キャロット・コンプレックス

田中まぐろ

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第一章~出逢い~

アマテラスの誘い

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 其れは、遠い遠い─────私達「人間」が誕生する前の、哀しい伝説


 「どうか……我の代わりに、”太陽”を照らしておくれ……」

 月の神・ツクヨミによって洞窟に閉じ込められた、太陽の神・アマテラスオオミカミは、永遠の闇に封印されました。

 アマテラスは洞窟の中で日に日に弱っていきました。

 このままではいけないと────
 アマテラスは自身の御神体ごしんたいを五つに散りばめました。

「我の”加護”を持つ者達よ………、どうか……”依代”と共に…、再び世界に”太陽”を照らしておくれ─────」

 いつか────その御神体ごしんたいが五つに合わさった時

「再び世界は”光”に包まれるであろう……」

 アマテラスは美しい笑みを浮かべ、その生命を自ら断ちました──────




 。


 。


 時は現代───────



「二礼二拍手一礼……と───」


 (アマテラスさん……今日もどうか、お父さんとお母さんの機嫌が悪くありませんように。)



「……それでは、行ってきます!」

 今日はなんだか、いい事がありそう───

 私の家の近くにある、東京太神宮とうきょうたいしんぐうは、あの最強の神・天照大御神アマテラスオオミカミが祀られている。どんなお願い事も叶えてくれると噂される、東京で一番の最強の神社としては有名な話。


「あら、いとちゃんおはよう」

「あ、おはようございます」


 丁度鳥居を潜って来たのは、毎朝御参りすると必ず会う、参拝仲間のトメ子さん。
 御年80歳との事。物凄いパワースポットマニアで、国内の神社は全て制覇してるとか……

いとちゃん偉いねぇ、若いのに……」

「毎日御参りしないと落ち着かなくって……。それに──私、この神社が……アマテラスオオミカミが好きだから。」

「アマテラス様も嘸かしさぞ御喜びになっているだろうよ…。」

「そうだと良いなぁ……」

いとちゃんは、天照大御神の伝説は知っているかい?」

「弟のスサノオが原因で、洞窟に引き篭った話ですか?」

「それは、”この世界”での伝説───……」

「”この世界”?」

「もし、スサノオが原因じゃなくて、月の神・ツクヨミが、アマテラスを闇の洞窟に閉じ込めたって伝説が本当だったら……、いとちゃんはどうする?」

「え、えぇ~~~!!そんなまさかあ!!。トメ子さん、またまた御冗談をっ」

「……そうね……、オホホホ御冗談よ~。ほら、いとちゃん、学校遅れちゃうわよ」

「あ、ほんとだ!……じゃ、トメ子さん、また明日ー!!行ってきます!」

「行ってらっしゃい~~」



 。

 。

 私、朝日 愛あさひ いとの趣味は神社巡りと参拝です。
毎朝学校に行く前に、御参りをするのはルーティンとなっている。


「朝日さんって、なぁーんか古臭いってゆーの?」

「毎朝、神社に参拝に行ってるんだってぇ?」

「今どきの女子高生じゃ有り得ないってぇ~!あははは!ちょーウケる!」


「なんか、人生損してそう」

「分かる」

「あ、今日って2時限目数学?」

「うわー、だるっ」

「今日の帰りどこ行くー?」


学校なんて、楽しくない。私の居場所は此処にはない。
 下品に笑って、コソコソと人を貶す事しかできないクラスメート。全然楽しくない勉強。


「……神社の良さも知らない癖に」


 お父さんとお母さんは離婚寸前の状態。物心ついた時から何となく感じていたけど、お互い憎み合っている。なんで離婚しないのか聞いた時、”私が居るから仕方なく”と言われた。


 だからなのか、苦しい時の神頼みじゃないけど、毎朝欠かさず参拝するようになった。


 嗚呼……神社の透き通った...空気……空間
 私だけの特別な時間は、本当にあの朝の一瞬だけ


 キーンコーンカーンコーン……─────


 (あ、今日も終わっちゃった……、帰ろっと……)


 家には何となく帰りたくなかった。
 今日は…………今日は大丈夫かな?
 お父さんとお母さん……機嫌悪くないかな

 ガチャ…

「ただいま───」

いとが居なかったら、アンタとなんかとっくに別れてるわよッ!!」

「なんだよその口の利き方はッ!!!」

(うぅ……早速喧嘩してるよ)


父親と母親の怒鳴り声は日常茶飯事。主に父親が、母親を逆撫でしているのが原因。相変わらず学習しないのが本当に見ていて聞いていて嫌になる。こんな事はかれこれ何十年も続いていると言う恐ろしさ。
耐え切れているのか?…いや、耐えようと
踏ん張っているんだと思う。

