教?

頭の切れる手島さんの言葉が的を得ていない。
俺の中で不安が膨らむ。

「わ……わたしは長年、社長のお側に遣い、社長の性奴隷としてお仕え申し上げてまいりました。
そして今度は夏斗くんが、社長のご指示で、隼人さんの性奴隷としてただ今調教をされています!」

せ……性奴隷!!!!

手島さんから予想もしない言葉が飛び出し、俺はパニックになった。

ええっ!?手島さんって秘書だよな……。
いや、でも、俺の記憶では俺が産まれた時から父さんの側に居た。
その時手島さんはまだ20歳ごろだった。
その頃からお爺さんに付いていた秘書より古株ってことは……。


そして……今度は俺の性奴隷として……!?

ナツが!!!!


俺は言い知れぬ不安と恐怖を感じ、もう一度手島さんに聞き返す。

「せ…性奴隷って……」

「スキャンダルを回避すべく、私が社長の…その…お相手をずっとしてきました。
社長は、浜崎夏斗くんも隼人さんにとって私のような存在なのだと勘違いなさっているのだと思います」

ぞくりと背筋に寒気が走る。

父さんが、男の手島さんを相手に……。
しかもその理由が谷垣家のスキャンダルを回避するためだなんて……。

ただそのために、ただ自分の欲望のはけ口にするために

ずっと側に手島さんを置いていたなんて!!!


俺は心底父さんに怒りを覚えた。

「隼人さん、すぐにお戻りになってください!!
調教は進み、明日、実践となります。
何人もの男性を雇い、夏斗くんはもう、あなただけのものではなくなる!!」

「なんだって!!!!」

俺は事務所の電話を荒々しく切ると、すぐに空港を目指しタクシーを走らせた。



タクシーの中、俺は怒りでどうにかなりそうだった。

震えが止まらない。

ナツが、ナツがどんな想いで、俺の実家に居るのか。
そしてどんなことをされたのか。
無理やり連れて行かれたのか、それとも自分で飛び込んだのか……。

この時初めて、ナツに明かさずここへ来てしまったことを後悔した。



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