私のおうちは、イジワル先生の腕の中

Memory7

「True motive〜本心」(二科side)

私の人生は、否定され続けた、虚しい人生だった。
何をしても否定され、誤解が生まれ、私の周りからは、
人が一人、また一人と、減っていった。
それが、これまでの私の人生。
あの時、私が教師の道を選んだ時も、私が、婚約した時も
両親からも、友人からも否定され、途方に暮れていた。
そんな時、教師になりたての時、救われたのが、
芽唯だった。
芽唯は、私に安息を与えてくれる。
芽唯は、私に休息を与えてくれる。
芽唯は、私が、今までに出会った人間の中で
1番大切にしたい存在なのだと、理解した。

「どうされたんですか？二科 瞳先生。」
「…あぁ。何でもありませんよ。佐々木 軫壐狼先生。」
「もしかして、ほかの先生からの視線が気になるということでは
                                                                                                   ないですよね？」
そうやって、いつものように私の耳元で脅してくる佐々木先生。
「いえ。そんなことはございませんよ。
      むしろ、嫌われているのは、佐々木先生ではないのですか？」
私がそう言うと、佐々木先生は少しムッとしたように、
歩き去っていった。
すると、となりから、同じ学年の担任をやっている野上 弥恵先生が
話しかけてきた。
「二科先生。大丈夫でしたか？いつもいつもあんなこと
                                           言われてるのによく耐えられますよね。」
わたしなら、逃げてますよ。と、少し震えた声で言った。
「私は、耐えてなどいませんよ。
                ただ、ほんとの事しか言ってませんから。」
すると、野上先生は、感心したようにプリントを整理して
職員室から出ていった。
そして、私は、また一人。
この場に、この時に、
残されたのだった。
              ✱
家に帰ってきた。
ドアに鍵を刺しドアを開ける。
真っ暗な廊下。電気を付ける
ただいまという声だけが、暗闇の中に消えていく。
だが、何年か前までは、違っていた。
あれは、ちょうど今から六年前のこと…
あの頃の私は、教師になるため、大学に行っていた。
その時に、前の婚約者と、出会った。
婚約と言っても、形だけのもの。
私がした婚約とは、『同性婚』のこと。
到底、親には受け入れてもらえず、
それよりも酷かったのが、義母親の言った言葉。
「あなたなんて、私が育てた覚えはありません！
                                                 …もう。親子の縁を切りましょう。」
そう泣きながら、義母は、言った。
父は、私を精神科へ連れていき、徹底的に私を調べあげた。
勿論のこと、異常なんて何処にもない。
両親は、私がクスリをやっているのではと、疑い始めた。
その疑いも、すぐに晴れた。
両親は再び、頭を抱え込んでしまった。
私がこうなってしまって事で、何か心当たりがあるとするならば…
私の子供時代の記憶の中にあるはずだ。

私の子供時代は、とても恵まれていた。
代々、医師を目指す家に生まれた私は、色々な
英才教育を受けた。
ピアノ、バイオリン、クラシックバレエ…他にも色々と。
だが、その時間は、呆気なく終わりを迎えるのだった。
始まりは、小学生の頃。
私が、大人数の男子にいじめられたのが引き金になった。
そこから、連鎖的に不幸が訪れた。
まず、愛猫が死に、祖母が死に、私が事故にあった。
私が、入院することになって、
両親は、酷く私を心配したそうで。
でも、私が無事に退院する頃、
両親は、いなくなっていた。
いや、いなくなっていたのでは無い。
死んだのだ。私を残して。
そこから、現実が、億劫で窮屈だと感じるようになった。
その頃に、出会ったのが、新田 夢という同年代の女の子。
その子からとても優しくされて、
しかも、その子に、恋心を抱いてしまったのだ。
私は、あの頃、男子にいじめられたせいで、
男性恐怖症になっていた。
そして、男子に恋心を抱くことも無かった。
それが、始まり。
私が、女の子を好きになってしまう理由。
今となっては、教師と生徒との禁断の関係で、恋心を抱いている。
私は、ダメな人間なのだと、自分に言い聞かせ。
深くため息をつく。
そして、薄暗いキッチンに立つ。
食器棚から、コップを取り出し、蛇口をひねり水を入れる。
そして、コップ一杯の水を一気に身体に流し込む。
コップをシンクに置き、必死にシンクにつかみながら、
廊下の明かりが射し込むだけの薄暗いキッチンで
一人、泣いていた。
まるで、今までのことが、走馬灯のように駆け巡るかのように
昔の楽しかった記憶が、目の前を通り過ぎていく。
私は、深く深く息を吸い、吐いた。
そして、そのまま倒れ、眠りについた。
芽唯の笑った顔を、思い浮かべながら。

第1巻  ～完～