「ただいま……」

思い切ってリビングの扉を開けた。すると……

いとが駄目なのはアンタのせいよ」

「俺のせいにするなよ!!子育てはお前の仕事だろうが!!」

誰のせいで、こんな出来の悪い子供が生まれてしまったのか…────
帰宅した娘に気付かず、更にヒートアップしていた。元々二人は感情を抑えるのは得意ではない。仕事先でも相当苦労している事は、家で良く零していた。



(やめて)


「お父さん!お母さん!やめて!!」

いと…」

やめてよお願い

いとが居なかったら………、こんな思いせずに済んだのよね。中絶する罪悪感に押し潰されるくらいなら……って、思ってたけど───……いとを物凄く傷付けてる………」

「お前…何言ってるんだ?」

いと……お母さんね、駄目なのよ……──…この世に生んで…ごめんね。」

二人の間に割って入って、やっと気付いて貰えたかと思ったら、虚ろな目をした母は、泣きながら私を一瞥した。
"産んだことへの後悔" "自分の情けなさ"
その他色んな感情が芽生えていただろう。いや、生まれていたんだと思う。
それを今まで出さずに、寧ろ耐えていたんだと……────理解してしまった。

「そんな事言ったらいとが可哀想だろう!!」

父親の怒声に、張り詰めていた糸がプチン──と、切れ

「─────やめてよッ!!!!!」

初めて、父親と母親に向かって怒鳴った。

「…それ……本心なの……?」

「………」

「っ……だったら生まなきゃ良かったじゃない!!好きでこんな所に生まれたんじゃないんだから!!」


伸びてきたお母さんの手を叩いて、私は家を飛び出した。

初めてだった───

お父さんとお母さんのあんな悲しそうな顔を見たの。


「っ……」


溢れる涙は止まらなくて、このまま消えてしまいたかった。
私は生まれない方が良かったんだ。だって、お父さんとお母さん、いつも仲悪いし、私が居るから仕方なく一緒に居るって……言ってたもんな……。

2人の幸せを……私が奪ってたって事?……


「っ……あれ………」

いつの間にか、東京太神宮とうきょうたいしんぐうに来ていた。
辺りはもう暗くて、なんだか少し不気味だった。
それでも、私の足は鳥居を潜ろうと進んでいた。

(もう……私には居場所がない。私は……誰からも必要とされない────)


ピチョン……────────


水滴が落ちる音が響いた。
いとは驚いた────鳥居を潜った瞬間、洞窟のような場所に、立ち尽くしていたのだから。
それでもいとは、吸い込まれるように洞窟の奥へと進んでいく。


すると──────


「何コレ…?」




剣……にしてはとても細い。

「えーと、確か……なんか漫画とかで見た事あるかも……」

スマホを取り出して調べてみると

「”レイピア”……」

16-17世紀頃のヨーロッパで使われていた、護身用や決闘などで使う武器────

「なんでこんな所に……こんな物が」

いとは無意識に錆びたレイピアに触れた。


 神國地神球しんこくちじんきゅうを御救い下さい─────》

「え……!?」

カランッ!!───────

咄嗟に愛はレイピアを投げ捨てる。
錆びたレイピアから低い老婆の声が響いた。

《我の問にお応え下さい……汝の名は───》


「朝日…いと─────」


《天照大御神の依代よ……神國地神球しんこくちじんきゅうに光りを──────》


カァァァッ!─────────

レイピアは朝日色あさひいろの光を放ち、五つの名前がいとの脳内に浮かんだ


天道てんどう

落暉らっき

 火輪かりん

 輝日てるひ

 煌あきら


「なに……コレ!?────」


《天照大御神の御神体ごしんたいを持つ者達───人神にんじんと共に、地神球ちじんきゅうに陽の灯る宴会を………》

にん……じん……」

独りでに浮かび上がるレイピアは、いとの周りをグルグルと回転する。回転するのと同時に洞窟がぐにゃりと歪み始めた。

すると───────


「お待ちしておりました……いと殿」

目の前には凄いシワ────
が、凄いお婆さん。服装はなんと言うか……
私の周りでは見た事がない感じ……
観音様みたい!!と、言った方がしっくりくる。

キョロキョロ……と、辺りを見渡すと──神社から洞窟から、次は”儀式の間”のような場所に景色が変わっていた。

「あ……え……此処は────どこ?」


神国地神球しんこくちじんきゅうじゃよ」

目の前に佇む老婆は微笑み、いとは完全に思考が停止した。


「はい!?」



其れは、哀しくも愛しく
孤独な心を抱えた少女が、ひとかみに太陽の光を照らす物語──────
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